第4話 鬼Oniパニック!
(一)
なんだこれ…?
ヘビーな悪夢の中で逃げまどっているような
いや、これ本当に夢じゃないのか?
妙に現実感のある…はやく、早く醒めろっ!
どーん どーん
中空から火の玉が降り注ぎ、家といわず土地といわず全て焼きつくす勢いで燃え盛る。
炎に照らされた暗闇を逃げ惑う男たち
野太い悲鳴、火色より赤い噴出が雨の様に大地に注ぐ。
何よりこの…時折見える巨大な影
アメリカンプロレスでもいない…3メートルはある背丈
筋骨隆々としたマッチョに、長い爪ある3本指
そして額から伸びるのは、お決まりの2本角
ベタな姿…幼児でも鬼ってわかる。
なんかのゲームで見たっけ、我ながら凄い再現力
もうわかったから、そろそろ起きようかな。
闇から白い手がにゅっと伸びて僕の頬をつねる。
ああ、良い尻…じゃなかった彩芽。
「夢じゃないってわかったぁ!」
こちらの考えお見通しか、さすが幼なじみ!
「碓井くん、とにかく、どっか隠れないと!」
家々ほとんど燃えてんのにどこに隠れんだよっ!
僕らは悲鳴を上げながらめちゃめちゃ走り回った。
「尊きお方、こっちですじゃこっち!」
皺くれた手が招く。さっきのじいさん…いや長老様
生きていたのか。
「ひとまずこの井戸の中へ…」
深そうな井戸、真っ暗だが炎が避けられ、鬼からも隠れられる。さすが年の功、ナイスアイディア!
入ろうとして躊躇、
入るはいいけど、これどうやって出るんだろう?
「そんなこと考えてる場合っ!さっさ入れ!」
彩芽さん、蹴るのはよして。
「おや…こんなところにも女がいたよ。」
甲高い声…誰の声?
(二)
うへーっ…
闇の中から巨乳が現れた。やっぱり夢だと確信。
青白い肌 翠がかった長い髪
ヌード はだか 全裸っ!
2メートル越えの筋肉質だが
ボンキュッボンのナイスバディ
すらりと長いおみ足
髪がみどりだと下半身も翠なのね。
美しいお顔、まぁ角あるけど
まるでリアルら○ちゃん…
ばん!
横つらを張られた。彩芽さん…ジェラシー?
それとも貧乳コンプレ…
ばん!
「気の強い娘だねぇ…嫌いじゃない。」
おろろ…お姉さま、百合ですか?
「あたしの勝手でしょ、放っておいてよ!」
おいおい彩芽さん、鬼様を刺激するような発言は…
「ほう…わらわの姿に怯まぬとは面白い。」
目は奪われましたけどね。
「鬼なんか、和風RPGで見飽きてるわっ!」
彩芽が半身になって構える。
お前、空手なんか習っていたっけ?
おいおい、どうやらゲームと違うんだからね。
ま、夢なら問題ないけど。
鬼がニュッと笑った…て言うか笑うんだね。
「この茨木に挑むか、面白い、愉快な夜じゃ!」
「尊き御方、お逃げくだされっ!」
横からじいさんが杖でナイスバディに殴りかかった。
ふん
ナイスバディは口の端を少し歪めると、左手でじいさんを指差す。一瞬、辺りが青白い光に包まれた。
ぼろぼろ…
黒い塊が崩れ落ちる。焦げた嫌な臭い…あれっ、じいさん何処にいった?
彩芽が右手で口を押さえる。見てたのか、いまどうなった?もしかして…。
「どうした娘、かかってこぬのか?」
とびっきりの笑顔…そう見えた。
挑発にのるなよ…ゲームじゃないんだから。
うおぉぉぉ
彩芽が気合いと共に蹴りかかる。
バカ、戦ってどうすんだよ!
ナイスバディが指先をパチンと鳴らした。
小さな青白い光が彩芽の腹部を貫き、けいれんしたヒップがプリプリしながら地面に落ちた。
(三)
おい…おいっ彩芽、あやめさん!
