第38話 完全勝利! そして隙のないアフターケア!
「それでは、本日のところはこれにて失礼いたします。近日中に、
それ、闇金の人の事ですよね。
「ああ、ありがとうございます! もう、しっかりと反省致しまして! はい! 今後はもう、2度とこのようなことは、はい! いたしません!!」
多分、できなくなりますよ。
お宅の貯金は全部、うちの可愛い末っ子が吸い出していますし。
そして、利息のノリがバブルで止まってるみたいな金利の闇金が、既にお宅をターゲットにしているはずですから。
邦夫くんの時は70万円であの騒ぎだったからなぁ。
1千万円じゃ、間違いなくこの街にはいられなくなりますね。
「やったな、親父! これで俺らも勝ち組だ!」
「オレ、車買っていいか!? 外車、外車がいい!!」
「世の中ちょろいわねぇ! クレカの督促状ともさよならだわ!」
あなた達も、そういう下世話な事はせめて僕たちが去ってから口にお出しなさいよ。
そういうところですよ。
まあ、夢を見るのは個人の自由。
ただし、やった事の責任を取るのは個人の義務。
その時まで、どうぞ良い夢をご覧ください。
最後に蘭々さんが、冷たい視線で締めくくった。
「それでは、皆様。私たちとはもうお会いする事はないかと思いますが、どうかお身体を大切に。これから、忙しくなりますからね」
「へへ、そりゃあもう! お気遣い、ありがとうございます!!」
「参りましょうか。社長、コーヒーはもう置いて下さい。後でもっと良いものを差し上げますから」
「ありゃ、そうかい? まあ、こりゃ鉄板だわな」
そうですね。
野中さんの意見に同意。
彼らの乗っている船は、間違いなく沈みます。鉄板です。
◆◇◆◇◆◇◆◇
「おつおつー!! 青菜、今回も頑張ったねー! 一人二役も慣れて来たんじゃん?」
「慣れないよ! 僕、もう2度と特殊メイクなんてしないから!!」
「わたしはやっぱり、素顔の青菜さんがステキですよぉー! あーおーなーさーん!! お疲れ様のハグをして差し上げますよぉー!! はい、ドーン!!」
「うん。ありがとう。頭が重いけど、特殊メイクの事を考えたら、この柔らかさは至福だよ。本当に」
フラワーガーデンに帰還した僕たち。
野中さんは競艇をネット中継で観戦中。
「かぁー! やられちまったぁー! 鉄板だと思ってたんだけどなぁー!!」
そして野中さんの鉄板が意外と薄く出来ている事を知る。
そろそろ自分のお店に戻った方が良いんじゃないですか?
「たんぽぽー。お金どうなったー? 芹香ー。ちょっと服脱がせてー。青菜くんー。何か飲むものちょうだーい。できればおっぱいに効くヤツー」
営業中のカフェのソファ席でスカートにも関わらずぐでたま化する蘭々さん。
「いいのだよー。お客さんいないしー。へーき、へーき。お姉ちゃん、全力出し過ぎてさー。もー無理なんだー。疲れちったよー」
そして白いスーツが芹香ちゃんの手によって剥がされていく。
すごいなぁ、見えちゃいけないものが全然見えないスピードで蘭々さんがジャージ姿になったよ。
「んっとね、元々あった800万は全部引っこ抜いといた! 可哀想だから、端数の2508円は残しておいたよ!」
「たんぽぽちゃんの部屋に散らばってるゴミも買えないねぇ」
「ゴミじゃないもん! 青菜のバカ、バカバカ!! それで、闇金の『黒酒場』から1千万円借りて、一旦どすこいの口座に入れたあとで、こっちも吸い込んどいた!」
マネーロンダリングを平然とこなす女子中学生。
昨日のオヤツのプリンをこぼして、何の迷いもなく制服のスカーフで拭き取った子と同一人物とは思えない。
今月だけで4回目だよ、たんぽぽちゃんのスカーフ買うの。
僕、たんぽぽちゃんの学校指定の洋服屋さんに多分危ないヤツだと思われてるよ。
「あれ? あれれ? なんだかちょっとお金が多くないですか? 1500万の予定が、ええとー。300多いですね! まあ、このくらいなら誤差ですね!!」
