46. 1日目・不埒な輩の排除

開会式は終わったようだ。モニターも消えたし。なんだかノリがマイマザーに似ていたので少しの嫌悪感と親近感を抱いてしまった。


「オープくん、補足あるかな?」


「特には無いですね。それより、なに食べてるんですか?」


「バナナ。」


ジュースでは追い付かないのでベイビーキングバナナを直食いだ。


「おにいちゃ~ん!おみずおねが~い!」


準備ができたようだ。ミューちゃんのところに行こう。


「どれくらいいるかな?」


「いっぱい。」


いっぱい、ね。水の玉を大きくしていってミューちゃんがストップって言ったら止める感じていこう。


「よし、じゃあ、やるよ。」


魔力をグングン水に変換していき敷地の上空に水の玉を作る。


「セト兄様、何をしているのですか?」


「上を見てごらん。」


「っ!なっ!なんですか!あれ?!」


ナイスリアクション!でも、これで驚いてたらアイランドタートルで生活なんてできないぞ。


「水の玉だよ。ミューちゃんどうかな?」


もうすでに結構な大きさになってると思う。敷地の前の通りにいる人も足を止めて上を見上げているほどだ。


「みゅ~。もうちょっと。」


よし!20%増量だ!グッと魔力を込めて水の玉を大きくする。周囲一帯に影が落ちるほど大きくなっている。うんうん、僕の魔法の腕もなかなかに上達したのではないだろうか。


「セトさん、兄さんが軽くビビってるのでこのあとどうなるか教えてもらってもいいですか?」


空を見上げてアクトはフリーズしたようだ。敷地全体を覆うほどの水の玉だから思考が追い付かなかったのだろう。


「当然。」


「当然?」


「おにいちゃん、いいよ~。」


ミューちゃんからのGOサインがでたぞ。


「ここに落とす。」


「おと、っへ!?嘘ですよね。」


いい反応だ。眼鏡さん。


「ミューちゃん、いくよー。」


「はーい。」


上空にある巨大な水の玉を操作し地面に向かって動かす。


前の通りが凄い騒がしいけど気にしない。気にしたら負けだ。ここまで来て止めるわけにはいかないのだ。


「セト兄様、大丈夫なんですか?ミューちゃんもいるんですよ!?」


「あーるちゃん、だいじょうぶだよ~。【たね】におみずあげるだけだから。」


ゆっくりと落下していた水の玉が店の屋根にあたりそうになる瞬間、【種】が反応した。流石は【生命の大樹の種子】魔法のコントロールが奪われてしまった。


「わー。きれー。」


水の玉の落下が止まり、種に向かって一筋の水の柱が降りてきた。光が反射してキラキラ光っている。所々虹も出ていてとても幻想的な感じだ。


「で、これは何をしているんだ?」


おや?アクトの再起動が早いな。ファンタジー過ぎてそこまでショックじゃなかったのかな?


「水やりだよ。」


「それにしては豪快だな。これは魔法なのか?」


「魔法だよ。そんなに難しくないからアクトも練習すれば出来るよ。」


「詠唱とか覚えるのめんどくさくないか?」


アクトよ、そんなことを言ってるとフクロウな先生に笑われてしまうぞ。そもそも詠唱なんてしたこともないし。


「魔法はね、知識と想像力、そしてたゆまぬ修練が必要なんだよ。」


「知識ね.....今度図書館でもいってみるか。」


「図鑑がお勧めだよ。」


アクトと話しているうちに水が全て種に吸収されたみたいだ。


「セトさん、なにも起きないのがすごく不安なんですが。」


眼鏡さん、焦ったらダメだよ。


「めがでた~。」


「ミューちゃん、もうちょっと離れようか。」


ミューちゃんを抱えて少し距離をとる。ライフさんから聞いた話だとすぐに変化が起きるはずだ。


ゴゴゴゴ......ザザザザ....


『ギャーー!』『熱い!肌が焼ける!』『痛い痛い痛いーー!』


「おー!一気に成長したね。」


ライフさんから押し付けられた【生命の大樹の種子】は一気に成長した。10mくらいかな、店の敷地全体の上空を覆うくらい枝葉が広がっている。


「セトさん、周囲から悲鳴が聞こえるんですけど。僕たちは大丈夫なんですか?」


「何だと!?なんたることだ!不届きものが近くにいたのか!不埒な輩は聖域の空気に焼かれるがいい!」


悪役っぽいセリフになってしまった。でもいいよね。ミューちゃんの安全が第一だ。あんなにジロジロ見られたら不快にもなる。それに、生命の木が作る結界に焼かれたのならばクロなので慈悲をかけるつもりもない。


「白々しいです。わかっててやりましたね。それに、聖域ですか。」


「ミューちゃんや僕にたいして悪いことを考えなければ無害だよ。」


悪意や害意に反応するので基本は無害、ほんのり暖かくて空気も浄化されてるのか清々しくて気持ちいい、枝葉の間から木漏れ日も入ってきて暗くもない。僕たちにとっては有益この上ないのだ。


「おにいちゃん、おみせがまえからみえなくなったよ。」


ここまでは考えてなかった。敷地の真ん中にそれなりに大きな木が生えたことによって前の通りから店が見えにくくなってしまった。隠れ家的な感じでこれはこれでいいかもしれない。


「そうだね、看板を見える位置に動かそうか。」


休憩スペースとして置いていた椅子とテーブルも場所を変えて置き直そう。こんなに目立つランドマークが出来たのだ、ある程度は人もよってくるはず、暇になら無い程度にジュース販売を今日は頑張ろう。







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