第18話 女神の加護
一体いつからあの状態なんだろう。
スライムは通常種の個体なら小さいからあんなことはない。ただ、人を包み込む大きさも今までいなかったわけじゃない。その時の被害の1つで飲み込まれての窒息死があったはず。
幸いにも天井が崩れて月明かりで視界は良くなった。
あたしは松明を手放して様子をうかがう。
「リリアちゃん!」
声をかけても反応はない。
それどころかスライムがあたしのことも飲みこもうとこちらへと再び動き始める。
「洒落にならないのよ!」
ひとまず走って距離をとる。
スライムなら土魔法で最悪穴におとすか土壁で押しつぶせれば倒せるはず。問題は、リリアちゃんをどうやってあそこから引っ張り出すかだ。
あたし自身が引っ張りだすにしても、少なくとも一度は中に飛び込まないといけない。
土魔法で押し出すことも考えたけど、柱みたいに一点集中で使える物は知らない。あくまであたしが使えるのは地面から面積の広い壁を作り出す。触れた土を一時的に柔らかくすること。そして穴をあけるのと瓦礫で相手を包み込むことくらいか。
ただ最後の包み込むのもこの大きさじゃ壁で押しつぶしてしまったほうが早い気がする。
「うん?」
スライムの攻撃は動きが大きいから回避は簡単だった。ただ、そうしながらも時間は過ぎていき、体の中の様子が少し変わる。
いや、スライムの体の中自体はさほど変わってはいない。ただ、リリアちゃんの露出が増えた気がした。
「そういえば、スライムには服とかを溶かす特性があるんだっけ」
それも長い間やりつづければ最終的には人の体すらも溶かしかねないレベルの。
服が溶け始めたっていうのは正直やばい状態ってことじゃ。
「せめて、縄とか鎖さえあればよかったのに」
スライムの中に入ってから外に自分ごと出る手段がないと行動できない。
あの体の中が泳げるならいいけど、その確証はないし仮にもスライムだって生きている。獲物を逃さないようにと抵抗する可能性のほうが高い。
でも、このままじゃリリアちゃんが死ぬってくらいなら行くしかない。なぜだかあたしはすぐに決断できた。
泳ぐのに邪魔になりそうな物は捲し上げたり脱ぎ捨ててから、しっかりした足場を選んで勢い良くスライムの中へ飛び込む。
そのおかげもあってかリリアちゃんの元まではすぐにたどり着くことができた。
そして、幸運だったひとつのこととして、スライムの体内は完全な水ではなく意識を失いながらも口が閉じてた事もあって、抱き寄せた時にリリアちゃんの意識が戻る。
多分、窒息死した例はパニックを起こしてこれを飲み込んだんだろう。少しねっとりとしてるから、大量に飲み込んだら水よりも喉に詰まりそうだ。
リリアちゃんも目を覚ましてパニックを起こしそうになった所で、一時的に手で口を閉じる。
ただでさえ気絶してたなら空気は残ってないはずだし、今飲み込んだらまずい。
後はここから出ることだけど、あたしたちを包み込んでるスライムの体がうごめいて、肌は少しピリピリする。
まだ溶けることはないけども、徐々にその溶ける力は強くなってきてるってことだろう。
やっぱり考え無しで飛びこむのはよくないな。脱出方法結局思いつかない。
「んぅぅ!」
あたしの一瞬の諦めの気持ちが顔にでたのかリリアちゃんに揺さぶられた。
そうだよ。諦めて死ぬくらいなら最後まで足掻かないとだめだ。病死だとかは受け入れられるけど、スライムに溶かされるとかさすがに穏やかとは程遠いでしょう。
ここから帰ったら半年は絶対に面倒事は引き受けないで生きる。
自分でも謎の決意をした時だった。
『エクスブレイクを使うんです』
そんな懐かしい女神様の声が頭のなかに響く。その名前はたしか爆発魔法の名前だ。
だけど、前世でも今世でも使ったことなんかないんだけど。女神様が直接言っているなら無茶にもほどがないか。
『女神の加護を与えたので、大抵の魔法はどんなものかを理解していれば、一番低いランクでならば使用可能です!』
なぜか親指を立ててる姿を想像をしてしまった。
冒険者証にかかれた女神の加護にそんな効果があったなんて知らないし望んだ覚えもないけど、そういうものがあるなら隷属魔法と操霊魔法が使えるようになったのも納得できる気がしてきた。
あたしはリリアちゃんを強く片手で抱きしめつつ、反対の手に魔力を固めてイメージする。詠唱できないから、かなり不安定な発動になるけどこの状況をどうにかできるなら気にしない。
『ただ、力加減については保証しませんのでお気をつけください』
そんな遅い警告を聞いた瞬間に魔法は発動する。そして、今自分がいる目の前とも言える場所で、予想もしてない大爆発が起きた。
そのまま、スライムの体の外まで一気に吹き飛ばされる。
「ふざけんなぁ! 『グランド・クッション』!!」
最後に地面に激突する瞬間、どうにかクッションを作ることができたが、耐えきれなかったのかいつものようにはねることもなく、地面に沈み込む。
っていうか、久しぶりに叫んだらすごい言葉が荒れた。結局あっちが本質なのかな。
「もう、許さない 覚悟しなさい!」
溶けた上に一部が燃え尽きて、まどろっこしくなった服の上半身を破り捨ててあたしはスライムに指さしてそう宣言する。
その後、土魔法をひたすらつかって、スライムを土と岩の瓦礫で押しつぶしてただのねっとりした水溜りへと変えるのに時間はかからなかった。
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