第15話 富士潜入
(一)
バラバラバラバラバラバラバラバラ
中に乗っていてもヘリのローターの音が響く。
僕らは左近寺グループのヘリに乗って富士山に向かっている。
メンバーは賀茂・左近寺両先輩と僕だ。入来院先輩は昨日から文字通り寝食を忘れてハッキングシステムを作っており、福西顧問は学校の仕事が残っている。
操縦は例のショートボブの白人女性。近くで見るとハリウッド女優なみに綺麗でナイスバディだ。
なぜ急遽富士山に向かっているかと言うと、なんと、この間着工のニュースが流れたばかりの、インクアノックジャパンの巨大コンピューターセンターが完成したというのだ。常識では考えられないスピードに、聞いた賀茂先輩がひっくり返ったほどだ。しかも、明日から稼働するという情報に、実物を見ないと話にならないと急遽出かけたのだ。
「場所は富士のどの辺だ?」
賀茂先輩の問いに左近寺先輩がタブレットのマップを見ながら答える。
「樹海の中と言ってもいいだろうね。…どうやって開発許可を得たのか不思議ではあるけど。」
僕は下を向いて外を見ないようにしている。
「何だ…新人どうした…あれ、震えてないか?」
賀茂先輩、珍しく優しいけど…高所恐怖症の僕を放っておいてくれますか…。
「どうしたどうした…もしかして怖いのか?」
だから…高所恐怖症だって…おおっ!
賀茂先輩が無理やり僕の顔を外へ向けた。
「うわあああああああああ!」
「どうした…いい眺めだろう。ほれほれっ!」
あああああ、このサディスト!
「若…そろそろ着きます。」
操縦席から冷静な声が聞こえてきた。
「そうか…わかった。」
タブレットを見つめたままの左近寺先輩、おふざけには関わらない主義らしい。
「見えました。」
みんな一斉に窓へ殺到した。僕もつい…。
(二)
コンピューターセンターは不思議な形をしていた。
五角形…そんな感じ
「五芒星か…オーベット・マーシュが東洋の陰陽術や呪術にも精通しているという噂は本当らしいな。」
賀茂先輩が建物を見ながら、なぜかニヤリと笑った。
「あらゆる霊的現象を柔軟に取り込む。ただの狂信者のリーダーじゃないってことだね。暗黒の魔導師、闇の呪術師、あるいはダークサモナーといったところかな。」
冷静な左近寺先輩に賀茂先輩が毒づく。
「呼び方なんかどうでもいいっ…奴はただの敵だ!」
左近寺先輩が肩をすくめたとき、操縦席からの声が空気を変えた。
「樹海から巨大な何かが…何だこれはっ!ぶつかってきます。」
外を見た。本当だ…何だこれ…小学校のころ、図鑑で見たプテラノドンみたいな…でも目も耳も無い…。どっちかと言うと蛇かミミズに羽が生えたみたいな…。
「妖蛇クバアか…クトゥルー直属の半邪神…こんな大物が出てくるとは、ここによっぽど見られたくないものがあるのか!」
こんな事態でも冷静な左近寺先輩、賀茂先輩がイライラして叫ぶ。
「ミサイルでも機関銃でもいい、なんか武器はないのか!」
左近寺先輩は冷静にヘリのポケットを開き、リュック状のものを次々に取り出した。
「民間ヘリだよ。そんなものあるもんか…さあ、これを背中に背負って準備準備!」
へっ…どういうこと?背負うって…もしかして…。
「ぶつかります!」
ぐわーんとヘリが激しく揺れた。空中で機体が横に傾く。窓から黒煙が入ってきた…。
「爆発する…飛び降りるぞ!」
えええええええええええええ…
ヘリの扉が開いた。空気と黒煙が流れ込んでくる。
リュック背負えって…どうやって…
まごまごしていると、背中をどんと蹴られた。
…天地が逆さまになる。足元に空、頭上に森林。
死ぬ…僕は死ぬ…もう死んでる?
背中に…リュックあった!どうやったか知らんけど背負ってた。でも、この後どうすれば…
探っていると、身体にブンッと衝撃が走った。
(三)
「うっ…。」
身体中が痛い…。ここはどこ……僕は死んだ?生きてる?
