その名は、綺(あや)
ともに戻ろうと
それは平馬が、物心ついてより一条家の居候も同然の身であったからだ。
一条家は、名家中の名家である。
藤原
しかも。
その五摂家の中でも江戸時代初期、御陽成天皇の皇子が養子にはいって家を継いだ三家がある。
・・・・平馬が育った一条
それに。
〈
妖狐のようにもみえるが、一条家で飼われていた犬に取り憑いた
むしろ、このあやかしの綺は、平馬や善哉にとっては育ての親のような存在、とまでいっては言いすぎであろうが、関係としてはそれに近いかもしれなかった。
難点としては、
〈なんだ、おまえ、この家を忘れたのかと思ったぜ。遅い遅い遅い遅すぎる〉
綺が言う。
〈善哉も善哉だが、平馬も平馬だ〉
さらに言う。
同じ語句を重ねて使うのは、昔からの綺の口癖だった。
〈今朝、おかしな女がおまえを訪ねてきたぞ!おかしな女だ、おかしな女だった!〉
「や!」
平馬が
それは、物の怪を感得したときの動作である。
「ん?では、女は、あやかし?」
すると、綺は首を傾げて、舌を出した。長い舌で、のばすと七尺(約2m)ほどにもなる。おそらく、舌を巻く、とは綺を見た人間が驚いて作った
「どんな女人?」
〈そうだな、おまえに、似ていたな、似ていたな!〉
「似ている?」
〈今夜、やってくるぞ。たぶん。やってくる、やってくる〉
それを聴いて平馬は、綺の尻尾が踊っているのを見た。
これは綺が面白がっている証拠だ。
なにやら妙な緊張を覚えて平馬は綺が長い舌を出して蚊を絡め獲っている姿態のちぐはぐさな動きに驚いていた。
〈そうだ、名を告げていた、かぐや、伽紅耶、そう、かぐやだ〉
綺が舌を巻きながらつぶやいた。
はて、と平馬は首を傾げた。
あやかしが自らの固有の名を告げることは、滅多にない。なんとなれば、名乗ることは、相手への服従、あるいは仲間入りを請う儀礼のようなものであるからだ。
そのあたりのことをもっと詳しく
〈河童烏のゆくえは、わかったのか?わかったのか?〉
「いや、まだ・・・・」
〈捜し方が、間違っているのでないのか?間違っているのでないのか?〉
「・・・・・・・」
〈捜すなら、あやかし
綺の理屈はそれなりに
しかしながら。
あやかし遣いを雇っているのが伊賀者だとしたら、この京の都では、その首謀者たる権力者は、京都
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