第1話 『あなたに死刑の執行をしてもらいます』


 学校というのはつまらない。つまらないという苦痛に耐える精神を身につける、というのが学校だから、学校とはそれでいいのだろう。これに耐えられなければ、もっとつまらない社会で生きていけない、ということで俺たちは今日も無為に耐える訓練を行うと。


 高校生として学生でいられる、というのは恵まれているのかもしれない。学ぶことに意義を見出だせれば、楽しめるところなのだろうか。

 そんなふうに考えるあたり、最近は学習というものに興味を失いつつあり、学校がますますつまらない。授業がいったい何の役に立つのか、生きていく上でこれが必要なことなのか、と。

 公式やら定理やら憶えなきゃいけないことが多すぎて、クラスメイトの名前を記録するだけの記憶のメモリー容量が足りない方が、今後の人生に難が出そうだが。


 いやまあ、同世代のクラスメートとどうも話が合わない、という俺の性格の方に問題がありそうだが。だからと言って、つまらないお喋りを長引かせることに興味を持てない。こういうのがコミュ障というのか。コミュニケーションがしょうも無い、というだけなんだが。


 そんな俺でも最近は少し、高校生活に楽しみを感じている。正確には放課後の部活動。実態はおかしな先輩に目をつけられた、というだけのことかもしれないが。


 登校する。いつもの教室、いつもの席。同じクラスの皆は、それぞれがグループごとに楽しげに会話している。騒がしい。その輪を維持することにかける情熱と努力に、ご苦労様と心の中で呟いて自分の席に座る。知的刺激も面白みも無い会話になんの意味があるのか。どうでもいい小さなことをまるで人生の一大事件のように語るのは、それもまた、無為に耐える為の方法論のひとつだろうか。


 机の中に手を入れる。ん? 何か入っている。取り出すは封筒。白いシンプルな封筒。表も裏も何も書かれていない。

 まさか、ラブレターか? それとも果たし状か? などという、そんなイベントが俺の学生生活に起きる筈も無し。

 こんなものを俺の机に入れるのは、おそらくは僕先輩だろう。他にはいない。さて、今度は何を? 白い封筒を開けて、中身を取り出す。畳まれた紙を広げて読んでみる。



『あなたに死刑の執行をしてもらいます。


 〇月〇日、〇〇死刑囚の死刑を執行します。


 この度、あなたに死刑の執行をしていただくことになりました。

 日本は社会治安の維持の為に死刑制度を必要としております。死刑制度の健全な維持に協力することは国民の義務です。

 ご協力をお願いします』



 死刑の執行? いきなりだ。封筒にもこの紙にも、差出人の名前は無し。他には何も無し。

 書かれている字はプリントアウトされたもので、印刷された字では誰が書いたかは解らない。解らないがこんな文面を書いて人の机に入れる人物なんてのは、俺は一人しか知らない。

 あの僕先輩からの課題レター。どうやら次の興味は死刑らしい。あの僕先輩が興味を持つものは、物騒なものが多い。だからこそ考察する価値がある、と僕先輩は言いそうだが。今は死刑がブームとは。

 

 死刑、ねえ。国連もやめろと言って、世界では死刑廃止になる国が増えてる、というのは聞いたことはある。

 と、聞いたことはあっても、はっきり言って自分の生活とは関わりが無い。なのでどうでもいい。興味が無いので調べたことも無い。知り合いや親戚が死刑になったという話も無い。


 どうやら今日の放課後は、死刑について僕先輩が語ってくれるらしい。

 俺と僕先輩しかいない部活動、論理学部。

 俺は部活で僕先輩の話を聞くために、学校に通っているのかもしれない。


 僕先輩、

 一年上だが、背は低い。たまに見せる可愛らしさがいい。常に見せてるヤバさがなおよろしい。話をするだけで、映画よりもゲームよりもおもしろいという、希少な人物。

 僕先輩のことを簡単にまとめて紹介するなら。


 人の気持ちの解るサイコパスだ。

 見た目だけならちっちゃ可愛い。

 だけど中身は残念で壊れている。

 腹の底を話せば怖い女子高校生。

 自分のことを僕というボクッ娘。

 自分のことを思考の下僕だから、

 自称は僕がしっくりくると言う。

 これまで俺が出会った人の中で、

 最もぶっ飛んでるマトモな人だ。

 マトモというのも度を越えれば、

 狂人と変わらないかもしれない。


 そんな僕先輩に気に入られた俺は、さて、なんだろうか? その辺りもいずれ僕先輩に聞いてみることにしよう。論理立てて教えてくれるかもしれない。

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