第2話 凶暴化

(帰り道の馬車にて)


「はい、どうぞ。温かいお湯です」

「ありがとう。あったまるよ」

「最近さらに冷え込んできましたからね〜。」


いつも通りのテンションでアジェと話しているものの、頭の片隅ではずっとさっき見た男の子のことを考えていた。

アジェはいないと言っていたが、自分は見た。

もしあのままの出血量で放置しておけば、とても危険な状態だ。

あの子は大丈夫だろうか…


「そういえば、さっき先生が誰もいない所筈の男の子がいるって言ってましたよね」

突然その話を振られて少し驚いた。

「う、うん」

「それ、守護者様じゃないですか?!」


アジェは目を輝かせている。だが、守護者様って…なんだ?


「守護者様?」

「はい、この世界で多発している人間凶暴化から人々を守ってくれる守護者様。凶暴化が起きた時、凶暴化した人がプツリと糸が切れたかのように動かなくなるという現象が起きるのは、守護者様が守ってくれているからなんだそうですよ!」

「そんな、目に見えないのに何を根拠に…」


僕は半信半疑で聞いていた。

そんな人がいるのなら、もっと早くにこの戦いは終わっているはずだ…



「でも本当にいたら頼もしいですよね、みんな凄く怯えていますから」

アジェは相変わらず目を輝かせてワクワクした様子だ。


「いたら頼もしいね、さ、もう着くよ」


そしてもう一度お湯の入ったコップを口元へ持って行ったと同時に馬車が大きく揺れた。


「おっと…今すごい揺れたね、お湯がこぼれ…」


視線を前に戻すと、アジェの姿がなかった。

つい数十秒前まで目の前にいたのに。

まさか、さっきの揺れで馬車から落ちたのでは…と思い、振り返ろうとしたその時、

突然上から降りてきたアジェに首を掴まれ、

馬車の外に投げ飛ばされた。


「ア…アジェ…」

どうやら様子がおかしい。

目つきが今までとまるで違う。

まさか…


「きょ…凶暴化だ…」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る