仲間の定義

 それにしても、で、別段、河童烏の失踪、誘拐を口にするほどは真剣に悩んではいないようだった。

 もともとは仲のいいほうではない。はめったに外には出たがらないし、このところ平馬は河童烏とともに外を駆けずり回っていただけに、ほぼ留守番の役割しか担えていないにしてみれば、平馬をに独占されてしまったような気になっていたのかもしれなかった。

 まして。

 もう一人のの一条善哉は京を離れたままである。

 ・・・・善哉がいればちょうど仲間うちの釣り合いというものがとれそうなのだが、おそらくそのこともあっての機嫌というものがすこぶる悪いのかもしれない。そのことに薄々気がついていた平馬にも、こればかりは如何いかんともしがたい。


「河童烏のことは捨て置けというのか?」


 つい平馬も口調を荒げてしまう。


〈そんなことは言っていない、申してはおるまいぞ!〉

「でも、さっきから、どことなく河童烏が居ないのに、せいせいしたような感じが伝わってくるが・・・・」

〈な、なにぃ?平馬、それは言ってはならぬことだ、申してはならぬことだぞ〉


 驚いたことには喰ってかかった。平馬はおやっと頬を引き締めた。


〈・・・・なあ平馬、居なくなったものを気にかけるよりも、いま居るもののことを少しは考えてみたらどうだ?考えてみたらどうだ?〉

「それは・・・・おまえのことか?」

〈一日中、この薄汚いところで、平馬の帰りを待つ身の辛さというものを、考えたことはあるのか?一度でもあるのか?〉

「・・・・待つ身もつらいとはおもうが、待たせる身もいろいろ事情というものが・・・・」

〈な、なにぃ?平馬、おまえは、近頃、屁理屈が多くなってきたぞ、なってきたぞ!のおまえが、外で、人と関わることが多くなったからではないのか?ないのか?〉


 そんなことを指摘されて、平馬は言い返す言葉が見つからない。おもわずおもてを伏せた平馬を見据えて、は三つの尾を互いにくるくると巻き合わせ、その先で平馬の頬をぽんぽんと軽く撫でた。言い過ぎたことを謝罪するなりの所作である。

 平馬はくるりとに向き合うと、右手で頭を撫で返した。左手を使えば叱責の動作だが、右手は仲直りの合図である。

 頭を撫でられては嬉しそうに、くふくふと鼻を慣らした。


「・・・・それで、伽紅耶かぐやと名乗った女人は・・・・」

 気まずさを振り払おうと平馬が話題をそらした。すると、は待ってましたとばかり、

〈あれが、きっと、河童烏の行方を突き止めてくれるだろうよ。突き止めて・・・・〉

と、妙に確信ありげに告げた。

 そのの答えぶりに、妙な違和感をおぼえて平馬は首をかしげた。

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