47. 1日目・初めてのお客さん?

悲鳴が時折木霊するなか、のんびりとジュース販売をしている。


『なんだ!熱っ!回復っ!回復しないと!』


「教育に悪いBGMが流れてますねー。」


アブニールちゃんが呆れたような目をして、お店のカウンターで店番をしている僕に話しかけてきた。


『イヤーーー!熱い熱い熱い!なんでなんでよ!何で近づけないのよ!』


「世知辛い世の中だねー。悪いこと考えなければ何も起こらないのに。」


「そのおかけでお客さんもいないですけどねー。」


開会式が終ると同時に時間加速が始まった。それを合図に商業区の営業も開始されたのだけど、開店の時のインパクトが強すぎたのか普通のお客さんが寄ってこない。


『くそー!なんでだよ!中の奴は何で無事なんだよ!』


生命の木の結界の範囲は、僕の店の敷地と前の通りが少し入っているみたいで、邪な考えを持っている奴は店の前を通るだけで焼かれるのだ。周囲の店に迷惑をかけてないかちょっと心配だったりする。


「おにいちゃん、ひまだね~。」


実際には興味本位で人が寄ってきてるのだと思うけど、度々木霊する悲鳴が人を遠ざけているのだろう。


「そうだねー。今日はお店でのんびりしようか。」


「みゅ~。のんびり~。」


明日になれば予選も始まるし少しは落ち着くと思う。ミューちゃんのお使いもわざわざ騒がしいなかを出ていく必要もないので明日からにすることにした。


「みゅっ!きのしたにひとがいるよ。」


初のお客さんだ!どんな人かな?..............あれ?あー、マイマザーめ!


「アブニールちゃん。」


「なんですか?」


「木の下に女の人がいるよね。」


「はい。黒髪で菫色の着物が似合う綺麗な方ですね。」


「そうだね。誰かに似てないかな?」


「そう言われると、何処と無く清音さんに似ている気がしますが。」


おしい!少しカスっているだけに解らないのかもしれない。


「アクト、ちょっとこっち来て。」


カウンターの目の前にある休憩スペースの椅子に座っていた赤い髪のイケメンを呼ぶ。


「ん?どうした?」


「木の下に女の人がいるでしょ?」


「ああ、いるな。」


「誰か解る?」


「誰?........いや?え?....あ、あああ。」


あっ!気づいたな。


「アクト兄様、アクト兄様!おーい!」


やっぱり固まったか。過去の恐怖を思い出したのだろう。オープくんもいたら気付いたかもしれないけど、ミューちゃんのお使いのために下見をお願いしたのだ。


「あなたが店主ですか?」


目を離した隙にカウンターまで来ていたみたいだ。ゴリラな師匠と同じとまではいかないけど殆ど気配を感じないのはこの人の癖みたいなものだ。


「いらしゃいませ、私が店主のセトです。」


「ここはいい場所ですね。暫くここにいてもいいでしょうか?」


「ええ、もちろん。構いませんよ。」


「感謝します。では店主のお勧めを1つお願いします。」


この人は柑橘系の果物が好きなので、オレンジジュースでいこう。


「わかりました。オレンジジュースなどどうでしょうか?」


「では、それで。」


「ありがとうございます。それでは銀貨一枚になります。」


「こちらを」


「確かに。ご用意いたしますので隣のカウンターでお待ちください。」


うーん。アブニールちゃんはまだ気づかないのかな?アクトなんて目で追ってるけど体が固まって動いてないぞ、大丈夫か?


「みゅ~~?おねいさん、おにいちゃんににてるね~。」


女の人がミューちゃんをジーと見ている。見ている理由が解るだけにこちらからは話題を降りづらい。


「名前を聞いてもいいですか?」


「みゅ?みゅーはみゅーだよー。みゅーってよんでね。おねいさんは~?」


「ミューさんですか、私はかなでと言います。」


マイマザー!!!本名使わせるなよ!見た目が若返っているとはいえ気づく人は気づくぞ!


「え?うそ?奏様?」


「ええ。そうですよ。あなたは未来さんですね。そしてあなたは拓人さん。店主は清一さんですね。」


「はい!お久しぶりです!」


「奏様もやられてたんですね。」


アクトは昔返事をしないことで怒られたトラウマがあるので脊髄反射でばあちゃんには挨拶を返すのだ。


「ミューさん、セトさんと私はどこが似ていますか?」


「みゅ~?わかんない。でもにてるよ。」


「ふふ、そうですか。」


おお!ばあちゃんが微笑んでる。流石ミューちゃん。


「ばあちゃん、これ。立ち話もあれだしテーブルに行こうよ。」


用意したオレンジジュースを渡して落ち着ける場所で話をしよう。


「あら?もう店主としてのセトは終わりですか?もう少し見ていたかったのですが。」


「もうそんな空気じゃないよ。」


「そうですか。では、そうしましょう。こちらもちょうど聞きたいことができました。」



お客さんも来ないし、マイマザーの計画の情報を仕入れてやろう。


それに、ばあちゃんの聞きたいことはわかってる。返答を間違うと現実での爆弾になるので慎重にいこう。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る