第9話 クリスマス~あなたの想いとイタズラなキスの契約 ~

「真裕ちゃん、クリスマスとか何か予定ある?」



和幸さんがバイト中に尋ねてきた。



「いいえ、全くと言っていい程ありません」

「えっ?マジで言ってる?可愛いのに」

「じゃあ立候補しますか?なーんて!私じゃ恋愛対象になりませんよね?」

「検討してみようかな?」


「えっ!?」


「なんて嘘。あいにく俺、彼女いるから。いなかったら立候補しても良かったけど」


「えっ?本気で言ってます?」


「うん。いや、真裕ちゃん可愛いし、彼氏いてもおかしくない雰囲気だから、いないのには本当に驚いたよ」


「まあ、和幸さんに彼女いてもおかしくないないので冗談だって思ってましたけど」



私達は色々話をしていた。





その日の夜。



「お姉ちゃん」

「何?」

「クリスマスの24、25は、智耶さんとデート?」

「一応ね」

「一応って…」


「社会人になると年末年始控えているからね。結構、忙しいのよ」

「そうかぁ~」

「そういう真裕の予定はどうなの?」

「私?バイトだよ」

「そうなのね」

「うん」



愛澤家の夜は更けていく。






12月24日。


クリスマスイブ。




「真裕ちゃん、イブなのにごめんな」


「いいえ!大丈夫です!どうせ暇なんで。それより和幸さんは良かったんですか?せっかくのイブなのに彼女さん淋しいんじゃ…」


「仕事終わった後、会う約束してるから」

「そうかぁ~。羨ましいです。私は相手いないから」


「だけど真裕ちゃん可愛いし告白して来る子いそうなのに」


「全然です。確かに告白される事はあったけど良い恋愛してないので」




――― PM 9:00 ―――



私のバイト時間は終わった。


外は雪が降り始め、街中はクリスマスイルミネーションで輝き、カップルや家族で賑わっていた。




「クリスマスイブかぁ~…淋しい…」



グイッ

私の首を背後から誰かがヘッドロックした。



ビクッ

突然の事に驚く。



「きゃあっ!」

「シングルベルの愛澤 真裕さん」

「えっ?」




私の顔の真横には見覚えある顔。


顔なじみのアイツだ。



ドキッ

かなりの至近距離。


ヘッドロックを外し肩を抱き寄せる。




「は、晴輝ぃっ!?つーか、顔近っ!その前にどうしたの?」


「ラブラブな兄と君のお姉さんに頼まれた」

「えっ?頼まれた?」

「そっ!真裕をお願いしますって」



「…………」



「…そうなんだ…晴輝は辛くないの?」

「えっ?」



抱き寄せた体を離す。



「だって…晴輝はお姉ちゃんが好きなのに…別に私の事は良いんだよ…適当に過ごすのに…お姉ちゃん達は晴輝の想い知らないから…」


「…真裕…」


「私は晴輝の想い知ってるつもりだし…」

「…お前…」

「晴輝、二人に頼まれたからって…無理しなくて良いから…正直…私が辛いよ…」



晴輝の両頬を優しく包み込むように触れる。



「真裕…」


「私の前では本当のありのままの晴輝で良いから…辛いなら辛いって言って良いから…頼まれたなら頼まれたで無理して笑顔見せなくて良いから」


「…本当…お前…俺の事良く知らないくせに…ムカつく程…悔しい…でも、お前と出会ってお前が俺の想い知ってくれてて、どんだけ助けられた事か…」


「晴輝…」


「お前とは、もっと早く出会ってれば二人のデートの付き添いも辛くなかったんだろうな…」



私の両手に重ねる晴輝。


ドキン



グイッと抱きしめた。




ドキッ



「…晴輝…」

「お前だけは俺の傍でずっと見守ってくれよな」




ドキン



「これからお互い恋愛が絡んでくるような気がしてならなくて…お前との時間がなくなりそうな気がする…」


「その時は、晴輝が幸せになる瞬間でしょう?私は…晴輝を応援するから」


「真裕…」


「晴輝は幸せになるチャンスあるよ!いつか必ず」






私といる晴輝は


ありのままの晴輝だ


いつもからかって


意地悪してくる晴輝



お姉ちゃんは


本当の晴輝を知らないから


私達の間に


本当の姿が


見え隠れしている今


きっと


私達の関係は


壊れていく気がして


ならなかった






「真裕…」

「何?」


抱き寄せた体を離す晴輝。



ドキン


おでこにキスされた。



「えっ?晴輝…ちょっと何する…」

「唇でも良かったけど辞めた」

「バカッ!いきなり何する…」



唇にチュッとフレンチキスされた。



「ちょ、ちょっと!晴輝っ!何、人の許可なくキスするのさっ!」



グイッと私の手を掴み走り出す。




「お互い初キッス位、契約金としても良くね?」


「良くないよ!好きでもないのにキスするなっつーの!しかも、契約金って何?」


「何かあった時、傍にいられる契約金。お金の代わりにキスで…俺達の間に、それぐらいの条件あっても良いっしょ?もしかして真裕は、初キッス済んでた?」


「済んでないから!って言わせないで!」

「じゃあ、お互い様だな」



私達は、騒ぎつつも移動する。


そして、私のお泊まりセットと思われる物は既に津盛家に置いてあった。



「準備万端なんですけど…」



クスクス笑う晴輝。




「俺等の関係って余程二人にしてみれば信頼されてるってやつ?嬉しい部分と複雑な部分あるよな」



「本当だよ!」



スッと背後から抱きしめる晴輝。


ドキッ



「わぁっ!ちょっと何…」



頬にキスされた。



「顔赤いよ~真裕ちゃん」

「いきなり抱きついてキスするから!」

「今、唇にはしてねーけど?」

「あのねーっ!お姉ちゃんの事好きなくせに、こういう事するなっ!」



クスクス笑う晴輝。



再びキスをし、晴輝は意地悪をして私をからかうように私をソファーに押えつけた。



「ちょっと!」


「はいはい。嘘だよ!」



頭をポンとする晴輝。




そして、晴輝の携帯が鳴る。


メールのようだ。



「ウケる。兄貴達、騙されてる」

「えっ!?」



メールを見せてくれた。



さっき、私の頬にキスした瞬間を晴輝は写真を送ったようだ。



「ちょっと!これ…」



メールの内容は、俺達、付き合う事にしましたと嘘のメールだ。


二人は本気で信じた様子だ。



だけど、これが後に私達の関係が変わっていくのだった。










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