第8話

『私の名前はロロアといいます』


 赤髪の女性、ロロアの話によると彼女はやはり異世界から来た、人類と多くの身体的な共通点を持つ「亜人種」と呼ばれる存在であった。そして更に聞けば彼女の種族は自然に進化した種族ではなく、遠い昔に強大な力を持つとある存在によって創造された種族であるらしい。


 ロロアのいた異世界では、彼女の種族を創造した存在を含めた数多くの強大な力を持った存在達が、二つの陣営に分かれて大きな戦いを大きな戦いを行ったそうだ。戦いに勝利した陣営は自分達の事を神と、敗北した陣営を悪魔と呼んだ。


 ロロアの種族を創造した存在はその敗北した陣営に所属していた存在……悪魔で、彼女の種族だけでなく悪魔によって創造された種族は、見つかれば即座に討伐対象となるのがロロアがいた異世界の常識であった。


 事故で仲間達とはぐれてしまったロロアは、仲間を探して一人さ迷っていたところで例の剣を持った鎧の男達、地域に常駐している騎士達と運悪く遭遇して終われることになる。逃げている途中で彼女は、昔話に聞いた異世界へ続く道があるという森を発見し、そこに逃げれば騎士達も追ってこないのではと考えて森に入ると、いつの間にかこのダンジョンアイランドに来ていた。……自分を追っていた騎士達と一緒に。


(……多分、過去にその森で魔法の道具が使われたんだろうな)


 弩門はロロアの自分と出会うまでの話を聞いて心の中で呟いた。


 封院ダンジョンの元となる魔法の道具は、対象を封印すると時間と次元を超えてここ、雹庫県にやって来る。それによって魔法の道具を使用した場所には雹庫県に繋がる次元の穴が生じ、現在ダンジョンアイランドにやって来る異世界の住人はこの次元の穴を利用している。


 だから異世界や封院の事を知らない異世界の住人が偶然次元の穴に触れてダンジョンアイランドに迷い込んで来るというのは、それほど珍しいことではないと弩門は以前インターネットで調べた知識で知っていた。


『事情は分かりました。とりあえず俺は貴女を見捨てたりしないから安心してください』


『本当ですか!? ありがとうございます!』


 ここでロロアを見捨てて自分だけ助かろうという考えは弩門には無く、その事を伝えると彼女は大きく頭を下げて感謝の言葉を口にした。


(さて……。これからどうするか……)


 ロロアを守ると決めた弩門は目の前にある問題、彼女を追ってきた騎士達について考える。


 現在、弩門とロロアはこのダンジョンに避難しているわけだが、騎士達は間違いなくダンジョンの外で待っているだろうし、もしかしたら自分達を探しにダンジョンに入って来るかもしれない。弩門が呼び出したダンジョンの出入り口である光の玉、星門ゲートは触れた者を無差別にダンジョン内部へ転送させるもので、あの騎士達が星門に触れたら弩門には騎士達のダンジョンの転送を拒む手段がないのだ。


 騎士達がここまで来たら戦闘は避けられないだろうが、弩門は今日の朝に封院所有者ダンジョンマスターとなったばかりで、まだ自分の力や封院の構造も何も知らない。いくら霊服アストラルスーツにより常人以上の身体能力を得ているとはいえ、それだけで戦闘のプロである騎士達と戦うのは無謀すぎる。


(まずは自分の戦力の確認だ。確か封院所有者には専用の武器と部下があったはず……っ?)


 弩門が封院所有者の知識を思い出しながら騎士達への対策を取ろうとしたその時、今まで彼とロロアの言葉を翻訳してくれていたスマートフォンから電話の呼び出し音が聞こえてきた。

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