第18話 12錬士

(一)

次の日、僕たちは成田空港にいた。

ヴァチカンからやってくる法王12錬士の4人を出迎えるためだ。福西顧問も賀茂、左近寺両先輩もスーツに身を包んで緊張の面持ちだ。僕はスーツを持っていないので学生服で参加している。

「あのー。」

僕は恐る恐る顧問に聞いた。

「今から会う12錬士ってどれくらい凄いんですか?」

ある程度魔法が使えるようになった僕の純粋な興味

「そうじゃの…到着までまだ時間があるから、少しだけ説明しておこうかの。」

世界中に20名しかいないAクラスの過半数で構成する12錬士は、法王錬士団の常務を決定し執行する団長直属の機関である。

Aクラスの魔法能力は人がたどり着ける至高の能力と言われ、伝説の魔法使いと同等であるとも言われる。特にAクラス最強を争うガブリエル様とラファエル様の力は、次期Sクラス昇級の最有力候補であると言われている。

「Aクラスでそれだけ凄いなら、それ以上のSクラスってどんだけ強いんですか?」

あのハウルっておじいさん…あんまり強そうに見えなかった。

「Sクラスは世界に3名だけじゃ。ハウル団長と中国支部の東丈明老師、それにアラブのサラディン王子じゃな。Sクラスの力は神に迫るとも言われておる。」

神に迫る能力があるなら、ケチケチせずにSクラスが出てくれば速攻解決じゃん。

「なんか変なことを考えておらんか?」

いえいえ、そんなことありません。

(二)

「ヨーロッパエア333便、あと10分程度で飛行機が着くな…。」

賀茂先輩がそう言ったとたん、空港じゅうに聞いたことのないアラーム音が鳴り響いた。

「緊急事態発生、緊急事態発生。お客様は空港から外に出ないようにお願いします。お客様の冷静な対応を空港関係者一同お願い申し上げます。」

その頃、空港管制室は完全にパニックに陥っていた。

「ラウンディングしようとする各航空機に連絡、上空待機、いや他の空港へ向かえと!」

「どこへ向かえと…」

「そんなことはそれぞれ考えろ!」

「管制室長…滑走路で待機している飛行機はどうしましょうか!」

「戻せ!こんな状況で飛べるわけがないだろうが!」

室長は信じられないものを見る面持ちで外へ目を向けた。恐竜、翼竜、怪物…、全長10メーターはある羽のある化け物が3匹、空港の上を我が物顔で飛び回っている。

「ヨーロッパエア333便が降下してきます!」

「馬鹿な!ちゃんと連絡したのか?」

「応答がありません!」

「連絡を続けろ!」

「はいっ!メーデーメーデー、こちら管制室…333便応答せよ、応答せよ!」

その頃、僕らは空港内の混乱をすり抜けてオープンデッキに出ていた。

「妖蛇クバアかっ…それも3体も…。」

賀茂先輩が空を見て叫ぶ。

「こちらの情報が漏れておったようじゃの。」

福西顧問は心配そうだ。

「クバアは左近寺先輩が倒したんじゃないんですか?」

富士で倒したと聞いた気がする。

「クバアはクトゥルーの落とし子…分身だからね。クトゥルー有る限り再現なく生まれてくるのさ。」

左近寺先輩が空を飛び回る怪物を見ながら言う。

「馬鹿な、飛行機が1機下降してくるぞい!」

遠目にも分かった。機体には333の数字…

(三)

「先輩っ!」

僕は先輩たちを見た。

「無理だ…遠すぎる。我々の攻撃は届かん!」

賀茂先輩が奥歯を噛んだ。

クバアたちが航空機に次々と体当たりした。

「ああっ…。」

僕は衝撃と落胆に襲われた。

機体がひび割れ、炎ともうもうたる黒煙が上がる。

「伏せろ!爆発するぞ…。」

福西顧問が叫び僕たちはオープンデッキに倒れこんだ。

ドゥオオオオン!

