第5話

「じゃあ次はついに本命の封院ダンジョン……うっ」


 弩門がそこまで言った時、彼の腹から音が盛大に鳴り空腹を報せてきた。


「そういえば朝から何も食べていなかったな……」


 スマートフォンの時計を確認するとすでに午前十一時半を過ぎていた。


 朝、いきなり封院所有者ダンジョンマスターになったかと思えば、その直後に完全武装の機動隊員が押し掛けてきて、そのままこのダンジョンアイランドに送られて食事をする暇がなかったのだ。


「何か食べに行きたいけど、あの囚人服姿で外に出るのはやっぱり……いや、待てよ?」


 弩門は以前見たダンジョンアイランドを紹介する番組で霊服を着た封院所有者が通行人と混じって歩いている光景を思い出すと、部屋の窓から外を見てみた。彼の部屋は十階建てマンションの八階にあり、下を見下ろすと遠くに鎧や怪しげな衣装を着た、恐らく封院所有者と思われる人物を数人発見した。


「そうだよ。注文した服が来るのを待たなくても、霊服を着てればいいんだよ」


 霊服はダンジョンの外では完全な性能を引き出せないが、それでも下手な防弾スーツやパワードスーツよりも高性能で、ボディーガードを連れて歩くよりも身軽で安全だ。そこまで考えた弩門は早速、食料を買いに外に出るのだった。


 □■□■


「何を買いに行こうかな?」


 霊服を着て外に出た弩門は飲食店やコンビニを探しながら胸を期待で膨らませていた。


 ダンジョンアイランドでは異世界の食材、あるいはそれを使った料理が専門の飲食店だけでなくコンビニでも買えたりする。異世界の食材といっても大体は地球のと同じような味なのだが、中には地球のより遥かに美味しかったり、地球の食材と味の化学反応を起こした未知の味があるので、ダンジョンアイランドの料理を食べることは弩門の憧れの一つだったのだ。


「それにしても……何だ、コレ?」


 ダンジョンアイランドの料理を楽しみに歩いていた弩門は、視界の違和感に立ち止まり呟く。


 最初は気づかなかったが、今弩門の目には全てのものの輪郭が二重になって、色のついた煙が僅かに立ち上っているように見えていた。更に言えば霊服を着る前よりも遠くの景色が見えるような気もする。


「もしかして、霊服の……え?」


 今までなかった視界の違和感に弩門が一つの可能性を思い付いた時、遠くからパトカーのサイレンが聞こえてきた。


 聞こえてきたパトカーのサイレンは一台ではなく数台分。それもだんだん音が大きくなり近づいてきていた。


「何かあったのか?」


 こちらに近づいてくるパトカーのサイレンに弩門が気を取られていると、物陰から何者かが飛び出て、彼の霊服のマントを掴み大声を出す。


「■■■■■■■っ!」


「……えっ? えっ? 何事?」


 弩門のマントを掴んで大声を出したのは、美しい赤髪が特徴的な褐色の肌の女性だった。彼は突然のことに驚きながらも赤髪の女性に事情を聞こうとするのだが……。


「■■■ッ! ■■■ッ!」


「えーーーっ!? 本当に何事ーーー!?」


 今度はパトカーのサイレンが聞こえてくる方から男の声が聞こえてきた。弩門がそちらを見ると、中世ヨーロッパの騎士のような鎧を着た男達が数人、抜身の剣を持って自分達の元へ走ってきていて、それを見た彼は驚きのあまり思わず叫ぶのだった。

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