第10話

「やはりそうでしたか……」


 ロロアの言葉にスーツ姿の女性はため息を一つ吐いてから彼女を見る。


「ロロアさん。何か自信がある特技のようなものはありませんか?」


「え? ええっと……弓矢がそれなりに得意で狩りではよく獣を仕留めていました」


 スーツ姿の女性の質問にロロアが戸惑いながら答えると、スーツ姿の女性一つ頷いてからは続けて彼女に質問をする。


「弓矢に自信がある、と……。それ以外にできることはありますか?」


「棍棒とかだったら少し……。武器があれば追ってきた騎士達全員は無理ですけど、一人か二人くらいなら勝てたと思います」


(えっ? そうなの?)


 ロロアの言葉を聞いた弩門が彼女の姿を改めて見ると、ロロアは色んな意味で「大きい」女性であった。


 僅かに幼さを残している整った顔立ちに鮮やかな紅の髪。褐色というよりはほとんど黒の肌に大きく突き出た乳房。そのどれもが特徴的であったが、それ以上に特徴的であったのがロロアの身体の大きさであった。


 ロロアのの背丈は二メートルを確実に越えており、更によく見れば腕や脚を初めとする身体の各所に逞しい筋肉がついているのが分かる。


 身体の大きさというのはそれだけで強さに繋がり安い。そこに逞しい筋肉をつけて弓矢や棍棒で武装すれば、ロロアが先程言った一人か二人くらいなら騎士を相手にしても勝てるという発言も決して嘘とは思えない。


「戦闘はそれなりに可能。しかし戦闘以外のスキルには不安があると。……黒栖さん」


 ロロアが弓矢と棍棒で戦えると聞いたスーツ姿の女性は、再び一つ頷くと今度は弩門に話しかけた。


「あっ、はい。何ですか?」


「いきなりですけど、ロロアさんを貴方の封院ダンジョンの住人にされる気はありませんか?」


「ロロアさんを……俺の封院の住人に?」


 スーツ姿の女性の言葉に弩門だけでなくロロアも訳が分からないという顔をすると、スーツ姿の女性が説明をする。


「ロロアさんのように何らかの理由で元の世界にいられなくなったけど、このダンジョンアイランドで暮らすための保証人や術を持たない人は沢山います。本来ダンジョンアイランドの規則ではその様な方々は元の世界に帰還してもらう規則なのですが、それだと少し薄情なのではないか、という声も少なからずあります。ですからロロアさんみたいな事情がある人は封院所有者ダンジョンマスターの方々に保護をお願いしているのです」


「なるほど……」


 スーツ姿の女性の説明を聞いて弩門は納得する。


 確かに封院という「住居」を持つ封院所有者なら住まわせる場所には困らず、食費を初めとする生活費も数人分程度なら毎月振り込まれる十万円分の電子マネーで問題ないだろうし、ロロアのように異世界から来た人間を保護するのにうってつけの人材と言えるだろう。


「それでどうでしょうか?」


「俺は……ロロアさんがよければ構いませんけど……」


 スーツ姿の女性の言葉に弩門がそう答えると、二人は同時にロロアの方へと視線を向ける。しかしロロアは今の二人の会話を理解できていなかったようで戸惑った表情を浮かべていた。


「あ、あの……? 一体どういう事なんですか?」


「つまり、ロロアさんがよかったら、俺と一緒に暮らさないかってこと」


「っ!? ほ、本当ですか? よ、よろしくお願いします!」


 弩門が簡単に要点だけを言うと、ロロアは困惑した表情を驚きのものに変え、勢いよく立ち上がると彼に向かって大きく頭を下げた。このままだと元の世界で行き倒れる未来しか見えない彼女にとって、弩門の申し出は天の慈悲に等しかった。


「話はまとまったようですね。では黒栖さん、ロロアさん。こちらの書類にサインをお願いします」


 弩門とロロアの会話を聞いていたスーツ姿の女性は笑みを浮かべると、今の状況を予想して用意していた、異世界から避難してきた異世界人の保護に関する書類を取り出し二人に差し出すのだった。

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