盗まれた財布

仲仁へび(旧:離久)

第1話



 肩が重い。

 眠れない。


 疲れた顔をしながら俺は、ぼうっとした顔をひっさげて人ごみを歩いていた。


 たまに通り過ぎる店に視線を向ける。


 すると、笑顔で積極する店員や、楽し気に買い物する親子、仲よさそうなカップルが目に入った。


 ピントをずらすと、ショーウィンドに映る顔は自分。憂鬱そうだ。


 あちこちにふらふら視線をさまよわせながら、だらだら歩いていたら、どんっという衝撃があった。


「兄ちゃんごめんよ!」


 あっ、やられた!


 薄汚れたシャツを着た子供が、足音軽く遠ざかっていく。


 体が軽くなった。


 ズボンのポケットをまさぐると、財布がなくなっていた。


 でも。まあいい、か。


 ふらふらと町の中をそのまま歩き回る。


 そしたら数時間後、件の子供が目の前に立ちふさがった。


 なぜだか、怒った顔をして財布を差し出していた。


「ん?」


 返してくれるつもりなのだろうか。


 俺は首を振って、その子の横を通り過ぎようとした。


「待てよ」


 視線を向けたら、横から財布を放り投げられた。


「こんなもん盗めっかよ!」


 ああ、そうだな。

 そんなおっかないものが入ってたら、生きるのに必死な子供も思わず遠慮しちゃうか。


 俺は受け取った財布を広げた。


 中には血に濡れたおふだが何枚も入っていた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

盗まれた財布 仲仁へび(旧:離久) @howaito3032

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