憤る老侍
(それにしても・・・・)
と、平馬は嘆いている。
大曾根は腕は立つようでも、敵意が無いことは長刀の床上での納め方にもみてとれる。にしても、平馬には次の言葉が見つからない。
隣室から絶え間なくごとごとと物音が響いている。おそらくしびれを切らした綺が『早く追い返せ、追い返せ』と平馬に伝えようとしているのだろう。それを伽紅耶がなだめている
すると、こんな妙な想像が拡がっていった……この閉ざされた空間のなかに
これを大曾根の眼になぞらえてみれば、目の前にはふしぎな
(なるほど)と、平馬は気づいた。大曾根にしても居心地が良いはずはないのだと。とりわけ隣室の蠢きの正体が気になっているのだろうと平馬はおもった。
「さて」
先に声を発したのは大曾根のほうで、片膝を立てて尻の刀の鍔に手をやりかけたときに、がららと勢いよく戸が引かれた。
「や」
次に声をあげたのは平馬だった。
「
竹沢
「こちらの寮に寝泊まりするならするで、なぜに
「あ」
「これ、若よ、あ、とか、や、とか、それしか申されぬのでござるかっ!この
喋る中途で大曾根の姿を認めた左京衛門が、じろりと視線を道之介へ転じた。
「あっ、いや、失礼つかまつった。それがし、大曾根道之介と申す者・・・・」
「ほ、それで、どちらの
「あ、いや、それがし、浪々の身なれば・・・・」
慌てて居住まいを正しながら道之介が口ごもると、左京衛門の先ほどまでの憤慨の矛先が一気に火を噴いた。
「そのような
「あいやしばらく、浪人の身なれば、さような場には・・・・つい
長刀を腰に差しざま立ち上がった道之介の行く手を
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