⑪紅、白、黒
その後、一旦その場は解散となりクロハネとカエデは使用人室へと戻っていった。俺とコンはゴウリに会うため、裏口へと向かう。そして裏山に着くとタバコに火をつけ、ゴウリを呼ぶ。
「コン、キサラギ、また会ったな」
「こんにちはゴウリ。ちょっと聞きたいことがあるんだけど」
タバコを差し出し、コンが聞いた。
「今日康一さんの部屋を覗いた時、なんで部屋に入らなかったの?」
ゴウリは一瞬口篭ったが、ゆっくりと答えてくれた。
「血が、見えたんだ。人間の血が」
「ええ、あったわね」
「血がどうしたんだ?血が苦手なのか?」
ゴウリとコンは同時に頷く。
「キムナイヌはね、人間の血が嫌いなの。だから、人を襲ったとしても殺さないのよ」
「じゃあやっぱりゴウリは犯人じゃないんだな!」
うん、と答えるコン。表情はまだ固いままだ。
「何か他に見えなかった?人影とか、怪しい物とか」
首を横に振るゴウリ。
「わかったわ。ありがとね、ゴウリ。また来るわ」
またな、とだけ言うとゴウリは山へと駆けていった。
「今ので何かわかったか」
「ゴウリが犯人じゃないってことだけね」
それから館の中と外をくまなく探し回ったが、成果はなにも得られなかった。強いて挙げれば外にはゴウリ以外誰の足跡も無く、完全にこの館が孤立していることが分かったくらいだった。
客室に戻った俺達は、カエデが用意してくれたサンドイッチをつつきながら事件のことについて話し合っていた。何か新しい手がかりはないか、気になることはないかを確認し合う。時刻はすでに18時を迎えようとしていた。残された時間はあと12時間。
「そういえば、窓ガラスを割ったのはいつなんだろうな」
「どういうこと?」
「いや、だってさ。窓ガラス割ったらデカイ音するだろ、きっと」
それもそうね……と顎に手を当て、考え込むコン。すると何かを思いついたように顔をあげる。
「何か思いついたか?」
「いや、全く。でも窓ガラスがこの事件のキーになっているのは私も確かだと思うんだけど.......」
ううん、とまた唸るコン。やはり、探偵でも警察でもない俺たちに犯人を探すなんて、無理なのだろうか……
客室のドアが、叩かれる音がする。カエデの声がドア越しに聞こえてきた。
「どうした」
ドアを開けると、憔悴し切ったカエデが首を振り乱していた。
「クロハネの鳴き声、聞こえたぁ?」
「いや。聞こえてないが」
「もう日没過ぎてるのよぉ……」
薄らと、嫌な予感がした。俺とコンは顔を見合せたと同時に客室を飛び出し、裏口から家の周りを捜索した。見当たらない。するとコンが大声で呼ぶ声が聞こえた。急いでそちらへと向かう。
「どうした、なにか見つけたか」
「風見鶏が、折れてる」
屋根の上に佇んでいた風見鶏が、根元から折れていた。まるで何かに踏まれたかのようにぐにゃりと曲がっている。
それを見ていると、突然、どさりと屋根から雪の塊が降ってきた。
「うおっ、びっくりした」
しかし、それは雪ではなかった。雪の塊のようにみえた「それ」は、雪化粧で真っ白に染められた、クロハネの冷たくなった身体だった。
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