第5話 奴隷少女との出会い

「ふぅ……当たりだったわ」


 街の中を少し散策して、評判が良くて雰囲気のいいお店で食事を済ませる。

 何百年生きてきた中で一番高いご飯だった気がするけど、やっぱり値段は嘘つかないのね。まあ、昔も払えなくはなかったけどご飯よりも宿の良さを優先する考え方だった。

 だって、ご飯よりもあの頃は寝たかったから。次の日も朝早く出発ってことも多くて質の良い睡眠を望んでいたから。

 でも、今はそれは家で満たせている。家はとても大事で拘る人が多いのも今のあたしなら理解できるようになった気がする。

 そんな事を実感しながら会計を済ませて店を出た。まだ明るいけれど日も落ち始めたし帰ろうかなと思ったその時、店の前で1人の男があたしに話しかけてくる。


「そこのお嬢様。少しよろしいですか?」

「あたし?」


 周りにも女性はいるので念のために間違いじゃないか、自分を指差して聞いてみる。


「えぇ、お嬢様です」

「お嬢様って呼ばれるような身分じゃないけど。なにかようかしら?」

「実はですね。様々な地域から集められた掘出物の店が近くにあるのですがどうでしょう? 見てみませんか?」

「掘出物?」

「はい。ダンジョンの中で見つけた物などがわかりやすいでしょうか。手に入れた方では使い道がわからずに売られたものですね」

「へぇー、ちょっと気になるわね」

「では、どうぞどうぞ。こちらです」


 あたしはその男の後を追ってその店とやらへ向かう。

 そしてたどり着いた所は整備の行き届いていない街の中でも外れの場所だった。

 男に案内された店はその中で、違和感を放つ綺麗にされている大きな店である。


「あの、ちょっとあたし――」

「では、いい出会いがあることを祈っております」


 引き返そうとした時には、すでに遅く背中を押されて入り口の中に押し込まれてしまう。

 男自身は店に入らないようで、1人で中に入ったあたしをまず迎えたのはワー・ウルフの男だ。


「珍しい。随分若い客だな」

「あ、いや、あたしは」


 若いって言ってもらえるのは嬉しいけど、今はそんなことはどうでもいい。まだ引き返せるなら帰りたい。


「どうやら、その反応――」


 あっ、察してくれた?

 そう思ったのもつかの間、彼は近くにある箱の中から何かを取り出してあたしに渡してくる。


「初めてみてえだな。ここは顔は隠す決まりだからな。それはサービスだ」


 違うの。あたしは帰りたいのであって、中のルールが知りたいんじゃないの。

 心の中の嘆きを外にだす空気でもなく、あたしは更に案内されるがままに店内へと入ることになった。

 更に店の奥に行くと地下への階段があって、下へ降りていくとさらに広い空間になる。

 最奥にステージがあって、そこから階段のように席が半円状に広がっている。席には仮面をつけた男女がいて、そのほとんどがステージの方を向いている。

 暗くて少しわかりにくいけど、服装からみて貴族とかお金のある人ばかりだろう。


「それじゃあ、頑張れよ」

「あ、あの、これどういう」

「あん? んなもん奴隷の競りに決っているだろう。あぁ、でも安心しろ。うちの競りは合法だ」


 あたしはその言葉を聞いて固まった。


 奴隷市場だったのかここ。通りで街の外に追いやられている割には立派な建物で、地下まで作っているわけだ。


 奴隷――前世の旅の中でも何度も見たことのある存在だ。没落した貴族が娘や息子を売る場合もあれば敗戦国の人間たちや種族差別を理由に奴隷にされてしまう国もある。


 その制度も国によりけりだが、一応世界的な基準は決められていたはず。

 まあ合法じゃないかぎり、あんな露骨に建物を外に見せられもしないだろうし嘘はいってないんだろうけどいい気分じゃない。


 そもそも奴隷の競りって何よ。人の存在を競っている時点でそれって合法もなにもないんじゃないの。

 まあだからと言って牢屋に入れて値段つけられてる子を見せられても嫌だけどさ。

 あたしはひとまず少し居座ったらでていこうと思って席に着く。


「買う気がある時はこの魔石に触れてから大声で額提示だ。んじゃ、こんどこそ頑張れよ」


 ワー・ウルフはあたしの肩を軽く叩くとそう言って上の階に戻っていった。


『では、次の商品はこちら――』

 あたしが来る前から始まっていたようで、かなり盛り上がっている。

 獣人の少女にエルフの少女もいれば、ミノタウロスの男などの力自慢等もでてきた。

 良いことかはわからないけれど、堂々と性奴隷だとかそっち方面で売りに出される奴隷がいないのは幸いなのかな。


 そして、ここにきて自分で初めて理解したことがある。あたしはこの手の立場というものにかなり冷めてしまっているようだ。

 勇者をしていた時代には最初こそ助けようと思っていたが、最後は襲われている村などはともかく奴隷はそういうものと認識してしまっていた気がする。

 それと同じように、今も奴隷になった人たちをみても、可哀想だとは思っても助けたいという感情とかはでてこない。


 ただただそういう世界で場所だから仕方がないと思ってしまう。

 まあ、だからといって何も感じないわけじゃないから、見ていて良いものじゃないけど。

 あたしが会場にきてから16人目に差し掛かろうとした当たりで帰ろうと席を立つ。


『さて、お次は人間の少女! 元は貴族でしたが最近家族に裏切られて売りに出された悲しき少女の買い主となる方はいるのか! ご紹介しましょう。リリア・アルミシアちゃんです!』


 司会がそういった瞬間にステージの中央が照らされる。

 目立つそれにはさすがにあたしの視線も持って行かれて、そこを見た瞬間に足が止まってしまった。


 そこには質素な服を着せられて手錠に足枷をつけられているが、綺麗な長い金髪が育ちの良さを感じさせる14歳か15歳ほどの少女がいた。


 それを見た瞬間に、あたしは何を思ったのか魔石に触れ、手持ちの9割の額を提示した。

 それだけでも良い家を建てられる以上の額を、育ちはよくとも奴隷としてはどう扱えばいいかわからない少女にかける人は他に誰もいなかった。

 そして、落札が決定した瞬間に我に返ってこう思う。


 ――あたしは何をしているんだろう。


 その理由をなんとなくでも自覚する頃には、購入の手続きが全て終わっていた。

 こうして、あたしは1人の奴隷の少女を手に入れたのだ。


 女神様。幸せで穏やかな人生とか言ってたはずなのに、申し訳ありません。

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