痛いってことは生きてる?
何も見えない…真っ暗…やっぱり死んだ?
目が慣れてきた。木…森…ああここは樹海か。
紐が木に絡まってる。あのリュックはパラシュートで、僕は必死で開いたようだ。操作法も知らないのに、これが火事場の馬鹿力って奴かな…。
ヘリは?…………周辺には見当たらない。
先輩たちは?………暗くてよくわからないな。
イリイイイイイイイイイイ
上空から何か聞こえてきた。
あの化け物だ………。
空中を旋回して………探してる………僕らのことを…。
木の上じゃ見つかるかも…紐を何とか…なかなか外れないな…。
ドサッ!
「痛っ!」
小さく叫んで口を押さえた。
何とか身体が外れて地面に落ちた。
怪我は……擦り傷くらい…。奇跡だ。
それにしても、ここどこだろう。樹海はわかるけど…
カバンから携帯から部室に置きっぱなし…
財布すら持ってない。非日常な状況は置いといて、帰れるのかな家に…。我ながら変な考え…。
とにかく、先輩たちを探さないと…。
僕はよろよろ立ち上がり、辺りを見回した。
遠くに灯りが見える。
先輩たちじゃなくとも、キャンプか何かの人かも…
僕は周りを警戒しながら灯りに向かって歩いた。
(四)
焦げ臭い…灯りに近づくほど嫌な予感が強まった。
ガソリンのような臭い
やっぱりそうだ…落胆は隠せない。
落下したヘリコプターだ。
機体が二つに折れて燃え上がっている。
辺りに人は………………いないみたい。
イリイイイイイイイイイイ
上空の怪物が目に入る。
ここにいたら見つかってしまう。
僕は足早にそこを離れた。
どこに行けば…そうだ、コンピューターセンターを目指して行けば先輩たちと出会えるに違いない。
ここからは木が邪魔して富士山の位置がわからない。
明け方まで待っても、樹海だから太陽の方角すら定かではないかも…。
ヘリは確かこっちから飛んできたから、その方向に向かえばあの巨大建物に着けるはず…。
暗い樹海をひたすら歩いた。
ここって自殺者も多いんだよな…。
つい変なことを考えてしまう。
怖い考えは怖いものを呼び寄せると聞いたことがある。
考えるな…考えるな…考えるな。
周りの茂みがガサガサ動いている気がする。
風か小動物だ…気にするな、気にするな。
ガサガサが大きく、数も多くなったような。
気にするな、気にしちゃだめだ。…変なものを呼んじゃうぞ。
しひぃやあああああああ!
ああ、もう気のせい作戦は使えない。
ゾンビ…スケルトン…とにかく死体っ…腐乱死体!
こんなに未発見の死体ってあるんですか…
行政は何やってるんだ!
いま怒ってもしょうがないんだけど…。
(五)
「うわあああああああああ!」
呼吸を調えるには距離をとらないと…でも、こんなにあっちこっちから出てきたら距離をとってる暇がない!
「ひぃいいいいいいいい!」
逃げるしかできないって情けない。
ドッジボール得意で良かった。避ける専門だけど…
でもこれじゃあ、いつか疲れてやられる。
うお…杉の大木のところに追い詰められた。
登れる…いや大きすぎて…。
呼吸調えないと…呼吸、呼吸。
「ホワッターッ!」
うん…この声…?
スケルトンの骨が砕けて飛び散る。
「アチャーッ!」
鉄拳がゾンビの頭を砕いた。
ああ、あの操縦してたナイスバディのお姉さん。
よくぞご無事で…。
大木を背に座り込んだ僕の前で、彼女は腐汁を浴びながら数十体の動く死体を次々に倒していく。
気がつくと辺りは静寂に包まれていた。
「凄い、空手の達人なんですね…。」
助けてもらったから誉めなきゃ…。
「クンフーよ。しかし君、それでも魔法錬士?」
きついなぁこの美人…新人ですと言うのが精一杯。
「ふーん、私は行くけど…一人で大丈夫?」
そう言うとスタスタ歩きだした。
待ってくださーい!
置いていかれたら、今度こそ命の危機。
僕は走って彼女を追いかけた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます