第14話 隷属と土の魔法

 あれからそこそこの時間が過ぎたある日のことだ。

 あたしはその後何度か街に行った時に買った魔法書を読みながらその日は過ごしていた。ちなみにリリアちゃんは畑で収穫作業中。

 書物店にいったら、あの魔石ができたことでこの手の魔法書の需要がかなり落ちたらしく昔じゃ考えられないくらい安くて本物か疑いそうになったけど、読んでみればしっかりと本物だ。

 それで、なんの魔術書かというと隷属魔法についてのものである。いつのまにか覚えていた隷属魔法がどんなものなのかを自分で理解しておきたかった。


「これかなぁ……でも、ちょっと待って、本当にこれ?」


 魔術書を読んでいる中で、可能性のある記載や魔法は見つけたのだけれどあり得るのか。


「つまり、隷属魔法っていうのは契約に基づいて主従関係を作り上げる魔法である。その魔法の契約には強さがあり、強ければ強いほど強制力ともいえるものが発生する。ただし、それは洗脳などにも近い物も存在するため、禁じられた物とする地域も存在した」


 つまりは奴隷契約のあの魔法も隷属魔法の一種になるわけか。でも、冒険者証を作ったのはその前だから、多分あたしの隷属魔法の始まりはあの人形への指示をだしているあれだ。

 操霊魔法と隷属魔法が混ぜ合わさったと予想すればおかしなことじゃない。

 実際に魔法が混じり合うことで強くなったり全く別の効果が現れる事例は存在していたはず。


「収穫終わったわよ」

「ありがとう……うぅん」

「どうしたの?」

「なんの魔法覚えればいいのか悩んでる」

「剣技じゃ駄目なの?」

「剣技は……最悪自分で覚えられるからいい」


 今ある時間を考えれば勇者の時に覚えた中でも、誰でも覚えられる技は思い出せる。

 なにより、剣技を覚えていくと勇者時代に戻るような想像すらあって嫌だ。


「そういえばだけど、あの剣の柄は……結局教えてくれなかったけどなんなのよ」

「リリアちゃんは知らなくてもいいことよ」


 武器屋にはじめていった日にリリアちゃんが言っていた剣の柄。帰ってから見せてもらうと、それは勇者の聖剣の柄だった。

 剣ともいえる刃部分は見つからず、なんでそんなものがうちの、しかもリリアちゃんによれば暖炉の灰の中に埋まってたのかはよくわからない。けれど自分の部屋とか居間には置いときたくなかった。

 ただ、問題があるとすればこの知らなくてもいいとごまかしたことで、若干心の壁が厚くなったような気がしているということ。


「ちょっと、散歩してくるわね」

「はい、いってらっしゃい……あ、魔法書読んでもいい?」

「どうぞ……まあ、リリアちゃんも後で冒険者証作ってもいいかもね」

「それでも興味あるのよ」


 あたしは隷属魔法以外の魔法書を渡す。隷属魔法については若干危なさも含んでいるから自分の部屋の机の引き出しにしまってから外に出た。

 十分に充実した生活が送れているとは思う。だけど、1人でいた時と比べれば苦労は増えた気がしないでもない。リリアちゃんの家事上達速度は予想以上に遅い。

 ただ、それも別に嫌というわけではない。


「結局、どうすればいいのかな。何でもかんでも正しいことを言えばいいってものでもないし。正直に全部教えればいいわけでもないし」


 自然を感じながら歩いていると目の前にスライムが現れる。


「なんか、最近多いような……」


 この森は魔物の出現はそこまでじゃなかったはず。まあ、そうはいってもあたしが住んでいて活動している範囲は森の中の一部にすぎないけど。


「あとで、ちょっと調べてみないとやばいかも」


 魔物の出現は自然な時と原因がある時がある。違和感のある魔物の増え方が原因がどこかにできたのかもしれない。

 一度だけ前に地中にできてた空洞内に魔力の塊ができてしまい、その影響で動物が魔物化するみたいなこともあった。その事件では魔物たちが森の外まで出ていったこともあって、国の軍が動いてくれて、あたしは動かずに解決された。でも、仮に動いたとしてもあれはあたしでも1人じゃ無理だっただろうな。

 今回もあんなことになったらやばい。


「明日に確認してみるかな……ほら、今日は見逃してあげるからどっかいきなさい」


 ちょっと威圧したらスライムは森の奥へと逃げていった。

 更に散歩しているうちに森のなかで少し開けた場所にたどりつく。


「そういえば……試したことないけど、土魔法ってどこまで使えるのかしら?」


 畑で土いじりしている時に魔力もくわえたり、色々やってる間にこれは覚えたと想像がつく。

 でも、冒険者証に記載されているってことは他にも使えるかもしれない。


「勝手な想像だけど。たしか、魔法使いが昔使ってたのは――『ホール・グランド』!」


 昔の記憶を呼び変えして魔力を右手に込めて地面に叩きつける。するとあたしの目の前に人が3人ほどは落ちそうな大きさの穴ができた。


「使えた……ってことは、たしか『グランド・クッション』!」


 穴の中に慎重に降りてからさらにその地面を叩きつけると、今度は地面が膨らむようにして穴を埋める。


「うぇっ……こんなにふっかふかにだったっけ? うわぁ……ここで寝れそう」


 膨らんだ土は中に羊毛でも詰めてあるんじゃないかというくらいにふわふわになってて、弾力がある。

 これは名前の通りクッションだわ。一定時間すると普通の地面に戻っちゃうけど、落とし穴が土を圧縮して無理やり穴にした魔法だから、膨らませて戻せばもとに戻るといいんだけど。

 土のクッションを少し堪能しているといつのまにか空は徐々にオレンジ色が混じり始めていた。


「そろそろ帰らないとね。夕飯の準備もしないと」


 あたしはその場をあとにして家までの道を歩いて行く。

 途中に、誰かが枝にぶつかりながらでも進んだように見える場所があったけど、冒険者でもきたのかな。

 たまにくるので気にせずに進み家にたどり着いた。


「ただいまー……って、リリアちゃんも散歩かしら?」


 家に帰って中に入ると静まり返っていた。

 何故か少し懐かしさを感じた。リリアちゃんは別にどたばたとうるさいわけじゃないけど、あたし自身が少し気配に敏感だからか誰かがいることがここ数日帰る度に感じとれていたからかな。

 まあ、でも行動制限かけているわけじゃないし、逃げるようなことを強く願いながら外に出てないなら問題ないはず。

 一度、逃げようとされたときには勝手に契約の紋様が発動してリリアちゃん悶絶してたし、あたしの方にも魔力が流れ込んできて異常は察知できた。今回はそれはないしちょっと散歩しに行っただけだろう。

 あたしはひとまず夕飯の準備を始めながら帰り待つことにした。

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