第13話 数多の経験
冒険者ギルド前までたどり着く。ギルドの建物はかなり大きく出入りも激しい。
出入りする人達の姿も様々で、わかりやすく冒険者をしているという装備の人もいれば、街で暮らしているであろう普通の人にローブを纏った魔法使い等もいる。おそらくは依頼者の出入りも行われているってことなんだろう。
そんな人混みに紛れつつあたし達も中へと入る。
「えっと……冒険者の受付は、あそこかしら?」
掲示板や2階への階段などもあって、どこで何が行われているかわからない。ただ、何人か似た服装の人たちがカウンターや掲示板の横にたっているのでギルド職員と判断する。
あたしはカウンターの1つのダンディな男性職員がいる受付の前へいく。
「こんにちは」
「こんにちは。依頼の受付でしたら反対側のカウンターになりますよ」
「最近、冒険者証を作る機会があったんだけど、使い方とか細かい見方がわからないんですけど、そういう説明ってやってますか?」
「ああ! そういうことでしたら、こっちの受付であってます。ですが、カウンター越しで立って話すのもあれですね」
彼はそう言うと、カウンター裏で書類作業をしていた若い子に声をかけると受付を変わりこちら側へとやってきた。
「2階がこの時間は休憩所兼交流所になっていますので、そちらでお話しましょう」
「ありがとうございます」
「お荷物お持ちしますよ」
「それなら、後ろの金髪の子のをお願いできますか? ちょっと朝から動きっぱなしなので」
「わかりました」
彼の案内で2階へと移動する。荷車に関しては一時的に持ち上げることは気合い入れればなんとか大丈夫だった。
2階の空いていた席に向かうあうように座る。
「それで、冒険者証についてでしたね。えっと、まずは冒険者として登録するという形ですかね? それとも身分証明証としての?」
「そういうのもあるんですか?」
「はい。最近はそういう用途で作る人も少なからずいますね」
「便利ね。まあ、とはいえあたしも似たような感じです。なので使い方とかがよくわからなくて」
「そうですね。まずは、冒険者証のほうをお見せ頂けますか?」
「これなんだけど」
あたしは自分の冒険者証を机の上に置いて見せる。
「では、失礼して……っ!? え、えっと……申し訳ありません。失礼な反応を」
「いえ、なんとなく予想はしてたから良いわ」
城にいる軍人ですらあんな反応を見せたんだもん。
「念のために更新させていただきますね」
「お願いします」
これを作った時と見た目同じ道具が机の上に置かれて窪みに冒険者証がはめられる。
「では、魔石のほうに」
あたしが魔石に触れると淡く光って冒険者証がひとりでに窪みから外れた。
改めてそれを確認してみる。
――――
アンジュ・シエーラ
レベル 測定不能
性別:女
年齢:プライバシーのため本人の記載許可が必要
魔法:土属性魔法、隷属魔法、操霊魔法
特殊能力他
不老、女神の加護、直感、真・魔力抵抗、真・魔素抵抗、観察眼
経験数値:記載不可
使用経験数値:0
――――
全く変わっていないけれど、まああまり日数も経ってないしおかしくはないかな。
「見方としてはどこがわからないとかはありますか?」
「この経験数値と使用経験数値っていうのがよくわからないんですよね。あと、隷属魔法なんて教わったり使った覚えがなくて」
「えっと……申し訳ありません。その前に1つお聞きしたいのですが。言いたくないならばもちろん良いのですが、年齢のほう大雑把でいいのですが」
「それはいいけど……あなただけでもいい?」
「それはもちろん。プライバシーの方は守ります」
あたしは一度職員さんの横まで移動して耳元に小声で少なくとも300以上と伝えた。正直、この前言われたあとに改めて計算してみたら自分でもよくわからなくなった。
「こほん……そうですね。そうなると、魔法の覚える方法が少し変わったことから説明するのが良いかもしれませんね」
「魔法の覚え方って……師事してもらったり、なんとなくイメージしてたら使えるようになってとかじゃないの?」
「もちろんそれもありますし、その……シエーラ様がお若い頃ですとそれが普通だと聞いています。ですが、現在ではもうひとつ方法が見つかって、そっちが主流になっているんです」
そう言うと、職員さんは後ろを振り向いて何かを探してから、奥にいくつか台座とともに設置されている大きな赤い魔石を指差す。そこには数人冒険者もいるのが見える。
「冒険者証をあの台座にはめて魔石を起動させますと、体の中の経験数値を使用して、経験を技へと変化させるというんでしょうか。そういうことが可能になります」
「なにそれ……便利すぎない?」
「ただ、やはり自力で覚えるよりは熟練度などは落ちてしまう部分はありますが。初心者の冒険者が活動しやすくなった1つの要因でもありますので」
「まあそうね。魔法の才能が自分にあるかどうかすらもやってみなきゃわからなかった時代とはぜんぜん違うのね」
