第40話 植木青菜に友達10人大作戦!

「性善説の創始者かよ!! 何なん、あいつ! 友達作るチャンスをてめぇで放棄して、俺なんかのおつかい優先するとか、何なん!? もう大好き!!」

「青菜くん、そこまで私たちの事を……。オッケー、横山くん。君はよく頑張った! ここからは私が頑張るよ! 大学生活4年目を甘く見ないで!」


「わー! すごい、すごい! ララ姉、大学ってアイスの自動販売機あんの!? えー、マジ!? 休み時間にアイス食べられるじゃん!」

「ふふー。パンの自動販売機とかもあるんだよー。たんぽぽもうちの大学入るー?」


「大丈夫っすか!? 相手は青菜っすよ、先輩!」

「横山くんが準備万端だったように、私も準備をしていたのさ! 見てて!」



◆◇◆◇◆◇◆◇



 それで、結局僕は何を買いに来たんだろう。

 もう、購買部に着いてしまった。


「あのー。邦夫くん? 何買えば良いのかな?」

『青菜くん? 私! 美鳥だよ! 横山くんはね、今ハーブに当たってトイレに行ってるの! だから、ここからは私がお願いするね!』



「えっ!? 大丈夫なんですか、邦夫くん!? 僕戻りますよ!」

「え゛っ!? ああ、大丈夫、当たったって言っても、良い方のヤツだから! へ、平気!!」



 良い方のヤツって何だろう。

 まあ、ハーブの専門家の美鳥先輩がそう言うなら、大丈夫なのかな。


「それで、何を買えばいいんですか? パンですか? コアラのマーチですか?」

『ええとね、万年筆が欲しいんだよ!』


 そんなもの、購買部で売っているのかと疑問に思ったら、本当に売っていた。

 鍵付きのケースに入っている。

 ボールペンのじいちゃんみたいな存在のくせに偉そうだなぁと思ったら、12000円とか値札が貼ってあって、僕はご無礼を万年筆様に謝った。

 すみません。あなたが僕の日給より高いなんてつゆも知らず、失礼を。


「あの、美鳥先輩。本当に万年筆がいるんですか? 高いですよ?」

『うん! 絶対いるの! あの、あれだよ、あれ! 卒論のタイトル書くの!!』


 なるほど、卒論にそこまで気合が入っているなんて。

 新入生の僕なんかには想像もつかない世界だ。


 「了解しました」と返事をして、僕はカウンターへ向かった。



◆◇◆◇◆◇◆◇



「美鳥先輩、ひどいっすよ。俺、ハーブに当たるとか言う、すげぇ半グレな事やらかしたていになってんじゃないっすかー」

「いやぁ、ごめんよ。咄嗟にあれしか言い訳が思いつかなかったから」


曲山まがりやまさんはどうして万年筆? それと青菜に友達ができるのと関係あるの?」

「ふふ、たんぽぽちゃん、良い質問です! あそこの購買部は、5000円以上の商品、例えば電子辞書とか、ハードディスクとか、そういうのは万引き防止で、鍵付きのショーウィンドウに入ってるんだよ」


