永世のエルヴィス
田崎 和
第1話 ある少年
「おい、また凶暴化が起きたのか、今月で何件目だよ」
「隣町の貴族の娘も凶暴化したらしいじゃないか、一体どうなっているんだこの国は…」
「いてて…さっきの凶暴化で右手を深くやられちまったみたいだ」
「おーいムーラ先生!こっちに負傷者がいるぞー!診てやってくれ!」
「わかった、すぐ行くよ。
はい、これで止血できました。
でも頭から出血しているから暫くは横になって安静にしておくこと」
「はい…ありがとうございます」
最近はこの手の仕事が多い。
人間の凶暴化。もう何百年も前から人類はこの恐怖と戦っている。
いつ、どこで、誰が凶暴化するかわからない。
専門家たちが凶暴化発生の規則性や関係性を調べているが、未だ何一つ真相は分かっていない。
僕にできることは、せめて凶暴化によって誰も命を落とさないように患者の治療に専念する事だ。
「ええっと、これで負傷者は全員…」
そう思って周りを見渡していると、男の子が横を通り過ぎた。
驚いた。
その男の子は腕から大量に血を流しているにもかかわらず、なんでもないような顔をして歩いている。
僕は思わず、声をかけた。
「君、そこの君!」
だが男の子はそのまま歩いて行ってしまった。
「ん?ムーラ先生、誰に話しかけられているのです?」
看護師のアジェが不思議そうな顔をして僕を見ている。
「え?いや、あっちに男の子が歩いていったじゃないですか、彼、手を怪我していたから…」
「?誰も歩いて行きませんでしたよ?」
「え?」
そんなはずは無い。
確かに血を流しながら歩いていた。
なのにアジェには見えていない…?
「昨日は徹夜で30人も治療してたから疲れてるんじゃないですか。あまり無理はしないでくださいね」
「あ、あぁ…」
疲れが溜まっているだけなら良いのだが…
「あの子は一体…?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます