第19話 帰宅

 スライムも倒し終わった。

 ひとまず、リリアちゃんの体で目に見える異変がないかを確認する。


「あ、あの……シエーラさん。なんで……」

「はぁ……帰るよ」

「えっ?」

「本当は心配かけんなとか色々ひっぱたきたいくらいのこともあるけど、あたしも察せなかったし。今やると力加減間違えそうだから……とにかく、帰って体温めて、話はそれから」

「で、でも」

「いいから!」

「は、はい!」


 あたしはリリアちゃんの腕を逃さないように握りながら家までの道を歩きだした。

 特に会話もなく、それ以上の事件が起きることもない。

 家にたどり着いて改めて自分たちの姿を見ると酷い有様だ。

 リリアちゃんは服の原型なんて殆ど残ってないし、あたしだってボロボロだし、ところどころ焦げてしまっている。

 なんか、もういちいち時間待つのも面倒くさいな。

 あたしは色々考えるのもあれなので、ひとまず風呂場まで直行する。


「え? あ、あの」

「別に女だし一緒でもいいでしょ。夕飯の時にはお湯張っておいたからぬるくはなってると思うけど、入りながら沸かせばいいわ」

「は、はい」


 さすがに状況を理解してるようで、特に反抗もなしに従ってくれる。お風呂そこそこ広くてよかった。

 簡単に体を洗ったりしてからお湯に浸かる。


「あぁ~……何から聞けばいいかわかんないけどさ。とりあえず、部屋のあれは勝手に読んだから」

「そ、そう、ですか……」

「まあ、好きにするどうこうは別にどうでもいいとして……なんで、そんなに意固地になってたの? 頼れとは言わないけどさ」

「それは……書いてたとおりというか」

「書いてたことは、理解できるかはともかくそういう考えがあるのは理解するけど。かといって、あたしに頼むことだってできたじゃん」

「えっ?」

「いや、奴隷の契約なんて最終的に買った後はあたしの方にあるから、店のどうこうってそこまで関係ないから、普通に破棄も可能だし」

「だから、それは甘えそうな、あれが」


 そこだけはどうしても理解できないんだよね。


「なんていうか、甘えると頼みの境界がすごい曖昧だし、なにか交渉を持ちかけたりだってできたじゃない。全部を甘えと思ってる時点で自分に厳しすぎるか、自覚してないくらいあたしのこと好きだったりしたのかしら?」

「うぇっ!?」


 あたしはそう言いながら、リリアちゃんの横まで移動する。顔を赤くしちゃって可愛い。


「ま、手紙に書いてもらったとおり、今までよりは縛り付けるつもりだけど、代わりにもう少しくらい甘えなさい。あたしはそもそも全然甘えてもらった気分になってないから」

「ひゃんっ!?」


 あたしはそう言いながらお湯の中で背中の後ろからリリアちゃんのお腹を抱き寄せる。ついでに紋様の近くにあった、ディスペルの魔法も破壊しておく。


「ひとまず、罰として今日から一週間はあたしと一緒に寝ること」

「は、はい……あの、ほんとに」

「あたしの事寂しがらせて心配にさせた罰よ。帰ったら誰もいないんだもん」

「ご、ごめんなさい……」

「ふふっ」


 体の隅から隅まで温まった所で、お風呂から上がり夕食をとった。

 その後は、お互いに疲れが溜まってたのか、自然と布団に倒れ込むと眠りについてしまう。

 次の日に起きると、目の前にリリアちゃんの寝顔があって、なんとなく自分の家だと思うことができた。

 短い時間だけど、知らないうちにリリアちゃんはあたしにとって大事な存在になっていたみたい。

 ただ、それと同時にどうにも心の奥にいけない気持ちも生まれたことを自覚した。屋敷を手に入れたりしたいって言っているこの子を、あたしから離したくないっていうような気持ち。

 でも、リリアちゃんの願いもどうにかして本人が納得できる形で叶えてあげたい。

 2つとも満たせる方法探してみようかな。


 というか、最近は自分よりリリアちゃん優先の考えになってきてる気がするな。これってどういうことなんだろう。ちょっと自己分析も必要かも。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る