第11話

「ふぅ……。ようやく終わりましたね」


 弩門とロロアが全ての取り調べと検査、書類の手続きを終えて治安維持部隊の本部のビルから出て数分後。二人の取り調べを担当していたスーツ姿の女性は肩の荷が降りたという表情で呟いた。


「黒栖さんが話の分かる方で本当に助かりましたよ」


 突然封院ダンジョンという大きな力を手に入れた封院所有者ダンジョンマスターは、その力に酔って人が変わったかのように自分勝手な性格になる者が少なからずいる。ダンジョンアイランドで起こるトラブルにはそんな封院所有者の暴走が含まれているのだが、今日出会った黒栖は自分の力に酔うタイプではないと感じてスーツ姿の女性は安堵の息を吐いた。


 そして一仕事を終えたスーツ姿の女性が部屋に備え付けられてあるコーヒーメーカーでコーヒーを淹れてそれを飲もうとした時、彼女の同僚である治安維持部隊に所属している男の職員が焦った表情で部屋にやって来た。


「あの! 封院所有者の黒栖弩門さんはまだいますか!?」


「いえ、黒栖さんでしたらロロアさんと一緒に帰りましたよ?」


「……っ!? 遅かったか……」


 スーツ姿の女性が答えると、男の職員は脱力して肩を下ろすが、その表情には悔しさだけでなく安堵の色が混じっていた。それを見て不思議に思ったスーツ姿の女性が男の職員に話しかける。


「一体どうしたのですか? 黒栖さんに何かあったのですか?」


「……昼頃、私達は異世界から来た騎士達を拘束した時、黒栖さんの星門ゲートから秘宝アーティファクトの魔力波動を観測しました」


 男の職員はロロアを追って異世界からやって来た騎士達を捕らえた実行部隊の一人で、その時に新しくやって来た弩門の封院の情報を少しでも得ようと星門から放たれる魔力を観測したことを話し出す。


 魔力波動の計測自体は治安維持部隊が常にやっていることなのだが、魔力の波動だけではよっぽど似た能力を持つ秘宝のデータが揃っていたり、その秘宝が有名なものでない限り、秘宝がどの様な存在なのか判断がつかない。しかし男の職員の反応を見る限り、今回は秘宝が何なのか判断出来たのだとスーツ姿の女性は確信した。


「黒栖さんの秘宝が分かったのですね? それでどんな秘宝なのですか?」


 スーツ姿の女性は男の職員にそう質問すると、これから聞く言葉に備えるために気付け薬として自分がいれたコーヒーを一口飲み……。


「や、『厄病呪毒千眼金鎧』ですっ!」


「………!?」


 ぶうっ☆


 即座に吹き出した。


「や、や、や……! 厄病呪毒千眼金鎧ぃっ!? あの『第十三級D種』秘宝の!」


 コーヒーを吹き出した女性は汚れた口元を拭くのも忘れて男の職員に詰め寄り、彼女の剣幕に気圧された彼は慌てて首を縦に振った。


「そ、そうです。あの第十三級D種秘宝の厄病呪毒千眼金鎧です」


「………!」


 男の職員に改めて弩門の封院にある秘宝の名前を告げられて、スーツ姿の女性はよろけるように数歩後退りをする。本当ならばこのまま気絶して現実逃避をしたい気分の彼女だったが、それでも鋼の精神力で何とか踏みとどまった後にゆっくりと口を開いた。


「流石に第十三級D種秘宝となると私達では手に余ります。急いで上に報告をしましょう」

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