29. ご迷惑をおかけしております

「みんなにクランに誘われたんだろ、入らなかったの?」


学園の放課後、帰ろうとするタイミングで拓人に捕まって少し話している。


「ああ、開人と、未来と一緒にパーティー組んでて、クランも作るつもりで動いてるからな。」


開人くんと、未来ちゃんの苦労が見える。一人にしたら何をするかわからないから見張っているのだろう。拓人は財閥を率いる社長になる予定だ、容姿が髪の色しか違わないのであれば将来的に気づく人がいるかもしれない。


「本当に、開人くんと、未来ちゃんのこと大切にしろよ。」


「清一も俺達のクランに入ってくれよ。」


ハハハハ、このイケメンめ!お前の誘いなどに乗るものか!いまだにプレイヤーに会えていないのにクランに入るも入らないもない。


「無理。というか、クランがちゃんとできてから誘えよ。それに、拓人も断るってわかってて誘ってるだろ?」


「まぁな、未来が一応勧誘しろってうるさくてな。」


拓人の妹の未来ちゃんはまだ小学6年生だ。将来確実に美人になると思わせる容姿をしている。拓人の身体能力と開人くんの頭脳をあわせもった川上家の神童と言われている。ちょくちょく家の道場に来ては婆ちゃんと琴音と稽古している姿も見る。人当たりもよく素直で良い子だ。


ちなみに、拓人の頭はバカではない成績は常に上位をキープしている。開人くんが天才なのだ。


開人くんが頭脳、未来ちゃんがマスコット件対外対応、クランにおける拓人の役割はなんだろうか?


「開人くんと、未来ちゃんいたら拓人なにするんだよ?やることないだろ。」


「ないな!だから、清一に負けないためにLVを上げているところだ。」


「威張るなよ。それとLVは確実に負けてるよ。」


僕のLVは1だ。僕より下のLVなんて考えられない。


「そうなのか?まぁゲームの中で会うのが楽しみだけどな。」


いつになるかわからないけどね、僕も楽しみだよ。声に出して言わないけど。


「そうだね。」


しばらく拓人と話していると、近くに人の気配がしたので振り返ってみた。 


「あれ、委員長。珍しいね。まだ帰ってなかったんだ。」


そこにいたのは、クラスの委員長こと、【牧野まきの すすむ】くんだ。個性が強いクラスをまとめるよきリーダーでもある。大和さんとは、幼少の頃からの知り合いらしくブレーキ約として昔から活動している苦労人だ。


「ごめんね、立ち聞きみたいになっちゃって、二人に聞きたいことがあるんだ。」


委員長から話しかけてくるなんて珍しい。


「答えられることなら、拓人もいいよね。」


「ああ、構わないぞ。」


「ありがとう。今Ωで華月くんの妹さんの刀を打ってるんだけど、彼女とのコミュニケーションが難しくてね、要望通り作れるか心配なんだ。二人なら彼女との付き合いも長いしどんな物を求めてるかわかると思ってね。」


.......ごめんなさい。マイシスターがご迷惑をおかけしております。 


「なんか、ごめんね。クラスメイトの皆に面倒見てもらって。」


「いや、大丈夫だよ。彼女はクランの中では対人戦闘において最強だからね。こちらとしても凄く助かってるんだ。」


「琴音は強いというか、うまいんだよな。俺だと簡単にやられるからな。」


自慢にならないぞ。この残念王子め。今度、家に遊びに来たときに鍛えてやろう、婆ちゃんが楽しそうに木刀を振るうはずだ。


「で、刀の何が聞きたいの?」


「えーとね、琴音さんの言葉をそのまま伝えた方がいいかな。」


『.....ちょっと長い方がいい。.....折れたら嫌。.........ゲームみたいなのがいい。』


.....マイシスターよ。他人にこれは理解できないぞ。


「ちょっと長い方がいいは、前に使ってたものと比較してだと思う。」


「ふむふむ。なるほどね。」


委員長は、律儀にメモをとっている。真面目だなー。


「折れたら嫌は、そのままだと思うよ。メンテナンスが余り必要がない物が欲しいんだと思う。」


「メンテナンスフリーは無理だから、耐久性を上げる方向性になるのか....」


おお、ぶつぶつ言いながらメモをとっている。我が妹の為にありがとうございます。


「最後のゲームみたいなものは、僕がやってたレトロゲームの影響だろうね。刀身に炎とか水とか雷みたいな属性を付与してもらいたいんだと思う。」


「属性の付与.....やったことないけど試してみようかな。だけど素材が.....」


無理を言って本当にすいません。


「委員長、無理しないでいいからね。その内ゲームの中で会うこともあると思うし、琴音にはその時僕が何か渡すこともできるから。」


「ああ、別に無理をしてるつもりはないんだ。スキルLVも上がるし過程の成果物は皆で使えるからね。」


さすが、頼れるクラスのリーダー、人ができてる。


「短刀もあった方がいいんじゃないか?道場で使ってただろ。」


「最近は見ないけど、使ってたね。防御にも投擲にも使えるから便利だよね。」


「短刀....肉厚にして防御と耐久性を上げると投擲距離が下がるかな、投擲に主観を置くと......」


今わかった、委員長は、生産ガチ勢だ。


「まぁ、無理しないでね。」


「こっちも楽しんでるから大丈夫だよ。あっ!そうそう、華月くんはランダム転移開始だから知らないかもだけど、来月の終わりにPVPの大会があるらしいよ。ギルドの掲示板に張り紙があったんだよ。」


「そうなのか?俺も毎日ギルドにいっているけど気づかなかったぞ。」


「僕が確認したのは昨日の夜だから、その前に見たのかもね。たぶん今日か明日辺りに運営のアナウンスが入ると思うよ。」


PVPのイベントか~。出れるの?


「ランダム転移開始は出れるの?」


「前のPVPのイベントの時は出れてたと思うよ。ランダム転移の人は控え室が隔離されてるみたいで、情報クランも接触できなかったらしいんだ。対戦相手からしか聞いた情報しかないんだけどね。」


「聞いたね、拓人。運が良ければそこで泣かしてあげるよ。」


情報が正しいならPVPの大会まで一月以上ある。準備期間としては十分だ。その内運営からルールの詳細も来るだろう。


「うっ!レ、レトロゲームとは違うぞ。」


「僕らのクランからも何人か出る人がいると思うから楽しみだね。」


楽しみだね。やっと他のプレイヤーと会えるかもしれない。.....出場できればだけど。

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