第41話 植木青菜にせめて友達1人大作戦!

 さて、邦夫くんの教科書を回収して、美鳥先輩のために万年筆を購入した僕だけど、未だに帰還命令が出ないのはどうしてだろう。


 邦夫くんのおつかいの内容をちゃんと聞いておけば良かった。

 そう言えば、たんぽぽちゃんは大学の構内を僕のカメラを通して楽しめているだろうか。


 リクエストがあれば、お望みのところに行くのもやぶさかじゃないですよ。

 乗り掛かった舟ですからね。


「もしもし? こちら青菜ですが、邦夫くんはハーブキメてヒャッハーになってから戻って来ましたか? まだでしたら、たんぽぽちゃんのために色々と歩こうかと思うんですけど。指示をお願いします」



◆◇◆◇◆◇◆◇



「ぎゃー! ウチにお鉢が回って来たじゃん! どうすればいいの!? なんか青菜にいじわるしてるみたいで、罪悪感凄いんだけど!?」


「落ち着きなー、たんぽぽー。みんなで青菜くんに友達を作らせようと頑張ってるんだから、悪い事じゃないよー? ……すやぁ」

「でも、ウチだったら内緒で仲間外れにされるの、悲しいな……」


「み、美鳥先輩! 俺、なんかもう、全てを白状して楽になりたくなってきました! たんぽぽちゃんの清らかな心が粗塩のように沁みるっす!!」

「耐えるんだよ、横山くん! 私はもう万策尽きたから、あとは君のお友達チームしか希望は残されていないんだ! 頑張って! もうそれしか言えない!!」


「とりあえず、ウチが時間稼いどくね! 青菜とお喋りしとく!」



◆◇◆◇◆◇◆◇



『青菜ー! ウチね、青菜のお気に入りの場所が見てみたい! もう1カ月くらい大学に通ってんだから、どこかあるでしょ?』


 なるほど、さすがたんぽぽちゃん、そう来ましたか。

 僕は彼女の推察通り、ステキスポットをいくつか発見しています。


 仕方がないなぁ、可愛い妹の頼みだもの!

 とっておきをご披露しましょう!!


「じゃあ、最高のスポットへご案内するよ。まずは、購買部から離れるね。位置情報、そっちにも行ってるよね? では、中央棟に移動します」


 道中は、新緑が眩しい季節なので、綺麗な花を咲かせている野草などをカメラでお届け。

 中仮屋三姉妹はそれぞれが咲き誇る可憐な花だけど、たまにはこういう素朴な野草をでるのも、きっと心の癒しになると思うんだ。


「あ、ここも僕のお気に入りの場所なんだよ。ほら、そこに使われていない用具倉庫があるでしょ? その裏にね、ちょうど人が1人座れるスペースがあって、重宝しているんだよね」


