第12話 熱血武器屋
武器屋はギルドのある通りのさらに奥にある。
なぜこんな奥にあるかと言われれば、鍛冶の音や熱気が強いからだろう。
それもあってかこの辺には宿屋や住居がかなり少ない。多分、所々にあるのは鍛冶師本人の家だろう。
店や鍛冶場が集まっている区画にたどり着いて初めてわかったけれど、武器屋だけでも数店舗ある。それぞれの店に特色があるんだろうけど、外見だけだといまいちわからない。
「今求めてるのは、安くて耐久力があるのなのよね……」
「うん? どうしたんだ嬢ちゃん達」
キョロキョロと武器屋が何件あるかを確認していると、視線のはるか下から声が聞こえた。そのまま声の方向へと視線をおとすと、あたしの腰より少し上ほどの身長の立派な髭を蓄えたドワーフがいた。
やっぱり鍛冶職についてるドワーフって多いのかしら。ドワーフは手先が結構器用で熱に強いって聞いたことがある。
「武器が多めに欲しいんだけど、ここは初めてでどの店がいいかわからないんです」
「なんじゃ、そういうことじゃったか! ちなみに武器っちゅうと種類は?」
「剣とメイスあたりを」
今までは剣でどうにかなってたけど、鈍器も備えておいて損はないはず。
「それなら、あの奥の防具屋を曲がった道に入って右の2軒目の武器屋が値段も手頃で良い腕しとるぞ」
そのドワーフさんは指で示しながら教えてくれた。
「自分のお店の紹介じゃなくて良いんですか?」
「たしかにそれもしたいが、やはり武器も使い手と相性が良いほうがいいじゃろう。わしのところはハンマーとかでかいやつばっか作っとるからのう。嬢ちゃん達じゃあ、残念ながら持てもしないかもしれんのう」
髭をさすりながらあたし達を見てそう言う。
ドワーフってある程度年齢をとると、男は髭蓄えだすから見た目だけだと判断できないのよね。だけど、この雰囲気だと結構ベテラン鍛冶師と呼べるくらいには年をとって経験も積んでいるのかも。
「ありがとう。それなら、知り合いで紹介して欲しいと頼まれたら推薦しておきますね」
「そうしてくれ。それにしても……嬢ちゃん、中々に不思議な雰囲気じゃのう」
「へっ?」
ドワーフさんは改めてあたしの方を見てそう言った。どういう意味だろう。
「いやなに、わしもドワーフの中じゃ高齢のほうじゃが……下手したらわしよりも生きとったりせんか?」
「ま、まさか、そんなことありませんよ」
なんでバレたの。でも、勇者の時もたまに妙に勘の鋭い人いたな。大体、その人達の共通した特徴は経験を積んでいること。
でも、さすがにそれはあんまりバレたくなかった。
「そうか。まあわしの気のせいかもしれん。年をとるとどうにも感覚が麻痺していかんのう。それじゃあ、店を息子に任せてるでのう。機会があればまたのう」
「はい。また……ふぅ」
「なんでそんなに焦ったの? 普通にお年寄りの勘違いでしょう」
「そ、そうね。フフフフッ」
冒険者証見せたりしたらいつかはバレることだけど、まだリリアちゃんにこのタイミングでは知られたくない。
あたしは熱気からでたのか冷や汗なのかわからないそれを拭いつつ、勧められたら武器屋へと向かうことにする。
その武器屋の扉は開け放たれていた。多分、営業中という証なんだろう。
中に入ると褐色の人間の男性がカウンターに立っている。袖のない服で腕の筋肉が丸見えだけど、かなりムキムキだ。
「いらっしゃい! 何をお求めですか!」
あたし達の方を見た瞬間にその人はカウンターの出入り口があるにも関わらずに飛び越えてこちらへと走り寄ってきた。
声も接客も何もかもが熱い人。
「剣とメイス。安価で耐久力があるもの……数があると嬉しいわ」
「ほほう。お嬢さん達みたいな人が珍しい」
「街へお出かけもかねてるからこの服装なのよ」
「そういうことでしたか! メイスと剣ならこちらです!」
本人に自覚はないだろうけど、腕の筋肉を見せつけるかのごとく動いて叫びながらあたし達を案内してくれる。
店の中はドワーフさんが言ったとおりにメイスに剣などの比較的使用者の多い武器種が多い。
「ここにあるのが剣で、1つ向こう側にメイスがあります! ちなみに高いものは扉はいってすぐのところで、ここらへんにあるのは比較的安価で扱いやすいものです! 耐久度はこの店は全て自信があります!」
「店員さんが作ってるんですか?」
「はい! この鉄をも気合で溶かす鍛冶師、タリガンの自信の武器達です!」
暑苦しいとすら思えてきた。
だけど武器を見てみると、どれもたしかに細部までこだわって作られている。
安価な武器は取り扱いやすさと耐久力を求められやすいからシンプル故に、鍛冶師の腕がでると昔聞いたような聞かないような。聖剣使ってたからそこは詳しくないけど、これが良いものってことくらいはわかる。
「じゃあ、ひとまずここの剣……」
買いすぎて店から武器を無くしちゃっても駄目だから。だいたい並んでいるのが25本程度かしら。
「10本、あとメイスも同じような値段のを7本くれるかしら?」
「構いませんが、運べますか? なんなら小さい荷車お貸ししますが!」
「あぁ~……返すの少し遅くなるかもしれないのだけれど」
「大丈夫です!!」
「それじゃあ……お願いしようかしらね」
「了解しました! 今準備しますので、カウンター前でお待ち下さい!!」
その後、無事に武器を購入することはできた。
片手で人の邪魔にもならないサイズの荷車を貸してくれた紳士な店員さんだった。今度来る時にお礼も何か買っていこう。
「リリアちゃん。まだ行ける?」
「大丈夫というか、そっちのほうが重いんじゃ。いくら荷車あるとはいえ……私と変わる?」
「別に大丈夫よ。それより、リリアちゃんは優しいわね」
「ち、違うわよ。あなたが仮にも主人なんだから、そういうのが当たり前のはずだって何度も……」
「さぁ、最後に冒険者ギルド行くわよー!」
「あっ、ちょっと待ちなさい!」
あたしはリリアちゃんの声を背に受けつつ最初に来た道をもどって冒険者ギルドへと向かって走り出した。
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