第39話 植木青菜に友達100人大作戦!

 今日は3限目が休講になった。

 こんな時、暇を持て余して学食で寝たふりするのも良いけど、大学生活を謳歌している僕は迷わずサークル棟へ。


 そこには、大学生らしいサークル活動が待っている。

 これがリア充!!


「やほー! 青菜ー! ハーブ部って良いとこだねー! ウチ、気に入っちゃった!」

「やあやあ、青菜くんー。ようやく来たかねー。うむー、君の次のセリフは、どうして2人がここに!? だねー」


 くっ。蘭々さんの未来予知に負けてなるものか。

 僕をいつだって思い通りに動かせると思わないで下さいよ。


「どうして2人がここにいるんですか!?」


 無理でした。

 だって、僕の知りたい事って今はそれしかないんですから。

 目の前にはくつろぐ蘭々さんと、お行儀よく座るたんぽぽちゃん。


「私がお招きしたんだよ! 蘭々ちゃんとは、当たり屋の事件を解決してくれた後に連絡先交換しておいたんだ。それで、せっかくだから妹さんたちもって!」


「たんぽぽちゃん、大学怖がってたのに! よく来れたね! 偉いなぁ!」

「うわー! ヤメろー! み、みんなの前で頭撫でるなー!! べ、別に、ララ姉と一緒だったし! 曲山まがりやまさんも横山さんも顔知ってるし、へ、平気だもん!」


「あれ? 芹香ちゃんは? 絶対に来たがったでしょ?」

「セリ姉はね、学校だよ! ウチの中学校が午前中で終わったの! 青菜、ちょっと大学生に染まって来たんじゃない? 高校生以下は平日のこの時間学校でしょ!」


 僕は大学生に染まっていたのか!

 そう言われてみれば、何となくパリピっぽさも身について来た気がする!


「あー。なるほどー。これは、美鳥先輩が心配にもなりますねー。うんー」

「蘭々さんも見えますか!? 僕の周りを漂うオーラが!!」


 すると、蘭々さん。

 「はーい、全員集合ー。青菜くんはお茶淹れてー」と言って、僕を仲間外れに。


 良いですとも。

 金持ち喧嘩せず。パリピ腹を立てず。

 お茶くらい何杯でも淹れて差し上げますよ。



「横山くん! 現状報告! 親友勘定で忖度そんたくしたらダメだよ!」

「うっす、美鳥先輩! 青菜、ゴールデンウィーク目前にして、未だ俺と美鳥先輩以外の友達ができてません! そろそろ新入生もグループ組み終わる頃なんで、そろそろやべぇっす! つーか、もうちょっと手遅れ感があるっす!」


「うう……。青菜、可哀想。結構いいとこいっぱいあるんだよ?」


「知ってるよ! 私たちもそれはすごく知ってる! ただ、青菜くんに危機感がまったくないから! もう、絶望的に危機感がないの、あの子! だからどうにかしようと思って、今日は2人に来てもらったの!!」


「なるほどー。あたしの知謀とたんぽぽのナビで、青菜くんに友達100人作ろう的なー。さすがパイセン、面倒見が良いですなー。横山くんも、さすがマブダチー」


「そりゃあ、私たち、青菜くんがいなかったら大学辞めてますから!」

「そうっすよ! どうにかしてやりてぇんです! あいつ、すげぇ良いヤツなのに、もう大学生活を満喫してるつもりなんすよ!? ドレッド移植してやりたいっすわ!!」



「皆さん、お茶淹れましたよー。いやぁ、何て言うか、大学生って楽しいですね!」



「もうね、俺、泣きそうなんすわ。ちょっと涙、いいっすか?」

「ダメだよ、横山くん! 泣いて良いのは青菜くんに友達ができた時って決めたじゃん!」


「よし。やろう、ララ姉! ウチ、色々持って来てるよ!」

「うむー。可愛い義弟のために、一肌脱ぎますかー」


 ようやく内緒話を終えた面々が、テーブルに戻って来た。

 と思ったら、僕に向かってこんな事を言うんですよ。


「あー! ごめん、青菜くん! ちょっとおつかい頼まれてくれない!?」

「すまん、青菜! 俺のも頼めるか!?」


「え? まあ、良いですけど」

「じゃあ、青菜! 小型通信機付けてって! その、あのね、あれだよ! ウチ、大学の中見てみたいから!!」


 なるほど。

 たんぽぽちゃんが構内を歩き回ると、さすがに目立ちますからね。

 仕方がないので、耳には通信機、胸にはボタンカメラを装着。


「じゃあ、行ってきますよ」


 僕はサークル棟を出て、購買部へと向かった。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 ところで僕は何を買えば良いのだろう。