「金銭感覚!! 300万を誤差って言える身分に僕もなりたいよ……」
「まあ、それはそれってことでー。当初の予定通り、廃業したお店には300万、嫌がらせ被害を受けていたお店には100万円ずつ入金しといてー。残りは、まあオマケってことで、均等に分けたら良いやー。たんぽぽー」
「りょー! すぐやるねー! カタカタターン、と! ララ姉、振り込み人名義はどうする? 急にこんな大金入ったら、ビックリして警察行っちゃうかもだよ?」
たんぽぽちゃん、この中で一番常識がある説。
確かに、僕もある日通帳を見て残高が300万と少し増えていたら、まず警察に連絡するよ。
「んもぅ、仕方ないわねぇ! 商店街の皆さんには、ワタシが上手く説明しとくわよぉん! こういうのは大人が出張らないと信用されないものねぇん」
今回は見守る担当だったマスター。
最後に漢気を、いやさ、オネエ気を見せる。
そして、どうやるのかは不明だけど、マスターならなんやかんや、上手くやりそうな予感しかしないところが凄い。
「蘭々さん。豆乳とイチゴとバニラアイスで、シェイク作りましたよ」
「おおー。ありがとー、青菜くんー」
「なにそれ! 美味しそう! ねーねー、青菜ー! ウチの分はー!? ねーえー!」
「もちろん、2人の分もあるよ。はい、どうぞ」
「おお! この
「ううん? それはね、イチゴだよ」
「青菜くーん。飲ませておくれー。お姉ちゃん、動けないやー」
こうして、『花園』の誇る大輪の蘭の花が、商店街をひっそりと救ったのだった。
たまにしか咲かないのが実にもったいない。
◆◇◆◇◆◇◆◇
「豆田さーん。こんにちはー。どうですかー、繁盛してますかー」
「蘭々さん、重いです」
うちのお姉ちゃん、今日は外でもぐでたま状態。
僕を支柱にして辛うじて立っている。
「女子に向かって重いとはなんだー。そうだー、どうせ重いなら、重いって言う代わりに愛してるって言ったらねー、もたれ掛かるのをやめたげるー」
「蘭々さん、すごく愛してます。愛してます。とにかく愛してます。だから、どいて下さい。って、ちょっと、何でスマホ出してるんですか!?」
「青菜、お前は本当にすげぇよ。俺の誇りだ。ミス
何故か今日は邦夫くんを呼べと蘭々さんが言うので、指示に従った。
蘭々さんは悪ふざけはするけど、不要な事は指示しない。
その点はバッチリ把握している。
「いやねー、横山くんさー、バイト探してるらしいじゃんー?」
「あ、はい。バイト先のカラオケ店が潰れちまって。生活がカツカツなんすよ」
「豆田さんー、この子雇ってあげてくれないかなー? 腕っぷしは強いし、ほらー、頭がこんなだからよく目立つんだよー。悪いヤツ避けになるよー」
ああ、なるほど。
いつの間にか空き店舗になったスーパーどすこいを見ても、脅威は去ったと考えて良さそうだけど、人の心ってそう簡単に割り切れませんもんね。
邦夫くんは豆田さんへのアフターケアって事ですか。
「うちは助かるけどねぇ。良いのかい? 金髪さん。私みたいなおばあちゃんしかいないお店なんて、退屈じゃないかしらねぇ?」
「いや、とんでもないっす! 俺、働かせてもらえるなら、用心棒から雑用まで、何でもやりますよ!!」
蘭々さんもにっこり。
最初からこうなる事を知っていたくせに。
良かったですね、お気に入りの豆腐屋さんを守る事ができて。
「おや。芹香ちゃんから電話だ。学校どうしたんだろう? もしもし?」
『あ、青菜さん!? お姉ちゃんを愛してるってどーゆうことですかぁ!? 何回も愛を囁いてますけど、どーゆうことですかぁ!?』
「ら、蘭々さん!? さっきの音声、まさか芹香ちゃんに送ったり!?」
「すみませーん。反省してまーす。てへぺろー」
あああああ! もう、すぐにこの人は、あああああ!!!
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