伽紅耶
夜更になっても、平馬はまんじりともしないで
ちなみに、カグというのは、古代半島(朝鮮)語である。
銅を意味する半島語の“kuri”を語源としている。万葉集によく出てくる奈良の〈天の
ということは。
・・・・・そんなことをとりとめもなく平馬は考えていた。
トントン。ドドントン。
風が引き戸を揺さぶっている。
「や!」
燭台の
藍地小紋の
いや、
〈おやおや、昼間に会ったおりは、もそっと大きかったぞ、大きかったぞ!〉
どこかしら面白がっている様子がみてとれた。もしかすれば、綺と一尺女は
蠟燭の灯りは、二灯しかないのに仄かに女の周りが明るい。目の錯覚ではない。平馬は周りの気がぼんやりと輪郭を帯びながら、ふるふるふるると震えているような力を察した。
「や!」と、平馬が驚いた。
〈おやおやおやや、あららのら〉と、
これは、綺の呪文である。滅多に使わないが、破邪の法ではなく、
平馬には使えない。
それこそ、うかつに使ってしまえば、取り返しのつかないことになる。神の
「あ!」
平馬は
《これ、やめてたもれ》
叫んだのは女である。
天井から
「ひゃあ」
誰が叫んだ声であったろうか。
見る間に巻きついた舌が女のからだごとしゃらしゃらと下に落とした。
ぽん。ぽぽん。
女は三尺ほどの少女の背丈に戻っていた。
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※文中の「カグの語源」等については、畑井弘博士の著作に拠っています。
『物部氏の伝承』畑井弘著・ 講談社学術文庫
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