第7話

 秘宝アーティファクト


 封院ダンジョンの元である魔法の道具によって封印された存在。大抵は不思議な力を秘めた武具やアイテムなのだが、中には神や悪魔と呼ばれる強大な力を持つ存在そのものが封印されている場合がある。


 封封と封院所有者ダンジョンマスターはこの秘宝を外敵から守り、時には意思を持った秘宝が自分から逃げ出さないように閉じ込める為の存在であり、封院所有者は魔法の道具が宿った瞬間から秘宝を守ろうとする本能を植え付けられている。


 その秘宝を守ろうとする本能が、目の前にある黄金の全身鎧がこの封院の秘宝であると弩門に教えていた。


「………!」


 黄金の全身鎧に目を奪われていた弩門だったが、我に帰ると反射的に自分が守るべき秘宝から目を逸らした。


 何故黄金の全身鎧から目を逸らしたのかは弩門にも分からない。だがこれ以上黄金の全身鎧を見ていると……いや、この部屋にいるだけで良くないことが起こりそうな気がしたのだ。


 とりあえず弩門は来た道を戻り最初にいた部屋へと帰ると、そこでは赤髪の女性が我に帰ったのか不安そうに周囲を見回していた。彼女は部屋に帰ってきた弩門に気づいていないのか、その表情は今にも泣き出しそうであった。


(随分と怯えているな……。まぁ、無理もないか)


 弩門は不安そうな赤髪の女性を見て心の中で呟いた。


 どんな経緯があったのかは知らないが剣を持って鎧を着た男達に追い回されて、


 迷いこんだ異世界で人に助けを求めたら、正体不明の光の玉に引きずりまれ、その次は巨大な猟犬に飲み込まれ、


 挙げ句の果てにはこんな何も無い石造りの部屋に一人にされたら心細くもなるだろう。


 改めて考えれば赤髪の女性がここまで不安になっているのは弩門の責任でもある。彼女を気の毒に思った彼は赤髪の女性に話しかけようとするが、その前にポケットに入れていたスマートフォンを取り出し、異世界種族対応の自動翻訳アプリを起動させた。


「あの……ちょっといいですか?」


「◾️◾️っ!? ◾️、◾️◾️◾️! ◾️◾️◾️!」


 弩門が未だに自分の存在に気付いていない赤髪の女性の肩に軽く手で触れて話しかけると、彼女は身体を震わせて何かを叫び、スマートフォンの翻訳アプリがその叫びを翻訳する。


『お願い! 食べないで!』


 翻訳アプリが赤髪の女性が話す言葉を無事翻訳してくれたことに安心した弩門は、出来るだけ優しい言葉で彼女に話しかけ、スマートフォンはそんな彼の言葉も翻訳する。


『大丈夫です。食べたりしませんし、俺は貴女を傷つけたりしませんよ』


 スマートフォンが翻訳する弩門の言葉に赤髪の女性は少しだけ落ち着き、それでもまだ周囲を見回しながら口を開く。


『本当ですか? 貴方は一体誰なんですか?』


『覚えていませんか? 貴女は俺のマントを掴んで何かを叫んでいませんでしたか?』


 弩門が星門を呼び出し、この封院に逃げ出す直前の出来事を話すと、赤髪の女性ははっとした表情となる。


『貴方はあの時の人ですか?』


 スマートフォンの翻訳アプリで翻訳しながらの会話なので、会話と会話の間が空く上にお互いの口調も固いが、それでもこうして話すことで赤髪の女性の緊張はだいぶ和らいだみたいだった。その事に心の中で頷いた弩門は早速自分が聞きたかったことを彼女に聞くことにした。


『はい、そうです。それで貴女は何者ですか? どうして剣を持った男達に追われていたのですか?』

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