第6話

 鎧を着た男達の目には強い殺意が宿っており、赤髪の女性を弩門ごと殺そうとしているのは明白であった。平和な仁本で育ったため、生まれて初めて殺意を向けられた弩門は恐怖のあまり腰を抜かしそうになり、考えるより先に身を守る為の行動を取る。


「ゲ、ゲ……『星門ゲート』!」


『『………!?』』


 弩門が叫ぶと彼のすぐ側に青白い光の球体が出現した。


 星門。


 触れた者を封院ダンジョンに瞬間移動させる光の球体。呼び出した封院所有者ダンジョンマスターが消すか、別の場所に新しい星門を呼び出すまでその場にあり続け、封院が異次元にある場合はこの星門が唯一の出入り口となる。


 星門を見て赤髪の女性と鎧を着た男達は驚いた顔となって動きを止め、その隙をついて弩門は赤髪の女性の手を取り、自分が呼び出した星門に飛び込もうとする。


「こっちだ!」


「■っ!? ■、■■■……?」


 星門に飛び込む直前、赤髪の女性が何かを言おうとするが弩門は聞いておらず、二人の体は光の球体の中に吸い込まれていった。


 星門の向こう側、異次元はまるで海の中のような空間だった。建物と動物が一つになった外見をした封院が何百何千と異次元の中を漂っており、その光景に弩門も赤髪の女性も非常時である事を忘れて周囲を見回した。


「ここが異次元……! こんなに沢山の封院、初めて見た。……っ!?」


 弩門が思わず興奮して周囲を見回していると、彼と赤髪の女性の前に巨大な影が現れる。


 それは背中に四角錐の建物、ピラミッドを背負った巨大な黒い猟犬だった。


「これが俺の封院……?」


『………』


 弩門が呟くと黒い猟犬の封院は口を開き僅かに牙を見せた。彼にはそれが「初めましてだな、俺の半身。歓迎するぜ」と笑っているように見えた。


『………!』


「うわっ!?」


「■■■ーーーっ!?」


 黒い猟犬の封院は大きく口を開くと弩門と赤髪の女性の二人を飲み込み、二人がとっさに眼を閉じて次に眼を開くと、そこは何も無い石造りの部屋だった。


「ここは……俺の封院の中なんだよな?」


 一人呟く弩門だが彼の呟きに答える者はいなかった。すぐ近くには弩門と一緒に黒い猟犬の封院に飲み込まれた赤髪の女性がいたが、彼女は驚きの連続で放心状態となっていた。


 弩門は赤髪の女性は少しの間放っておくことにして周囲を見回すと、近くの壁に巨大な門があるのを発見する。彼が門に軽く触れると門は独りでに開き、弩門はまるで誘われるように門の向こうにある通路を進んだ。


 門の向こうにある通路、更にその先には先程弩門達がいた部屋よりも広い部屋があり、部屋の中央に「それ」はあった。


 背中に三対の翼を持ち、翼を含めた全身に無数の眼の装飾が施された、まるで自ら光を放っているみたいに美しい黄金の全身鎧。


 黄金の全身鎧を一目見た瞬間に弩門は理解した。


 この黄金の全身鎧こそがこの封院が生まれた理由。自分が封院所有者としての力を全て使って守らなくてはならない存在。


「……秘宝アーティファクト


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