第4話 規格外で不老の女

 何故か緊張したままのマクマダスさんと共に城の前までたどり着いた。

 城門の前には当たり前だけれど兵士が立っている。


「ギルドショップのマクマダスです。マギアメタルの買い取りの件で本日は訪れました」


 兵士と挨拶を交わす。


「ようこそいらっしゃいました。荷物だけ確認させていただきますがよろしいですか?」

「はい」

「お連れの方も」

「わかりました」


 荷物と持っていた装備の確認を終えると道を開けてくれる。


「マギアメタルについては入って右へいった4つ目の部屋です」


 あたし達が中へ入ると兵士はまた道を塞ぐように立ち位置を直す。門自体は開けているけれど、ああやって検問しているらしい。

 マクマダスさんは慣れた足取りで進んでいくので、あたしは素直についていく。

 そしてたどり着いた部屋に入ると軍服らしき服装をした女性がいた。


「マクマダスさんようこそ。マギアメタルですか?」

「はい、こちらの方が」

「いつもありがとうございます。ですが、マクマダスさん自身もくるとは珍しいですね」

「それがその……少し訳ありでして」

「うん? ひとまずようこそ。私はアリア・ミリアーナと申します。見ての通り軍で働いています。早速ですがマギアメタルを見せていただいても?」

「あ、はい」


 言われたとおりに、マギアメタルと思わしき金属の塊をミリアーナさんとあたしで挟んでいる机の上に置いた。

 そしてミリアーナさんはそれを見ると一瞬固まって、目をこすりだしてもう一度見る。


「な……え? マクマダスさん?」

「わたくしも最初は驚きました」

「これは……あの、お名前を伺ってもよろしいですか?」

「アンジュ・シエーラといいます」

「アンジュさん。冒険者証を見せていただいても?」

「あの、あたし冒険者じゃありません」

「え?」「は?」


 2人の声が重なった。なんであたし冒険者と思われていたんだろう。


「いや、でも……え? ちょ、ちょっとお座りください」


 あたしは言われるがままに向かい合うように座る。


「マギアメタルのことは?」

「今日はじめて知りました」

「それで、冒険者じゃない……えっと、マギアメタルなんですが。これは魔物の体内で稀に生成される鉱物なんです」

「へぇ……初めて知りました」

「それで、魔物は普通は冒険者が依頼を受けたり襲われた時、遭遇した時に狩る。または増えすぎた場合に軍が出向くということがほとんどです」


 そうだったんだ。勇者時代はよく襲われてたから倒していたけど、こんな鉱石だしてたかな。


「それでいて、この鉱石が作られる可能性はかなり低いです。冒険者を30年やっていても一度も見たことがないという人がいるほどに。更に、その大きさは、たとえ体は大きかったとしても指先のサイズ程度がいいところです」


 あれ、でもそれだとこのサイズはおかしい。つまり違う鉱石なのか。


「ただし、マギアメタルは同じマギアメタル同士だとくっついて大きくなる性質があります。問題は、このこぶしほどの大きさになるのは異常と言わざるをえないということです。さきほど指先のサイズと言いましたが、それは最大であって平均的にみればもっと小さいですから」

「ってことは、これはかなりの数がまとまったものだと」

「はい……それでなのですが、ちょっと冒険者証を作らせて頂けませんか? 冒険者になれとはいわないので」

「冒険者になるということじゃないならいいですけど」


 なんでそんなことをする必要があるんだろう。

 ミリアーナさんは一度席を立って、部屋の中にあった大きめの魔石の1つを机の上に持ってくる。その魔石を固定している台座には何かをハメられそうなくぼみがある。


「では、この魔石に触れてください」

「こうで大丈夫ですか?」

「はい、少しそのままで」


 あたしが手で触れると魔石は淡く輝き出す。そして台座の窪みから1枚のカードがでてきた。


「それ、確認させて頂けますか?」

「どうぞ」


 あたしはでてきたそれを中身も見ないで渡す。ミリアーナさんはそれを華麗に二度見した。


「あの……シエーラさん。冒険者証についてはご存知ですか?」

「冒険者の身分を証明するためのカードですよね?」

「はい。ですが、200年ほど前に魔石の研究が進んで、現在はその冒険者の素質や体質的に特出したものを判別できるようになりました。そして、その人の経験を元に数字で表したレベルと呼ばれる強さの指針も割り出します」

