第11話 彼の捜し人
レナロッテの告白に、ノノは縦長の瞳孔の目をこれでもかというほど見開いた。
「あんたが! オレンジブロンドの美人!?」
「び、じんか、どうかは……」
「いやいや。謙遜しなくていいよ、蛭のくせに」
照れる女騎士を子狐が容赦なくぶった斬る。
髪は粘体に包まれて見えないが、分厚い紫の隙間から覗く瞳は確かに青色だ。
「紺の、ふく。騎士の、正装。わたし、をさが、す、騎士はブルーノ、しか、ぃない」
「ブルーノって、あんたの婚約者の領主の息子だっけ」
こくんと頷く。
「でも、ボクが会ったのが本当にブルーノって人か解らないけど?」
疑うノノに、レナロッテは動かしにくい魔物の口で、たどたどしくだが精一杯説明する。
「ブルーノは、黒髪。わ、たしより、背が、高い」
子狐は記憶を辿る。
「髪は黒だった。背は、あんたの元の身長知らないけど、大柄だったよ。お師様より高かった」
「わた、しより、二、歳、うえ」
「ボク、あんたの年知らない」
「に……じゅう、さん」
と、いうことはブルーノは二十五歳。
「もっと年上に見えたけど。でも、ボク、大人の年齢って見た目で当てられたことがないから参考にならないよ」
なにせ、何年経っても容姿の変わらない師匠が隣に居るのだから。
「ブルーノは、美形」
レナロッテは外見的特徴を言ったつもりだが、これではただの
ノノの出会った彼は、美丈夫というより偉丈夫な部類の容姿だった気がするが……。
「ボクの美的基準はお師様だから、他はみんなジャガイモだよ」
比較対象が世界トップクラスだった。
ノノの曖昧な証言でも、レナロッテが確信を持つには十分だった。
「きて、くれた。ブルーノが……」
小刻みに身体を震わせ、紫の涙を流す。
「ブルーノ、どこに、いる?」
「もうここにはいないよ」
ノノは面倒臭げに答える。
「明日から国を離れるって言ってた」
「……がい、ゆう」
レナロッテは、その理由を知っていた。
彼女が怪我した任務の後、ブルーノは所属部隊の騎士達と共に父である将軍の外遊に同行することになっていたのだ。その間、レナロッテはペルグラン伯爵家に残り、結婚式の準備をするはずだった。
外遊の日程は三ヶ月。帰国後、二人は結婚する予定だった。
「わたしの、こと、わすれ……たかと、おもっ……」
その場に泣き崩れた彼女はヘドロの山のようで、ノノは顔を引き
「さん、かげつご……わたし、は戻れ……ますか?」
必死に訴えるレナロッテに、フォリウムは頷く。
「一緒にがんばりましょう」
人間にとって希望は最高の薬である。
魔法使いはそれをよく識っていた。
「そろそろ石鹸が固まった頃ですね。型から外しましょう」
ノノを膝から下ろして、フォリウムは立ち上がる。
「でも、その前に……」
辺りを見回し苦笑する。
「掃除をしましょうか」
狭い室内でレナロッテとノノが追いかけっこしたせいで、床も壁も紫まみれになっていた。
恐縮して盥の中に沈み込むレナロッテ。
「……治ったら、ペルグラン伯爵家にこの家の立替費用を請求しましょうね。絶対!」
ノノは断固たる決意を胸に、頬を膨らませながら雑巾を絞った。
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