第20話 これからの関係

 あの騒動から数日が過ぎたある日の夕方のことだった。

 隷属魔法の魔法書も読み終わりそうというところで、外から車輪の音が聞こえる。そして音が止まってすぐに扉がノックされた。


「はーい」


 あたしはひとまず扉の覗き穴から外の人物を確認すると、見覚えのある人物だった。


「お久しぶりです。アリア・ミリアーナです」


 あたしは扉を開ける。


「お久しぶり……兵士に届けさせるって言っていなかった?」

「おまたせしてしまったのと、この後に隣の街へ仕事があるので」

「そういうこと。さすがに、あの額はすぐに用意できなかったかしら?」

「いえ、どちらかと言うとあなたをスカウトするとかしないとかの謎の会議が始まってしまいまして」

「えぇ……お断りよ?」

「わかっています。ひとまず、現状はこの場所は私と今日来ている部下しか明確にはわかりませんので、ご安心を」


 ご安心っていうほどじゃないけど、そもそも森を探索すればすぐ見つかっちゃうし今更かな。


「それで、金額についてなのですが。どうしますか? 物量的にもかなりになってるんですが」

「いい加減もう少し大きい単位作るべきだと思うのよね」

「それは私も思ってますが、すぐにどうこうはできませんよ。念のために大きめの金庫も持ってきましたが、購入していただけるなら、そこに入れて倉庫などまで運びますが」

「あら、それは助かるわ。じゃあそれでお願い」

「では、金庫代は引いておきますね」

「倉庫はこっちよ……あぁ、馬車は入れないかも」

「まあ男の部下も多いので大丈夫でしょう」


 ミリアーナさんがそう言うと、兵士の何人かが腕の筋肉を誇らしげに見せてきた。


「愛されてそうね」

「あはは……」


 苦笑いしつつミリアーナさんを倉庫まで案内する。

 最低限物は入るように整理したし大丈夫なはず。

 金庫は思った以上に大きかったり、お金の量も見たことないような金額だったりと驚きは有りつつも、きっちりと受け取ることができた。


「それでは、また何かありましたら」

「ふふっ、大口でまた売りにいけばいいかしら?」

「それは、もう少し日を開けていただけると……」

「冗談よ。まあ、何かあったら……あ、そうだ。じゃあ1つ頼みたいことがあるんだけど」

「はい?」

「アルミシア家って知ってるかしら?」

「いえ、聞いたことありませんが」

「最近屋敷が売りに出された可能性があるんだけど。少し調べてもらえないかしら? 情報料とか必要なら払うわ。元貴族らしいし、国のほうで調べてくれれば見つかりそうだと思うんだけど」

「個人情報までいくとなんともですが、家や屋敷の情報って言う事ならわかりました。見つかったらまた手紙か家に伺います」

「お願いするわね。仕事も気をつけて」

「ありがとうございます。では、また」


 馬の鳴き声とともに馬車は出発して森の奥へと消えていった。

 森を横切ってどこの街につくかをあたしは知らない。今更ながらに、どれだけ閉鎖的に暮らしていたことか。


「あ、あの、誰だったの?」

「ちょっとした知り合いよ」


 家の中に戻るとリリアちゃんが待っていてくれる。

 ちなみに、リリアちゃんにはひとまず家事とか日常生活の術を一から教えている所だ。


「そうだ……リリアちゃん。ちょっといい?」

「なに?」

「少し提案があるの」

「う、うん……?」


 あたしはリリアちゃんの手を握りしめる。か弱いこの手で、重いものを背負ってるんだもんね。

 まあ、隷属魔法の魔法書を読んでいて思いついたあたしなりにリリアちゃんも納得できそうな案がひとつだけあった。


「あたしとゲームをしましょう」

「は?」


 何言ってるんだこの人みたいな顔をされてしまった。まあ、そうだよね。


「期間は1年間。判定は完全に魔法に任せっきりになるわ」

「ど、どういうことよ」

「隷属魔法で互いに契約をする魔法があるの。それを破れば破った側はたとえ契約魔法を発動した側でも罰を受ける。ルールは簡単。期間内でリリアちゃんがあたしと離れたくないと心の底から思ったらあたしの勝ち。あなたにはあたしの家族になってもらう」

「えぇっ!? ……わ、私が勝ったら?」

「あなたの元の家の屋敷を買ったり見つける補助とその後の生活費とか面倒を安定するまで見てあげる」

「で、でもそんなことじゃ、また」

「甘えじゃないわよ。だってあたしが勝ったらあたしにもメリットがあるし、場合によってはリリアちゃんは屋敷を買うどころか、あたしの元から離れられなくなるんだから」

「そ、それは……そうだけど」

「どう? やる? やらない?」


 ただ甘えていると悩むなら条件をつけて、合法的に受け取ってもいいという状況にすればいい。これがあたしなりの答えだ。


「やる! シエーラさんが考えてくれたことだし、それなら交渉というか一方的じゃないから」

「じゃあ契約成立ってことで。あとはもうひとつ手順をふめばこの魔法は成立よ」

「な、何すればいいの? 紋様とか?」

「キスよ?」

「はえっ!?」


 リリアちゃんの顔が真っ赤に染まった。


「な、なな、なんでキ、キシュ!?」

「いや、最悪お互いに自分の魔力を相手に送れればいいんだけど、うちに道具とかないからキスか一夜を共にするしかないけど……後者のほうがいい?」

「キ、キスでいいです」

「よかったわ」


 少し残念だけど。ってあたしは何を考えてるんだ。


「じゃあ、いくわよ」

「は、はい」


 あたしは彼女のためにもそんな時間をかけないほうがいいと考えて、顔を近づける。

 ていうか、やばい顔近い。すっごい近い。

 魔法書で見つけて思いついた時は、あたしすごいとは少し思ったけど、これかなり恥ずかしいんじゃ。

 意識してると一生終わらない。ここまできちゃったしやるしかない。

 あたしは若干緊張しながらもリリアちゃんを唇を重ねて、魔力をすこし送る。反対にリリアちゃんからも魔力があたしの中に入ってくるのを感じてから、唇を離した。


「お、おわった? って、シエーラさん?」

「な、なんでもないわ! ちゃんと、ちゃんとできてたから!」

「そ、そうですか。なんで、後ろ向いて」


 やばい、リリアちゃんの唇柔らかかった。キスとか初めてだけど、なにこれ。

 すっごい恥ずかしい。だけど、癖になりそうで怖い。絶対あたしの顔は今真っ赤に染まってる。


「ほんとにだいじょう――」

「大丈夫だから今は放っておいて!」

「シエーラさん!? ちょっと、ほんとに大丈夫なの!?」


 あたしは思わず部屋に逃げ込んだ。

 まさかここまで考えも感情もぐちゃぐちゃになるとか予想外だ。


「もう、なんなのー!!」

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