35. きみはだ~れ?

生クリーム...生クリーム、生クリーム。無心だ。今は目の前の生クリームのことだけを考えるんだ。生クリーム、生クリーム生クリーム、あっ!あんパン食べたい。はっ!雑念が入ってしまった。


モカさんに教えてもらったレシピを頑張って再現しているんだけど、難しい。生クリームとホイップクリームが別物なんてはじめて知ったよ。


取引板に、生クリームもホイップクリームもなかったので、自作することになったのだ。改めてモカさんに作り方を聞くと、牛乳とバターで生クリーム、牛乳とゼラチンと砂糖と何かしらのエッセンスでホイップクリームが出来るらしいということがわかった。


加熱したり混ぜたりした結果、今は市販しているとろみがついた状態の生クリームまで何とかできたので、それに砂糖を加え無心でかき混ぜているところだ。まだ、お猿達みたいに魔法でかき混ぜるほどの技量が僕にはないので泡立て器で混ぜ続けるしかないのだ。


よし、いい感じではないだろうか。泡立て器で持ち上げた生クリームがゆっくり落ちて積み重なっている、ケーキの表面に塗る生クリームの完成だ。半分を別の容器に取り分け、残りの半分をデコレーション用の生クリームの固さになるまでまた無心で混ぜ続けるのだ。


よし、生クリームの完成だ。スポンジケーキは、事前に焼き終わっているので後は生クリームを塗ってデコレーションしていくだけだ。


クイクイっとズボンが引っ張られている。お猿達が暇になってきたのだろう、ここは飴玉で場を繋ごう。ライフさんの協力で生命の大樹の樹液は大量に手に入れている。樹液と濃縮エキスを混ぜて煮詰めて冷やすだけで完成するので大量生産できる。形は風魔法で削って丸っぽくすればいいので魔法の練習にもなって一石二鳥なのだ。


「ごめんね、ちょっと待ってて。これあげるからあっちで食べてて。」


「みゅ~?これおいしいの?」


「いろんな味があって甘くて美味しいよ。」


「おにいちゃん、ありがとう。あっちでたべてる。」


「もう少しでケーキも出来るから食べ過ぎないでね。」


「は~い。」


よし、作業の再開だ。スライスしたスポンジケーキに生クリームを塗ってフルーツを置いてを数回繰り返す。次に、重なったスポンジケーキの側面に生クリームを塗っていく。


下地が完成したぞ。これでも十分美味しそうだけど、見た目は真っ白な生クリームの色の一色しかないのでもう少し華やかにしないとお猿達は喜ばない。


最後はデコレーションだ。固めに作った生クリームを袋に入れて端っこを切って絞り出せるようにする。それっぽく表面と側面をデコレーションしていく。案外難しいがこの作業は初めてではないのでなんとかなる。


うん、いいね。最後に見映えがよくなるように、上にフルーツを乗せて完成だ。


「おにいちゃん、できた~?」


「今できたよ、テーブルにもっていくから待っててね。」


「はーい。」



...........................おや?僕は誰と話しているのだろう?


お猿達は........5匹いる。ライフさんは、僕の事を「おにいちゃん」なんて呼ばないし、主様も、先生も師匠も同じだ。考えても仕方ないね、リビングのテーブルに行けば答えはわかる。


.....え?モカさん?いや、小さいし髪も黒い。でもよく似てる。幼い頃のモカさんにそっくりな少女が椅子に座っている。


「えーと。君は誰かな?」


テーブルにケーキを置きながら質問してみた。


「みゅーだよ~。おにいちゃん、たべてもいい?」


「みゅーちゃんか~、どうぞ、たくさん食べてね。」


「わ~い。いただきま~す。」


.........普通に会話してみたけど、なんだ?【みゅー】....【ミュー様】か!


えっ!でもなんで主様が反応してないんだ?お猿達も。


『セト、先程から一人でしゃべっていますが大丈夫ですか?』


主様気づいていないのか?僕だけが見えている幻覚?いや、違う!苦労して作ったケーキが目の前で美味しそうに黒髪の少女に食べられている。


「主様。ミュー様ってふわふわの黒髪が腰くらいの長さまであって、ゆったりした白い金糸の入ったローブを着ていて、目の色が青色の小さい女の子ですか?」


『!なぜ?!セト、事と次第によっては覚悟していただきますよ。』


怖っ!アルファリエさんに向けていた圧よりも強い力を感じるんだけど。


「えーと、目の前でケーキを食べてます。」


いやー、怖い、圧が引いたけど膝が笑ってるよ。


『セト、申し訳ありません。その方はミュー様で相違ありません。なぜセトにだけ見えているかはわかりませんが。』


なるほど、モカさんに似ているこの子がミュー様で間違いないみたいだ。


「ねぇ、ミューちゃん。」


「な~に?おにいちゃん、ケーキおいしいね。」


「ありがとう。みんながミューちゃんのことが見えないみたいなんだけど、どうしてかな?」


「みゅ~?わかんない。」


「そっかー、わかんないか~。」


ミュー様もわからないらしい。


『セト、ミュー様に触れてみてください。』


え?小さい女の子に触るとか、マイマザーが知ったら一年くらいはネタにされる案件なんだけど。


「え、えと、手に触れるくらいでいいんですか?」


『それで構いません。』


よし!色々な覚悟を決めよう。マイマザーが見ていない事を祈ろう。


「ミューちゃん、握手しない?」


「なんで~?」


そりゃそうだ。小さい女の子を誘う怪しいお兄さん、絵面がヤバすぎる。


「うーん。また美味しいお菓子を作る約束の握手かな?」


「みゅ~、いいよ~。」


ミュー様がケーキを食べる手を止め、右手を伸ばしてきた。


「じゃあ、約束だね。」


ミュー様の手を握った瞬間


<プレイヤーが初めて女神との契約に成功しました>


【職業が 女神の守護者 に強制的に変更になります。】


【種族が 使徒(ヒューマン) に強制的に変更になります。】


<プレイヤーが初めて 種族 の変更に成功しました>


【称号 守護者?保護者? を獲得しました】

【称号 共に歩みし者 を獲得しました】


えー。人間やめちゃったよ。後で色々確認しよう。


『ミュー様!おはようございます。お目覚めをお待ちしておりました。』


「キャーーーー!」


どうやら、皆にもミュー様の姿が見えるようになったみたいだ。


「あいちゃんに、もんちゃんたちもひさしぶり~。」


ここは僕が話を挟むのは場違いだね。少し離れて成り行きを見守ろう。ライフさんや、先生、師匠も直ぐに来るだろう。



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