第16話

「よしっ! いよいよ封院ダンジョンの探索に行きますか」


 自分の霊服アストラルスーツの特殊能力を知って、若干テンションが上がった弩門は自分の封院の探索をすることにした。


 封院の星門ゲート封院所有者ダンジョンマスターとその関係者を秘宝アーティファクトが封じられている部屋の手前に、それ以外の者達を入り口に転送する。


 弩門は周囲を観察しながら封院の入り口に向かって歩いて行き、封院の中に入って一時間程経って入り口に到着すると、自分の封院の構造を理解する事ができた。


「なるほど……。分かれ道がない完全な一本道の封院なんだな」


 弩門が一人呟いた通り、彼の封院は入り口の広間から螺旋を描くように続く通路を進みながら上に登って行き、その途中で侵入者と戦う為の広間が五つあるというシンプルな構造だった。


 ゲームやアニメ等の物語に登場するダンジョンと言えば、いくつもの分かれ道がある迷路のような複雑な構造をしているイメージだったが、弩門は自分の封院のシンプルな構造を一目で気に入っていた。元々封院の構造などは封院所有者の性格や本質に反映されているものだから、彼が気にいるのも当然と言えた。


「迷路みたいな複雑な造りだったらとても覚えられないだろうし、俺としてはこっちの方が戦い易いな」


 自分で自分の言った言葉に苦笑を浮かべながら弩門は、自分が今いる入り口の広間を見回しながら呟く。


「……今更だけど俺、本当に封院所有者になったんだよな。子供の頃から憧れていたファンタジー世界の住人に。それで封院に侵入者が来たらゲームのボスキャラみたいに戦わないといけなくて……明日、実際に戦うんだよな……」


 そこまで言うと弩門は霊服の埴輪のような仮面の裏で緊張した表情を浮かべて朝、三嶋とした会話を思い出す。


 □■□■


『それで今日は黒栖さんの秘宝に関することでご相談があってお電話をしました』


「……一体何ですか?」


 今から三時間程前。自分の封院の中にあるのが第十三級D種秘宝という、これ以上無い危険物であったという衝撃の事実に疲れ切った表情となった弩門は、スマートフォンから聞こえてくる三嶋の声に返事をした。


『はい。急なことで大変申し訳ないのですが、黒栖さんには明日、私達と戦ってほしいのです』


「……………はい?」


 予想外な三嶋の言葉に思わず弩門が間の抜けた声を出すと、三嶋が詳しく説明をする。


『戦うと言っても正確には模擬戦のようなものです。私達が用意した部隊を黒栖さんの封院の中に入れていただき、黒栖さんにはその部隊を撃退してもらいます』


「模擬戦、ですか」


 実際の戦いではなく模擬戦だと聞いて僅かに安堵した弩門は三嶋に気になったことを質問をする。


「あの、何で模擬戦を? 俺の封院にある秘宝を渡せって話じゃないのですか?」


『そんなまさか。むしろ全身全霊で断固拒否します』


 スマートフォンから聞こえてくる声だけでも三嶋がこの上なく真剣な表情をしているのが分かった弩門は口元を引きつらせる。


「全身全霊で断固拒否って……」


『黒栖さん。黒栖さんはご自身の秘宝がどんな力を持っているのか知っていますか?』


「え? それは、知りませんけど……」


『…… 黒栖さんの封院にある秘宝、厄病呪毒千眼金鎧はかつて、とある異世界に存在していた光と害悪を司る神が装備していた鎧で、その鎧にある眼に映った全ての存在は、この世のありとあらゆる厄災と病魔、呪詛と猛毒に襲われて必ず滅びるそうです。事実、厄病呪毒千眼金鎧の力で多くの異世界が滅びたという記録があります』


「……!?」


 三嶋の説明により、自分が守る秘宝の危険を改めて知った弩門は背筋が寒くなるのを感じた。


「ま、まるで核物質みたいな秘宝ですね……」


『核物質なんて比較にならないくらい危険な秘宝なのです。そして厄病呪毒千眼金鎧を安全に保管できる場所は黒栖さんの封院以外ありません。……ですからご理解下さい。今の黒栖さんは、全身にいつ爆発するか分からない超小型の核爆弾を複数巻き付けた上、紛争地帯を無警戒のまま呑気に歩いているような危険人物に等しいということを』


「………」


 三嶋のあまりな言いように弩門は何も言うことが出来なかった。

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