「へぇー……」


 あんまり想像がつかないな。昔は名前と性別くらいしか書いてなかった気がする。


「それで、こちらをご覧ください」


 ミリアーナさんはそう言ってあたしが渡したカードを返してくる。

 あたしはそのカードの表と裏を確認した。


――――


アンジュ・シエーラ


レベル 測定不能

性別:女

年齢:プライバシーのため本人の記載許可が必要

魔法:土属性魔法、隷属魔法、操霊魔法

特殊能力他

不老、女神の加護、直感、真・魔力抵抗、真・魔素抵抗、観察眼

経験数値:記載不可

使用経験数値:0


――――


 不可とか不能とか多すぎじゃないかな。

 あと、女神の加護ってあの神様何してるの。あと、隷属魔法は使えた覚えがない。


「その、細かい年齢はいいんですが、何年ほど生きておられますか?」

「えっと、覚えてる範囲だと300年以上?」

「300年……誠に勝手なのですが、敬語を解いて頂けると。すごい申し訳なく」

「年寄り扱いも嫌だけど、そういうなら崩させてもらおうかしらね」

「すいません。300年以上の間どうやって過ごしていたんですか?」

「森の中で静かに暮らしてたけど?」

「も、もしかして、あのこの街の近くのあそこですか」

「うん」

「はぁ……そういうことですか」

「え? なに?」

「えっと、理解していないよなので簡単に言いますと、あの森はかなり魔力濃度が高いです」

「え? そうなの?」


 全然気が付かなかった。でも、前世でも仲間の魔法使いに「あんた魔力にだけはほんと疎いわよね!」とか言われたし、そこはそのままなのかも。


「はい。それで、あの森って魔物も強くはなくともでますよね?」

「でるわね。結構退治してたわ」

「納得しました。その年数魔物を狩っていれば、この量の可能性も否定できません。いえ、本当に助かるので買い取らせていただきますが!」

「ありがとう」

「えっと、この量だと。だいたいこれくらいですね」


 すぐに額をだしてくれて見せられる。

 その数字をあたしは二度見した。


「え? 本当に?」

「現在はこれくらいだす価値があります」


 だって、この額は貴族の屋敷をいくつも建てられるくらいはあるはず。


「じゃ、じゃあ、お願いするわ」

「わかりました」

「あっ、まって、でも今はその一部だけでいい。流石に全部持ち歩くのは怖い」


 あたしはひよってそんなことを言ってしまう。


「では、残りは兵に家まで持っていかせましょう。森の中に家があるんですよね?」

「うん。わかりやすく森が開けてる所から入っていって、大樹があるところを右に進んでいってくれれば、目印つけておくわ」

「わかりました。では、ひとまずはこれぐらいお渡しします」


 これぐらいと言って渡された額は、整備された街で2階建ての家を買えるほどだった。


「冒険者証もお渡ししておきます」

「ありがとう……」


 色々と聞きたいこともあるけど、今は冒険者証のことはいいか。ギルドでも聞けることのはずだしね。


「それでは、またお会いできる日を楽しみにしております」


 城門での別れ際にミリアーナさんの握手の応じると両手で包んでそう言われた。


「なんかすごいことになっちゃったわ」

「シエーラ様。この後はいかがいたしますか?」

「あ、マクマダスさん。ここまでありがとうございました。えっと、まだ家に色々あるので、またあとでいきますね」

「しょ、承知いたしました。では、わたくしはこのへんで」


 深く礼をしてからマクマダスさんは走っていった。多分、ギルドショップに戻るんだろうな。


「あたしもちょっとお腹満たしてから帰ろうかな」


 なんだか今日は予想外に色々とありすぎた。

 お金も手に入ったし美味しいご飯食べて帰ろう。

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