第10話 それぞれの想い

グイッ


突然、抱きしめられる私。



「智耶さんっ!待っ…て…」



それは突然に起きた出来事だった。

バイト終了後、私の前に現れた智耶さん。


当たり前のように気にも止めず車に乗る私。

普通に会話して何も変わりもしない智耶さんの様子。



【送るついでに寄りたい所あるから】



そう言われ私は断る理由もなく、そのまま助手席に乗って移動した。


車で近くの海沿いを移動し一旦、車から降りた、その直後の出来事だった。




「駄目だって分かっているけど胸の中に真裕ちゃんがいた」


「こ、困るよ!」


「夏奈も知ってる。返事はすぐにとは言わないから待ってる」





だけど ――――


薄々、気付いてた


あれからも度々四人で出掛けてる時

お姉ちゃんが晴輝を見ていた事



でも――――




その日の夜。




♪~

『智耶さんに告白された』

『突然の事で驚いているんだけど』



晴輝にメールをする。



♪~


『兄貴から聞いた』

『俺的には全然良いけど』



♪~


『それもそうだよね』

『晴輝にしてみればラッキーな話だよね』



♪~


『そういう事』




その後、メールは呆気なく終わった。






数日後の夜。



「真裕」

「何?」

「真裕の中に晴輝君は存在するの?」

「えっ?」



晴輝の事をお姉ちゃんが尋ねてきた。



「私、晴輝君に想い伝えて良い?」

「それは…」

「だって真裕の中に晴輝君はいないんでしょう?私は、彼が好きだって言えるから!」



「………………」



「……そっか……」




別に二人が付き合うとか付き合わないとか、お互いの気持ちだから私がどうこうじゃない。


アイツは、晴輝は、ずっとお姉ちゃんに片想いをしていて、二人にいつも付き合わされて辛い思いをしていたのだ。



「もう…勝手にすれば?」


「えっ?真裕」


「だけど、私は智耶さんの事は、好きとかそういう想いはない!だからって晴輝がいるわけでもない!だけど…晴輝の事を傷付けたら、お姉ちゃんでも許さないから!」


「えっ?真裕?」


「晴輝は……私の大事な友達だしっ!それに……」


「……真裕……?」


「……ううん……何でもない……もう勝手にして……」




私は自分の部屋に行き、必要な物だけを手に出掛ける事にした。



「真裕?何処に行くの?」

「一人になりたいから」

「何言って…駄目よ!」



引き止める姉。



「ゴメン…今日だけは無理…部屋にいたい気分じゃないから」



そう言うと外出した。






● 津盛家



「兄貴」

「何?」

「兄貴の中には、真裕がいるんだよな?」

「えっ?ああ」

「じゃあ、俺、夏奈さんと付き合って良いかな?」



「晴輝?」


「俺、ずっと我慢して二人に付き合ってきた。途中から、アイツ、真裕が加わってから、俺はアイツに自分の想いを伝えて随分と気が紛れたんだよ」


「…晴輝…」


「俺は、真裕の事は特別な感情はなくても、これだけは言わせて貰う。真裕を傷付けないで欲しい。友達として、アイツの傷つく姿は見たくないから」



「それはないから」


「だったら良いけど」





そして、俺は、自分の部屋に行く。




「メール?…真裕?あのバカっ!」



俺は自分の部屋を飛び出した。



「ちょっと出かけて来る!」

「晴輝っ!何処に行くんだ!おいっ!待っ…」



兄貴の言葉を最後まで聞く事なく、俺は、玄関を飛び出した。




「夜の街、一人じゃ危な過ぎだろう?」




●街中



私は一人ブラつく。



「彼女、こんな時間に一人?」

「ねえ、遊びに行かない?」

「結構です」



次から次へと声をかけられる中、私は足早に去る




「…夜道は…一人じゃ…危ないって分かっていたけど…」




私はバイト先に行く。


勿論、開いてないと分かっていたけど…



案の定、【クローズ】の札が下がっている。


店内も真っ暗だ。


時間は11時を回っている。



「本当…馬鹿だ…」



帰ろうとした、その時。



「…真……裕……?」


「……晴……輝……?」



私は走り去ろうとした。



グイッと腕を掴まれ引き止められた。


「離してっ!」

「離せるわけねーだろ!」



「…メール見て…何かあったらって、そればっか考えて部屋を飛び出してた来たんだからなっ!」


「……どう……して……?」


「えっ…?」


「どうしてよっ!」




一人になりたくて、一言、晴輝に、



『もう勝手にして!一人になりたくて部屋を飛び出した。お姉ちゃんを宜しく』



そのメールを送信した。




それが逆にいけなかったようだ。




一人になりたいのに、部屋を飛び出した挙げ句、私の前に現れたのは、いつも憎まれ口を叩き合う晴輝に遭遇した。


だからって、智耶さんと遭遇するのは抵抗がある



正直、会えたのが奇跡なのだろうか?





「真裕……」


「私なんか放っておいてよ!一人になりたいって送ったじゃん!お姉ちゃん心配してるだろうし、大丈夫だったって伝えて!」



走り去ろうとする腕を再び引き止められる。




「会って連れて帰らねーのって人間としてどうなの?お前が帰らねーなら俺も帰らねーから。兄貴にでも連絡して一緒にいるからって伝えるし」



晴輝は、携帯を取り出す。


晴輝の手を掴み、止めた。



「…………」


「誰にも連絡しないで……私は……」




キスされた。



「兄貴に、夏奈さんの想いを言った。付き合って良いかな?って……兄貴は承諾してくれた」



そして、抱きしめる晴輝。



「だけど……真裕を傷付けないで欲しいって……言っておいた」


「晴輝……」


「お前は俺の大事な友達だからって」


「そんなの私だって……一緒だよ……だから……お姉ちゃんに……晴輝を傷付けたらお姉ちゃんでも許さないからって……友達だからって……」


「……真裕……」


「好きとかそういう想いはないけど……晴輝の片想いが実るのは良い事だけど…嬉しい事だけど……まだ、心から喜べない……だけど…晴輝には幸せになって欲しいから」


「真裕……サンキュー、それで十分だから。お互い別の道かもしれないけど…友達だからこそ出来る信頼性があると思うから」


「晴輝……」


「何かあったら相談し合えたりする関係でいよう真裕……。俺、お前がいたからここまで来れたんだから。とにかく帰ろう。一人になりたいの分かるけど俺も同じなんだよ。だけど何かあったら夏奈さんも俺の兄貴も心配する。俺ら未成年なんだから」


「晴輝……うん…」




私達は津盛家に行き、そこから送って貰うことにした。






























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