側に行きたいが、身体が凍りついたように動かない。
ナイスバディがこっちを見てる。
「安心しな、女は殺さないよ。」
そう言うとぐったりしている彩芽を抱き上げた。
「ふん、可愛い顔して…。」
口から真っ赤な長い舌
ペロペロと彩芽の顔を舐め回す。やっぱり百合か…
いつの間にか、ナイスバディの周りに鬼たちが集まってきている。
ひぃふぅみ…5匹、たったこれだけでも凄い迫力。
みんな裸、みんな男、虎のパンツは履いてない。
皆さんご立派、腕くらいある。邪魔じゃないのかな。
「そいつ男だ。やってしまいな!」
鬼どもがじわじわ寄ってくる。
やるったって女鬼が百合なら、君らホモってことないよね。だらんと下がってそっちのやる気なさそう。
殺すの…食べるの…やっぱりそっち?
「おっ…。」
足が滑った。
ドボンと井戸の中へ、やっぱり深いが水深は浅い。
底から見上げた。
どうやって上がるの…
我ながら意味ない考え、状況考えろよ。
月明かりを遮って鬼の顔が覗く。
夢ならさっさと醒めろ!
半身乗り出してきた。深いから上がれないよぉ…
あーあ、どうしよ。現実感のない頭はよく働かない。
ぴぃいいいいいいいいい
闇夜をつんざいて高音が辺りに響く。
どぅどぅどぅどぅどぅ
数十の馬蹄の轟き
覗いていた鬼の顔が引っ込んだ。
「けっ、検非違使かい!」
ナイスバディの声が聞こえる。
なに、けび…どういうこと?
「検非違使なんぞ怖くもないが、尉の渡邊綱めの持ちやる神刀・鬼切丸はやっかいじゃ。おお、考えるだけでこの左腕がじんじん痛むわい。皆のもの引き上げるぞ!」
「井戸の中の男は…。」
「ネズミ一匹、放っておけ。」
そして気配は消えた。
助かった…。
一瞬、ホッとしたがすぐ思い出した。
あーあああっ、彩芽っ。どうしよう。
(四)
ああ、それで僕、なんで縛られてるんだろう?
鬼の襲撃から助かり、井戸にいたのを発見され
引き上げられたまでは良かった。
しかし格好と荷物を見られて速攻縛られた。
「もう一度聞くぞ、お主は何者じゃ?」
グループのリーダーらしい中年男
身長は鬼ほどはないものの、
男たちの中で群を抜いてでかく筋肉質
180cmくらいかな
頑固そうな二つに割れたけつ顎
鼻下の黒い髭を左右にピンと立たせて
大きな獅子鼻でふんふん息を吐きかけながら
ぎょろりと剥いた目でこちらを睨みつける。
一言で表現すると、感じ悪いおっさん。
威張りくさった嫌な奴
ピシッ
鞭が肩を打った。いてっ、暴力反対。
「若造っ、綱様のご質問に答えんかっ。」
あばた顔の太った蟹みたいな男、僕より身長低い小男が再び鞭を振り上げた。
「与八やめよ。我ら官職よ鬼どもとは違う。検非違使は無理無体はせぬのじゃ。」
綱と呼ばれた大男は僕をじっと見た。
「その風体、その荷物、お主がただ人とは違うのは見ればわかる。異国の者か、それとも鬼の券属、もののけの類いか?」
「だからぁ、さっきから何度も言ってます。僕は人間っ、日本人・碓井光だって!」
ピシッ
いてっ
「たばかろうてか!にっぽんじん、にんげん、そりゃ何のことじゃ?そもそも、捕まった鬼が、はいそうでございますと言うか?綱さまっ、鬼の襲撃したる村にただ一人、殺されもせず常ならむ格好でいたるが何よりの証拠。このような者、問答無用で斬り捨てなさるがよろしかろう。」
「もし僕が鬼やもののけなら、なんで大人しく捕まってるんですか?もしそうならこんな縄、簡単に外して皆さんを皆殺しにしますよ。」
「ほらっ、正体を現しよったぞ!」
「ものの例えですって…ああ、もうっ、頭悪いのかな?」
「なんと申した!」
蟹が腰の太刀に手を伸ばした。
「やめぬかっ!」
綱と呼ばれた大男が大音声を上げた。
「この者の申しよう理解に苦しむ。さりとて、鬼やもののけとも断ぜられぬ。この上は洛中に引き立て、あの方のご判断をいただかねばなるまい。」
蟹が大男へ向きなおった。
「綱さま、あの方とはもしや?」
大男は大きく頷いて言った。
「そうじゃ、陰陽寮の守であられる安倍晴明様じゃ。」
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