第12話

「ああ〜……。疲れた。お腹減った」


 ロロアと一緒に自分の部屋に帰ってきた弩門は、大きく肩を落として身体に溜まった疲れを全て吐き出すように呟いた。それだけ今日一日は非常に濃い一日であった。


 朝起きたらいきなり封院所有者ダンジョンマスターになって、


 憧れのファンタジー世界の仲間入りが出来たと喜んでいたら、完全武装の機動隊の部隊が家に押しかけてきて問答無用で麻酔銃の銃口を突きつけられて、


 最低限の説明だけされて憧れのダンジョンアイランドに強制連行されたと思ったら、「異世界から来た女性を武器を持った騎士達から守る」というある意味定番のファンタジー世界の命がけなイベントに巻き込まれ、


 治安維持部隊のお陰で何とか助かったと思ったら、今度はその治安維持部隊に連行されて長時間の取り調べと検査をされ、最後にはロロアを自分の封院ダンジョンの住人にしてほしいと頼まれる。


 弩門はこれまで生きてきた人生の中で今日が一番濃度が高い一日であると思った。


 取り調べに検査、それ以外の書類の手続きを全て済ませて治安維持部隊の本社のビルを出た時には既に日が沈んでおり、朝から何も食べていない上に予想外の出来事の連続でいい加減空腹と疲労の限界であった弩門は、コンビニで適当な二人分の弁当と飲み物を買って部屋に帰ってきたのだ。


『とりあえず食事にしましょう。食べられない物があったら言ってくださいね』


『はい。いただきます』


 弩門の部屋にはテーブル等の家具がなく、彼が弁当を床に置いてスマートフォンの翻訳アプリでロロアに話しかけると、彼女は恐る恐る弁当を一口食べる。すると……。


「……!? ………!」


 弁当を口にしたロロアは驚いたように目を見開くと、すぐに一心不乱に弁当を食べ始める。そしてその様子を見た弩門は安心したように頷く。


 ダンジョンアイランドの、この世界の料理は異世界の料理より遥かに美味しい。


 これはこの世界と異世界共通の認識であった。


 当然異世界にも美味な料理や食材はあるのだが、それを口にできるのは王族や貴族といった一部の者達だけで、一定のレベル以上の料理を安定して量産できるこの世界の料理のレベルは多くの異世界を大きく上回っている。この事はインターネットの情報やそれを元にした漫画やアニメで知っていた弩門であったが、こうして必死にコンビニで買った弁当を食べているロロアを見ると、それが本当であったと実感したのであった。


『そんなに急がずに、ゆっくり食べた方がいいですよ。……どうしました?』


 大急ぎで弁当を食べるロロアに、スマートフォンの翻訳アプリを使って話しかける弩門であったが、途中で彼女が弁当を食べながら目から大粒の涙を流し始めた。それを見て彼が慌てて聞くとロロアは涙を流しながら口を開く。


『弩門さん、本当にありがとうございます。見ず知らずの私を助けてくれただけでなく、こんな今まで食べたこともない食事まで食べさせてくれて……。この御恩は絶対に忘れません。これから私にできることがあったらどんなことでも言ってください』


『……それはちょっと大袈裟ですよ。とりあえず今日は食事を食べてゆっくり休んで、それからのことは明日から考えしょう』


 涙を流しながらに言うロロアに、弩門は苦笑を浮かべると彼女を安心させるべくそう言うのであった。

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