兄さんと出掛けているのは……?
優燈Side
兄さんが自分の部屋から出ていく音を聞く。その数秒後、玄関の扉を開く音が聞こえた。つまり、兄さんは出掛けに行ったということだ。
いつ出掛けるか、昨日聞いていなかった。そのせいで、兄さんが玄関の扉を開ける瞬間を待ち続けるはめに。
僕も兄さんが出ていった一分後に外へ出た。生温い風が僕を包み込む。やっぱり、夏は好きじゃない。
左右を見渡して、兄さんの姿を見つける。……いた。かなり遠くにいるが、僕の家の近くはほとんど真っ直ぐなので、微かに見える。
こんな時、兄さんとは似なかった視力の良さが役に立つ。こういうところだけは似なくて感謝感謝。
思い切りダッシュするわけにもいかないので、早歩きで行くことにした。兄さんは歩きだし、見失うことはないだろう。
しばらく距離をとって、歩き続ける。振り向くかな、と思ったけど、一度も振り向かずに進む。まぁ、僕も歩いていてよほどの事がない限り、振り向きはしないかな。
真っ直ぐな店のその隅っこの方の店に兄さんは入っていく。注意深く探索しないと、絶対に気づかないような場所だ。
その瞬間、ダッシュで店まで走る。看板にはflower cafe(フラワーカフェ)と記載されている。
そのまんまの名前だ……もう少し、良い名前はなかったのだろうか……?店の雰囲気を見る限り、四季に合わせて花が置いてある店らしい。
今は夏の花がたくさん置かれている。綺麗に育てているのは、素人の僕でも分かる。いや、重要なのは花よりも兄さんの事だ。
兄さんが自らこんな店を選ぶとは思えない。もしかしたら待ち合わせに使う店だけかもしれないが、それなら尚更あり得ない。
こんな店を選ぶとしたら、相手は女子か……?女子力の高い男以外、この店を選ぶことはないだろう。
店の前でそう推理していると、中の店員さんに睨まれた。兄さんにバレないように、こそこそと兄さんに近い席に着く。
向こうからは見にくく、こちらからはバッチリと見える場所。こういうとき、何かを頼まないと怪しく見えるかな……
そう思い、てきとうにコーヒーを頼む。好きな訳じゃないが、飲めないわけではない。ブラックでなければ、だが。
しばらくすると、僕が頼んだコーヒーが運ばれてくる。飲みながら兄さんの様子を伺うが、相手は一向に来ない。
(あ、このコーヒー、ブラックかも。めちゃくちゃ苦い)
失敗したと思いつつ、カップを置く。兄さんは相手が来ないというのに、全くもって気にする素振りを見せない。
兄さんがこんな人間だということは知っている。それは、待ち合わせの時間には必ず三十分前には待ち合わせについている、几帳面な人間だということだ。
つくづく尊敬してしまう。僕は待ち合わせ時間のギリギリに行くことがほとんどだし、待った記憶もほとんどない。
(こういうところが、兄さんと僕の違うなのかもしれない)
兄さんはサボらない人間。でも、僕はサボっても罪悪感がわくタイプでもない。今思うと、かなり違う。
僕も兄さんみたいになれれば、見直してくれるかもしれないけど、今の自分で結構満足してるからなぁ……
やっぱり、兄さんみたいになるのは難しそうだ。あ、後、間違えてブラックコーヒーを頼んじゃったりするところも、直さないといけないし……
その事で頭を悩ませていると、兄さんに挨拶しながら誰かが座った。男!?それとも女!?
頑張って見ようとするが、ちょうど死角になるところで、顔すら見えない。見えるのは、その相手と話している兄さんだけ。
もう、最悪じゃん……ため息をついた途端、聞きなれた声をかけられた。
「あれ、釜崎(かまざき)。どうしたの、こんなところで。あ、もしかして誰かと待ち合わせとか?」
「い、稲荷(いなり)!?」
顔をあげると、クラスメイトの稲荷がニタニタ顔をしている。兄さんの方をこっそり見ると、こちらの様子には気づいてない模様。
「ど、どうして稲荷が?」
「何よ。別に良いじゃん。ここ、私のお母さんの店なんだし」
「お母さん……?」
「そ、お母さんがここの店長してるの。ほら、あそこにいるでしょ」
稲荷が指差す所には、僕のことを睨んだ店員さんの姿が。今見てみると、確かに稲荷と似ている部分が多い。
「こっちこそ聞くけど……何であんた、こんなところにいるわけ?待ち合わせと思ったけど、待ち合わせならそんな格好しないし」
稲荷の言った通り、僕の格好はてきとうに着てきた服。とてもじゃないけど、人に会うとは思えない。
「……稲荷、そのこと話すからさ……座って?」
「別に良いけどー、忠告として言っとくと私、好きな人いるからね?」
「だから、そう言うことじゃないから!」
「あー、はいはい。分かったよ。座れば良いんでしょ、座れば」
そう言うなり、稲荷は僕の向かいの席に座った。まさかこんな災難に出会うなんて、思っても見なかった……
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