三人の若侍

 その三人の侍、田中、宮田、中川・・・・は、姓と顔は見知ってはいるが、これまで平馬は挨拶程度の目礼だけで、誰とも口を交したことはない。

 それにしても。

 一条邸に居たはずのかれらが、なぜいるのか。

 平馬の不審は消えない。


「わ、わか様!か、壁が、粘ついて動きがとれませぬ・・・・」


 宮田が叫んだ。これほど間近で相手の容貌かおを真正面から見据えたのは平馬は初めてのことだ。いつも三人は面を伏せていたので、一緒にまとまれば、しかも互いに興奮して常態ではない今は、なかなかに誰が誰かはわからない。

 それに。

 こんなときに平馬はある事実に気づいた。

 ・・・・三人ともに背丈は自分とほぼ同じ。肉付き、容貌かおの造り、双眸ひとみの大きさなど、どことなく自分と似ているのでは・・・・と、平馬はハッとした。

 かりに同じ格好でいたならば、遠目とおめに見れば、この三人と平馬の見分けはなかなかにつかないだろう。


 このとき、竹沢左京衛門の深慮はからいに平馬は気づいたのだ。

 この三人の若侍らは、緊急時に自分の身代わり、いわば影武者としての役割を果たすために左京衛門に選別されたのだと・・・・。

 だが、いまはそれを確かめる余裕はない。


「竹沢の爺は?」


 平馬がいた。


「そ、それが・・・・よく、わからないのです」


 一人が答えた。どうやら、この宮田なにがしが三人のまとめ役であるらしい。


「・・・・わか様がお出かけになられて半刻はんときあまり、竹沢様は、ご浪人の大曾根様となにやら話し込んでございました。・・・・われらは奥で夕餉ゆうげ支度したくにかかろうと・・・・」


 ・・・・していると、そこに来客があったらしい。田中が様子を見にいこうとしたとき、隣室から突然、が飛び出してきたらしいのだ。三人がを見たのは初めてであったろう。


「・・・・あまりのことにしんの臓が止まる心地がいたしました。し、しかも、お、尾が、三本も・・・・立ちすくんでいると、な、なんと、そのの舌が伸びたかとおもうと、われらにぐるぐるとからみつき、そのまま、われらは、の、呑み込まれたのです・・・・」


「な、なに?では、ここは、の体内かっ!」


 そう叫んだ平馬は急に緊張の糸がほぐれて、尻持ちをつくように座り込んだ。

 クックッと腹の底から笑いがこみあげてくる・・・・。しかも、ここはでもあるらしい。


「わ、わか様、お気をお確かに!」


 いまの今まで慌てふためいていた若侍が、平馬の笑うさまに、ふたたび茫然となっている。


「大丈夫です。なかならば、案ずることはありません」


 おそらく急変の事態に即応して、がかれらを護ってくれたのだろう、と平馬はおだやかな口調にもどって告げた。

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