 肝心のところを聞き忘れてしまった。

 2人も言ってくれたら良いのに、そそっかしいなぁ。


『おお! 青菜! ちょっとストップ! そこのベンチにいるヤツ、俺のダチなんだわ! 教科書貸してっからさ、ちょっと受け取ってくんねぇかな!?』

「えー。まあ、分かったよ。名前は?」


『すまねぇ! 西村って言うんだ! 気の良いヤツだから、話し込んでもいいぜ!?』

「はーい。了解したよ」



◆◇◆◇◆◇◆◇



「横山さん、やるじゃん! 西村さんって人、あらかじめ準備してたんでしょ? 人望あるんだねー! 目立つのは頭だけじゃないんだ!」

「作戦の決行を今日と決めた時から、知り合いに声かけまくって、大学の構内に散らばらせといたんだ! 向こうにも親友が話しかけっからって連絡済み!」


「これはきっと上手くいくよ! 西村くんだっけ? 大人しそうで、見た感じ話しかけるハードル低いし! 横山くん、ナイス! ハーブあぶって良いよ!!」

「うっす! これで青菜にもダチが……!」


「うむー。それはどうかなー。ちょっと詰めが甘い気がするなー」



◆◇◆◇◆◇◆◇



「あの、西村くんですか? 北村くんだったり、東村山くんだったりしたらすみません」

「いや、西村だよ。ボクに何か用かな?」


 しまった。邦夫くんに何の教科書を返して貰えば良いのか聞き忘れていた。

 その事情を西村くんに説明するのは、彼の時間を奪う事になって申し訳ないし、ここは一度、きちんと情報を整理してから出直そう。


「いえ、何でもありません。失礼しました」

「えっ!? あの!? ああ、そうなの!?」

「はい。また出直してきます。すみません」


 まったく、邦夫くんも抜けているなぁ。

 僕は西村くんから少し離れて、通信機に向かって事情を説明した。


「という訳だから、まずちゃんと、何の講義の何ていうタイトルの教科書なのかを教えてくれないと。困るよ、邦夫くん」


『……すまねぇ。じゃ、じゃあよ! 経営理論の『猿でも分かる! 会社の基礎』って教科書だから! 悪ぃけど、もう一回行ってくれるか!?』

「ええ……。嫌だなぁ、変な人とか思われそうで……」



◆◇◆◇◆◇◆◇



「律義か!! あいつ、良いヤツが過ぎる!! どんだけ相手のこと考えて生きてんの!?」

「だ、大丈夫だよ! 今度はもう、話すしか選択肢ないからさ! 大丈夫!! うん!!」


「ララ姉。ウチ、何となく、この先の展開が読めたんだけどさ。言った方が良いかな? 言った方が良くない? なんか、青菜だけじゃなくて、2人も可哀想だし」

「うんにゃー。ここは気の済むようにやらせてあげなー。あたしたちは、あくまでもサポート係だからねー。頼まれてからが我々の出番なのだよー」


「おお、青菜聞こえてる? 西村な、野球好きなんだよ! お前も好きじゃん! そして、俺も好きじゃん! これって共通の話題だぜ! なっ!!」



◆◇◆◇◆◇◆◇



 邦夫くんがやたらと西村くんのプライバシーを侵害してくる。

 どういう意図があるのか知れないけど、そういうの、良くないなぁ。


「すみません。西村くん」

「ああ! さっきの! うん、ボクにご用だね!?」

「はい。あの、猿でも分かる会社の基礎って言う教科書を、邦夫くんから言われて返してもらいに来ました」


 2年生だから僕と同い年だろうけど、いきなりタメ口は失礼。

 僕は丁寧に頭を下げた。


「教科書ね! はい、これ! そうだ、少し話でもしない?」

「良いですね!」


 西村くんと2分ほど天気の話をして、「それでは」と挨拶。

 ふふふ、今のはかなり大学生っぽかった!!


『あ、ああああ! 青菜!? なんですぐに切り上げてんの!? 雑談してねぇじゃん!!』


 通信機から、邦夫くんの悲哀に満ちた声が響く。

 何か悲しい事でもあったのかな?


「えっ。だって、おつかい頼まれてるから。美鳥先輩を待たせちゃ悪いし、邦夫くんもでしょ。さて、何を買うんだったっけ?」



 僕のおつかいミッションは続く。

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