「美鳥先輩。俺にもそれが友達作りにどう繋がんのか分かんねぇっす」

「ふふふ、ショーウィンドウを開けるためには、どうすればいいと思う?」

「そりゃあ、カウンターで店員の人に……ああ! まさか!!」


「そうだよ! カウンターでバイトしている浜岡さんは、私のお友達! 横山くんと同じように、もう話はついているのだよ!」

「でも、曲山さん。相手は女の人だよ? 青菜に女の人と友達になるのってハードル高くない?」


「いや! たんぽぽちゃん、そうじゃねぇ! 俺は勘違いしてた! 青菜の交友関係を思い浮かべてみれば、すぐに分かったぜ!」

「気付いてしまったか、横山くん! じゃあ、せーので言ってみよう」

「うっす。せーのっ」



「「圧倒的に女子の比率が高い!!!」」



「おー! 息ぴったり! すごい、すごい!!」

「ありがとう、たんぽぽちゃん! ふふふ、私たちが把握している青菜くんの交友関係は、ほぼ女子で埋まっているのだよ!」

「俺だけっすもんね! 青菜の周りで男って言えば! かぁー! 盲点だった!!」


「青菜くんは、家事もこなすし、お料理も得意! なによりハーブに興味を持つと言う、女子力の高さ! つまり、お友達になるのも女子が向いている!」

「すげぇ! まったく隙がねぇや!!」


「……すやぁ」



◆◇◆◇◆◇◆◇



「すみません。万年筆ください」

「あ、はーい。あのー、あなた」


「申し訳ないんですけど、先輩が卒論のタイトル書かなくちゃいけないので、急ぎでお願いします!」

「えっ、あれ!? あ、はい、分かりました!」


 万年筆を無事にゲット。

 待っていてください、美鳥先輩。

 今すぐ、この万年筆をお届けしますから。


『青菜くん! 応答せよ! 美鳥だよ!』

「はい。今、まさに万年筆を買ったところです! すぐに戻りますよ!」



『えっ?』

「はい!」



『あの、カウンターの子とお喋りとかは? して?』

「何言ってるんですか! 美鳥先輩の卒論が待っているのに、そんな悠長なことできますか! すぐに戻りますから!!」


 すると美鳥先輩、ガタンと音を立てて、一時沈黙。

 まるで、膝から崩れ落ちたような情景が目に浮かぶものの、そんな理由も見当たらないので、応答を待つべく、僕は廊下の端で待機。



◆◇◆◇◆◇◆◇



「イエスの生まれ変わりなんじゃないの、青菜くんって! もう、どう考えても神様のたぐいだよ! なんでそうまで生き急ぐの!? ちょっとお喋りくらい良いじゃん!!」

「ちなみに、浜岡さんってどんな人っすか? 美人過ぎてちょっと引いちまったとかじゃないっすか!?」


「そんな事ないよ! クラスで7番目くらいに可愛い女子って感じの、絶妙にお話しやすい子だよ、浜岡さんは! そもそも、青菜くんの家には、美少女三姉妹がいるでしょ! 蘭々ちゃんに芹香ちゃんに、たんぽぽちゃん! 3人に比べたら、浜岡さんなんてブスだよ!!」


「えー。曲山さん、それって浜岡さんに失礼なんじゃない? 怒られるよ?」


「何言ってんの! たんぽぽちゃんは上級美少女だよ! たんぽぽちゃんに比べたら、浜岡さんなんてヨモギだよ!!」

「みっ!? うぅ、リアクションに困るー!」


「ど、どうするんすか、先輩? もう青菜、帰って来ちまいますよ!?」



「……電子辞書。電子辞書、買う」

「マジっすか!? 必要ないのに!?」



「それで青菜くんにお友達が増えるなら! 私は喜んで電子辞書買うよ!!」

「美鳥先輩……! ご立派っす!! マジでリスペクトっす!」



◆◇◆◇◆◇◆◇



 なんだか急に美鳥先輩が『電子辞書買って!』とかテンション高めに言い出しました。

 どうしたんだろう。

 ハーブに当たったのかな?


「先輩? 確認しますけど、電子辞書が必要なんですか? 8800円もしますよ?」

『ひ、必要なんだよ! あの、そ、卒論で! 卒論で使うの!!』



「スマホで無料の辞書アプリが簡単にダウンロードできるこの時代に、わざわざ電子辞書を? 高級品なら分かりますけど、見たところこれ、そんなに性能も高くなさそうですよ? ちょっと店員のお姉さんに聞いてみますね」



 不必要な買い物でお金を浪費するのは、大学生にとって御法度。

 僕の先輩に限って、そんなことはないと思いたいけど、こういうのは周りの人間じゃないと分からないって事もあるし。


「すみません。この電子辞書なんですけど」

「あ、さっきの! はいはい! これ買うんですか?」


「いえ。これって、値段だけは結構するのに、肝心の中身は紙の辞書の方がよっぽど充実してる、いわゆるハズレ商品じゃないかなって思いまして」

「えっ。そ、そうかな? わたし、ちょっと分かんないけど」


「ですよね。分からないものを軽々に買うものではないですよね。参考になりました。ありがとうございます。失礼します」

「えー。あー。はーい。またお越しくださーい」



「という訳で、店員さんとの協議の結果、購入は見送りました。……美鳥先輩?」

『……ぐすっ。あ、うん。そうだね、うん。おつかい、ありがと』


 さて、あとは邦夫くんのおつかいを済ませたら部室に戻る事が出来る。

 誰かのために働くのって、やっぱり気持ちが良いものですね!!

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