第3話 あの少年

「な…アジェ!どうしたんだ急に…!」


何が起こったのかはっきりとはわからない。

でもただ一つ言える事は、目の前にいるアジェは普通じゃ無い、凶暴化している…

緑色に光った目、鋭く尖った爪先、そして何より…人間離れした力…

再びアジェが襲いかかってくる。

速い。このままじゃ殺される…


「目を覚ましてアジェ!頼む!頼むから!」


だが僕の声は届かない。


「このままでは…」


まずい、今度のは避けられない。

そう思った瞬間、一本の矢がアジェの首を貫いた。

呻き声を上げてアジェが倒れる。

急いでアジェのもとへ駆け寄った。

だが、おかしな事に首から出血している様子はない。

どういうことだ…?


矢が放たれた辺りを見ると、一人の少年が弓矢を持って木の上にいた。





…あの少年だ。

あの時、僕だけに見えていた、あの少年…

確か、腕を怪我していたのにその怪我の痕はどこにも無かった。


…アジェの呼吸は安定している。

怪我をしているところも無い。



その少年が木から降りて向こうに去ろうとした。

どう言うことなんだ…何一つ理解できない…

今、一体何が起こって凶暴化したアジェは元に戻ったのか。

そして、少年は何者なのか。


「ねぇ!君、さっき隣の村にもいたよね、君一体何者…?」


やはり返事はない。

思い切って少年を追いかけて腕を掴んだ。


すると、今まで無表情だった少年の顔が一変し、目を丸くして驚いている。


「お前…なんで俺に触れるんだ…?」


声が少しだけ強張っている。


「触れる?触れるってどういう事?」


そう尋ねると、少年は落ち着いた表情を取り戻した。




「…だって俺は、死んでるから」

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