轟音と共に333便は空中で粉々に分解した。

ああっ、12錬士もろとも…。

そう思ったときだった。空中に…あれ何だ…大きなシャボン玉?

シャボンの中に人影…それも4つ…もしかしてあれは?

「おおっ、噂に聞く神の盾・バラキエル様のシャボンシェルターか!」

顧問が珍しく興奮している。

シャボンに気づいたクバアたちは、航空機同様に次々と体当たりを食らわすが、変幻自在かつ衝撃を吸収する球体は割れない。

徐々に降下したシャボンは滑走路に着地して割れた。

しつこく追いすがったクバアたちが襲いかかる。

「こっちだ!」

ひとりが駆けながら叫んだ。

背中から…白い羽が……羽ばたいた。

スタイルもすらりと均整がとれて…

まさに名前のとおり天使…。

クバアの鼻面をギリギリでかわして、3匹を引き付けながら滑走路上を飛び回る。

「ガブリエル様は神の軍団の軍師、いったいどういう策があられるのやら…。」

飛んでいく先に筋骨隆々とした男が立っている。

胸いっぱいに空気を吸い込んで、胸骨がパンパンに膨れ上がって見える。

筋肉男にぶつかる直前で羽ある男は垂直に飛び上がる。

目の前に殺到する妖蛇3匹に怯む様子も見せず、筋肉男は一気に息を吹き出した。

その息は気化ガソリンか何かのように一瞬で燃焼し、燃え盛る炎と変わった。

オルルルルルルル…

妖蛇は苦悶の叫びをあげると黒い炭に変わり、風にボロボロと崩れ落ちた。

「ウリエル様のメギドの炎…恐ろしい業火じゃ。」

クバア3匹を一瞬で倒したというのに

滑走路に立つ4人は息ひとつ乱していない。

これがAランクの実力、先輩がたはたった1匹のクバアに苦戦して、ギリギリのところでやっと倒したというのに…。

(四)

「少しバタバタして申し訳ない。我らも航空機内のクルーや乗客ごとすっかり、インスマウス人と入れ替わっているとは思わなかったのでな。」

ガブリエル様が頭を下げた。

金髪碧眼の長身で、いかにもヨーロッパ貴族の若者という風格のある人だ。

「航空機は無駄にしましたが、空港に被害がなくて良かったですね。」

ラファエル様は金髪巻き毛で小柄の可愛らしい女性だ。

年齢はまだ若い…ひょっとしたら年下かも?

「ふん…インスマウスやクバアを寄越すとは、我々も舐められたものですな。」

お腹の出たおじさんがバラキエル様…耳の横で銀髪がカールするカツラを被っている。

「…………。」

無口な筋肉男はウリエル様、口の周りが焦げてる!

「さて、さっそくあなたたちの拠点に向かって引き継ぎを受けましょうか…。」

ガブリエル様に左近寺先輩が言葉を返した。

「引き継ぎ…引き継ぎと言われますと?」

ガブリエル様は左近寺先輩をじっと見た。

「当たり前でしょう…この事案はあなた方には荷が重すぎる。」

今度は賀茂先輩が言葉を返す。

「お言葉ですが…我々は今までやりあってきたのです。協力してことに当たるならともかく、一方的に引き継ぎを言われましても納得いきかねます!」

太ったおじさん…バラキエル様が怒った。

「Dクラス風情がガブリエル様に無礼であろう!」

賀茂先輩は退かない。

「仕事にクラスは無関係でしょう…途中で取り上げられるのは納得できません!」

可愛いラファエル様が口を挟む。

「こういうことは、はっきり言いましょう。足手まといなのです、あなたたち程度の実力では…。」

ガリッ…賀茂先輩が奥歯を噛む音が聞こえた。

「まあまあ…育成という見地からも、我らの一定の関わりはお許し頂けませぬか?」

福西顧問が仲裁に入ったが…。

「福西には悪いが…出来ぬものは出来ぬ。」

ガブリエル様はにべもない。

珍しく左近寺先輩もムッとしている。

雰囲気超悪い…誰かどうにかしてくださーい!



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