『へ、へぇー! やるじゃん、青菜! そこで何するの?』



「特に何も。強いて言えば、楽しそうな学生を眺めてるかな」

『みっ! そ、そうなんだ! う、うん! 人間観察も大事だよね! うん!!』



 そして中央棟に到着。

 目指すは学食。


 うちの大学の学食は、構内に4か所あり、ここは一番規模が大きく、そして一番安価でお昼ご飯をゲットできる、まさにステキスポット。

 その中でも、特にお気に入りなのは、学食の奥。

 北側の隅にある。


「どうかな? ここ、すごく良いと思わない?」

『えっ、あ、うん! ……そのさ、ポツンと離れ小島みたいになってる席は、なに? 目の前壁だし、左隣も壁だし。ちょっとよく分かんないんだけど』


 やっぱりたんぽぽちゃんには少し早かったかな。

 これは僕も気が逸ってしまった。反省、反省。


「孤独を楽しめるようになると、人生の味わい方に選択肢が増えるんだよ。きっと、たんぽぽちゃんももう少し大きくなったら分かると思うよ!」



◆◇◆◇◆◇◆◇



「俺の恩人が、給食で嫌いなものが出て、昼休みになっても1人で食わされてる昭和の体罰みてぇな昼飯のフォーメーション組んでる!! もう嫌だ! 見てらんねぇ!!」


「最近、学食で青菜くん探すのが日課なのに、全然見当たらないのはこんな訳だったんだね……。どうして私、もっと一生懸命探さなかったんだろう……」


「ララ姉。青菜ってもしかして、ぼっちこじらせてる?」

「うーん。まあ、そーゆうのは、人それぞれだからねー。1人でいても寂しくない人もいればー。大勢でいても寂しい人もいるしー。……すやぁ」


「蘭々さん! そういう道徳的な話じゃねぇんすよ!! このままじゃ青菜、来年の今頃にゃ僧侶になってますよ!!」

「考えてみれば、青菜くんはおうちの環境が良すぎるから、大学で無理して交友関係広げなくても、刺激は足りてるのかもだね……。およよ……」


「あ、みんな! 青菜がなんか、人と話してる! ……って言うか、血を流してる人と話してる。あれ、ウチ、なんか見逃してる?」


「あたしは見ていたよー。今ね、青菜くんの前にいる男の子、柱に額をごっつんこさせてたねー。あれは痛そうだー。……すやぁ」


「ああ! こいつ、俺の仕込んだヤツの1人っすわ! 米重よねしげって言うんすけど、あいつ何やってんだよ!」



◆◇◆◇◆◇◆◇



 目の前で人が柱にぶつかって、出血している。

 どういう事情でそんなことになるのかは皆目見当がつかないけれど、これはどう考えても彼に一番近い僕がどうにかしなければ。


「大丈夫ですか!? ああ! 慌てて起き上がらない方が良いです! まず、止血しますから! 僕のハンカチで申し訳ないんですけど、じっとしていて下さい! お名前言えますか!? 僕は商学部の1年で、植木青菜と言います」


「植木? あ! あんたか! いや、つーか、ごめん! ハンカチ汚れちゃうから、大丈夫だって! スマホ見ながら歩いてたオレが悪いんだし」

「何を言ってるんですか! 歩きスマホについては反省すれば良いですけど、怪我の処置は慎重にしないと、後々になってから悔やんでも遅いんですよ!!」


 額の怪我は出血が多くなりがちだけど、慌てずに圧迫止血で対応。

 マスター直伝の応急処置マニュアル、暗記しておいて良かった!


 10分ほどで、血の出方が落ち着いてきた。

 そこで登場するのが、絆創膏。

 小さいものから大きいものまで、各種ポケットに入っております。


「……うん。これでひとまずは大丈夫です。ただ、異常を感じたらすぐに病院へ行ってくださいね。夜間なら救急病院へ。僕で良ければ付き添いますから!」


「マジで、何から何まで、ありがとう。オレ、米重って言うんだ。植木くん、今度お礼にご飯でもご馳走させてよ。ハンカチも新しいの買って返すから!」

「そんな、気にしなくても大丈夫ですよ! 何かあった時のために、連絡先を交換しておきましょうか。……はい。オッケーですね」


 そして米重くんは、何度もお礼を言って去って行きました。

 大事に至らなければ良いのですが。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 そしてハーブ部の部室に帰還した僕。


「ちょっと! 酷いじゃないですか! 途中から誰も僕の通信機に話しかけないとか!!」


「青菜ぁ! お前はやれる男だと思ってたぜぇ! やったな! 友達1人ゲットだ!!」

「良かったねぇ! 良かった! 私、必要のない万年筆買ったかいがあったよ!!」


「どういうことですか?」


 ハテナのアイコンを頭の上に表示させた僕に、蘭々さんが事情を説明してくれるらしい。


「実はねー。今日は、青菜くんにお友達を作ろうと言う趣向だったのだよー」


 つまり、おつかいも、たんぽぽちゃんの大学見学も、僕のために美鳥先輩と邦夫くんが一芝居うってくれていたと、そういう事らしいです。


「2人とも、そんなに気を遣ってくれなくても。僕は、美鳥先輩と邦夫くんがいれば、大学生活は楽しいですよ!」


「あ、青菜ぁー!! おめぇはもう、アレだ! 仏だ! 今度俺とジャズ部行こうな! イカしたメンバーを紹介するぜ、メーン!!」

「私、絶対留年するから!! もう単位取り切ってるけど、絶対に来年も大学生やるからね!! 青菜くんと私は、ズッ友だよ!!」


 なんだかよく分からないけど、2人が嬉しそうなので良しとします。


「ウチは結構楽しかったよー! また遊びに来たいかも!」

「うんー。またおいでー。お姉ちゃんが一緒にいてあげるからねー」


 最後にひとつだけいいですか?



「蘭々さん、部室に来てから何かしました?」

「えー? あたしが何かしてるように見えるー?」



 この人、大学内でぐでたま化できる場所を発見したな。

 どこまでも反則的な索敵スキル!

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