第9話
弩門とロロアが出会い、異世界の騎士達から逃れるために
「今日は災難でしたね。黒栖弩門さん、ロロアさん」
部屋の椅子に座る弩門とロロアの、テーブルを挟んだ向かい側の椅子に座るスーツ姿の女性が二人に声をかける。ちなみに今弩門達がいる部屋は、内部にいる者達の言葉を自動で翻訳する魔法がかけられているので、スマートフォンの翻訳アプリを使わなくても自然と会話することが可能であった。
「ロロアさんを追って来た騎士の方々は、こちらの方で捕縛後、催眠処置を施した上で元の世界へ帰還させました。ですからもう命を狙われる危険はありませんよ」
「は、はい……」
こちらを安心させるために笑顔を浮かべて言うスーツ姿の女性の言葉に、ロロアは困惑した表情で返事をする。
スーツ姿の女性は、ダンジョンアイランドの治安維持部隊の職員であり、弩門とロロアが今いるビルは治安維持部隊の本部であった。
弩門とロロアが封院の内部に避難してすぐ、通行人が「異世界から来た騎士が暴れている」と治安維持部隊に通報をしたらしい。そして通報を受けた治安維持部隊はすぐ現場に急行すると、弩門が呼び出した
今から数時間前、封院内で弩門のスマートフォンにかかって来た呼び出しはその治安維持部隊からの報告で、それを聞いて恐る恐る封院の外に出た弩門とロロアは、治安維持部隊から本部に来て欲しいと言われた。それから本部に連行された二人は事情聴取やら身体検査やら色々受けさせられて、ようやく全ての取り調べと検査が終わって今に至るのであった。
「災難……。確かにそうですね。俺もここに来た初日でいきなり鎧を着た騎士に殺されそうになるとは思いませんでした」
スーツ姿の女性の言葉に弩門は苦笑を浮かべて言う。確かに亜人種の女性を剣や鎧で武装した男達から守るというのは、彼が憧れてきたファンタジー世界の定番の一つと言える展開だが、いきなりそれに巻き込まれて驚くなというのは無理があるだろう。
「それもそうですね。……でもこのダンジョンアイランドではこれが日常みたいなものですから慣れてもらうしかありませんね」
「………マジ?」
弩門の言葉に今度はスーツ姿の女性が苦笑を浮かべて言い、言い返された弩門の表情が僅かに強張る。
仁本国は世界でもトップクラスに治安がいい国の筈なのに、剣を持った騎士達に殺されそうな出来事が日常とは、流石は世界で最も不思議で混沌とした人工島ダンジョンアイランドと言ったところか。
「それでそちらにいるロロアさんのことですが……これからどうするか予定はありますか?」
「どうするかって、どういうことです?」
スーツ姿の女性はロロアについて質問をするのだが、本人であるロロアも弩門も質問の意味が分からず、弩門が聞き返す。
「例の騎士達を異世界に帰還させて命を狙われる危険がなくなった以上、ロロアさんにはダンジョンアイランドにいる理由がなくなりました。ですからロロアは故郷である異世界に帰還するのか、ダンジョンアイランドに残る場合、どこか行く宛があるのかお聞きしたいのです」
「……私には帰る場所がありません。これからどうするかと言われても……」
スーツ姿の女性に聞かれたロロアは、顔を俯かせて小さな声でそれだけを言うのが精一杯だった。
元の異世界に帰還しても逸れた仲間達を見つけることができるか分からず、もし仲間達を見つけても討伐対象である種族である以上、待っているのは人目を避けて各地を放浪する生活だけ。かと言ってダンジョンアイランドに残ったとしても、初めて来た異世界に頼れる者などいるはずも無く、身元を保証してくれる者がいない異世界の住人は即座に故郷の異世界へ強制帰還というのがダンジョンアイランドの規則であった。
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