でも、経験数値が具体的に何かがますます想像できなくなってきた。
「経験数値っていうのは……人生経験を数値化したものなのよね?」
「はい。この世の人族を含めて多種多様の生物は、その経験を体の中に溜め込んでいるとされています。そして、経験を活かすことができるのはごく僅かな種族にかぎりました。あの魔石はその種族の技術が伝わってきたものだそうです」
「へぇ~……まあ、なんかもうそういうものを思うしかなさそうね」
「そうですね。それ以上詳しいことは我々も知らず、専門家に聞くしかないかと」
もう気にしないでおこう。
「まあ、それじゃあその数値を使うといろんなことを覚えられるのね」
「はい。まあ才能によりけりな部分もあります。覚えられるものに限りはありますが。必要なこととしては経験数値と魔法であれば魔法の、剣技であれば剣技の知識などがないと覚えられません。ただ、よくわからないのですが、自力で覚えるぶんには経験数値は使ったことにはならないらしいです」
「まあ、本来数値になるところが技術に直接なったとか解釈しておきましょう。それで、この記載不可ってどういうこと? あとレベルの測定不能っていうの」
あたしは改めて自分のレベルと経験数値の場所を指差しつつ聞く。これが一番よくわからない。あたしの年齢がプライバシー云々なのはともかく、不具合じゃないならこれはどうなるのか。
「経験数値に関してはおそらく……その、長い年月使わずに溜まりに溜まった結果、冒険者証には収まりきらない桁数になっているのかと思われます。レベルについては最大上限が一応存在しているのですが、それを超過している結果、魔石でも測定が不能という意味かと。見たことがない表記ですので私としても憶測ですが」
「なんだ、そういうこだったのね。ただ生きすぎて判断の外にいるとかじゃなくて、ちゃんと調べた上でこの記載ってことならいいわ」
さすがに『これは有り得ないから』みたいな理由でこの記載だったとしたら納得はいかなかったけど、それなら納得できる。
「これって、冒険者じゃなくても使えるものなの? その、経験数値を変換するみたいなこと」
「可能ですよ。ただ、可能ならギルドに念のために使用者としての名前の記載だけさせていただきたいのですがいいですか? 昔、身分証明証のためにと作った一般の方が、仕事でつちかった経験数値使用で力を手に入れた結果事件を起こした事例があるので」
「そういうことがあったのね。名前を書くの自体はもちろん問題ないわ」
「では、名簿に記載させていただきます。あの魔石ですが、同じように冒険者証をはめ込んで魔石に触れると、頭のなかに覚えられる技術が思い浮かびますので覚えたいものに意識を集中させて冒険者証に記載されれば。覚えた技術は集中すれば魔法なら言霊やイメージ。技ならば構えや力の込め方などが自然とわかるようになるので、後は練習あるのみです」
「便利なものね。でも、それくらいのほうが丁度いいわ。昔は……辛かった」
魔法1つ覚えるのに一週間が最速というぐらいだった気がする。
勇者の剣技にいたっては旅しながら何度も失敗を繰り返して、数年でやっと使いこなせるようになったくらいだ。
「って、まあいいわ。職員さんありがとう。今度来る時に使わせてもらうわ」
「お気軽にどうぞ」
「リリアちゃん。そろそろ帰るわよ」
「は、はい……」
「どうかした?」
「冒険者証は見れなかったけど、話を聞いてる限りシエーラさんって……一体いくつなのかって」
「そうね……リリアちゃんがもう少しあたしと仲良くなれたら教えてあげなくもないわ」
「なにそれ!」
「ふふっ」
いつかは知られることだけど、今はまだかな。もう少し仲良くなってからがいいかな。
今はまだどうしてもリリアちゃんの中に奴隷であるという自覚と、理由はわからないけど抵抗と反抗が強い部分がある。つまりはあたしに対する心の壁がある。
もちろん全くない人間なんていないと思うけど、もう少し距離を近づいてから。
じゃないと、さすがに冒険者証とか大雑把な年齢だけでもあれなのに、転生したとかまで教えることになった時に与える衝撃と恐怖は大きくなると思う。
なんか、あたし自身も臆病なのかな――この時、初めてそう思った。人と改めて関わると人間関係ってやっぱり難しい。
「シエーラさん?」
「なーに?」
「なんか、表情暗くなったような気がするけど……私もしかして何かしちゃった? あっ、荷物持ってもらっちゃったりした時に、自然と任せちゃったりしたから」
「そんなの気にしないわよ。むしろ、人からの手助けは受け取っておきなさい」
「じゃあ……」
「こっちの話」
頬を軽く叩いて気持ちをリセット。あたしはリリアちゃんを引き連れつつ帰り道を進み始めた。
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