第35話 久しぶりのチームで詐欺師! 架空買収とか言う難しい言葉が出て来たけど、多分僕はひどい目に遭う

 翌日。

 たんぽぽちゃんが学校から帰って、パソコンをカタカタやっている。

 僕はお客様にコーヒーのおかわりを淹れているところ。


 常連のおじさんがマスターと話をしている。

 そこに芹香ちゃんが帰って来た。


「ただいまですー! 青菜さん、青菜さん! 今そこで、信号無視した原付バイクがお巡りさんの制止を振り切って逃げようとしていたので、捕まえましたぁ!」

「おかえり、芹香ちゃん。それはまた良い事をしたね」


 原付バイクにどうやって追いついたのか?

 それ、聞いてどうするんですか?


 原付バイクを芹香ちゃんがとっ捕まえた。その事実だけで充分なんです。


「お宅の娘さん、今日も頑張ってるなぁ! マスターも鼻が高いじゃない!」

「やぁだぁん! 野中さんったら、娘を甘やかさないでちょうだい!」


 ちなみに、『花園』の認知度は、当然と言えば当然だけど、ご近所さんやカフェの常連さんになると、知らない人の方が珍しい。

 たまに「ちょっと醤油分けて」みたいな感覚で、依頼に訪れる人もいるくらい。


「出たー! 青菜、セリ姉! 昨日のクレーマーの身元、全部出たよ! えっへん!」

「すごい、もう出たんだ!」

「さすがですねぇ、たんぽぽ! お姉ちゃんがおっぱい乗せてあげます!」


「うわー! ヤメろー! セリ姉のおっぱい乗せられて喜ぶの、青菜だけだし!」

「はっ! それもそうでした! 青菜さーん! こっち来て下さい! そして、ドーン!!」


 僕の頭におっぱいが乗りましたが、なにか?


「青菜、しゅごい……。もうセリ姉のおっぱいくらいじゃ、動揺すらしなくなってる!」

「ガーン! 芹香に飽きちゃったんですかぁ!? 青菜さぁん!!」

「違うよ。慣れたんだよ。柔らかくて良いおっぱいだと思うよ」


「マスター。あの新人のお兄ちゃん、毎日少しずつ感情が減っていってる気がすんだけどさ。ちゃんと見といてあげなよ? あれくらいの年頃は色々あんだから」

「野中さん、語るわねぇ! さすが、4人の子持ちは違うわぁん!」


 野中さんは近くで個人の電気屋さんを営んでいる。

 お店が暇なときは、こうやってカフェに世間話ついでにコーヒーを飲みに来る。

 そして、その野中さんが一番僕のことを気遣ってくれているまである。


「そう言えば、ララ姉は? 青菜、一緒じゃないのー?」

「蘭々さんなら、午前は大学で一緒だったけど、昼から行くところがあるって言ってたよ。それより、僕らだけでも情報の整理をしておこうか」

「おお! 青菜さん、仕事熱心! わたし、そーゆうところも大好きです!!」


 たんぽぽちゃんがパソコンを操作して、何だか小さいけど偉そうな装置をテーブルに置くと、お店の壁がスクリーンに早変わり。

 昨日のクレーマーたちの名前や特徴が大写しにされる。


「ありゃ、この人ら、あそこのスーパーの人じゃないか。ほら、去年開店したけど人があんまりいない。そうそう『どすこい』だ。名前だきゃあ面白いんだがね」


 事情通の野中さん。

 と言うか、情報漏洩が過ぎる!


「スーパー『どすこい』はね、家族経営なんだよ。で、この3人! なんと兄弟! オマケに経営者の泥川どろかわ鯉二こいじの子供! スーパーの関係者どころじゃないよ!」

「悪いヤツですねー! 分かりました、ちょっとわたしが行って話つけてきます!!」

「ちょっと待って! 芹香ちゃん、行かないで!!」


 芹香ちゃんの話し合いって、世間一般で言うところの話し合いじゃないんだもの。

 向こうが弁護士とか立てて来たら、普通に負けるヤツじゃないか。


「青菜さん! そんなに芹香の事を……! はい、どこにも行きません!! ドーン!!」

「危ない!」

「うわー! なんでウチの頭におっぱい乗せるの!? 青菜、避けるなー!!」


 僕も伊達に芹香ちゃんの格闘技講座を受けている訳ではない。

 迫りくるおっぱいを避けるくらいなら、僕だって!!


「ただいま! やあやあ、みんな揃ってるね! じゃあ、作戦会議だ! おおー、ちょうど良い感じにスクリーン表示! たんぽぽ、また良いもの作ったねぇ!」

「そう? 余り物で作ったんだけど、ララ姉に褒められた!」


 余り物で作られるプロジェクターとは。


「さあ、みんな集まってー! 今回は久しぶりに、あれやるよ!!」

「全員でやるんですか!? うっ、何だかとっても嫌な予感が! 僕、見学が良いです! あれ、なんでみんな視線を逸らすんですか!?」


「スーパー『どすこい』を騙すよ! この街から、お引き取り頂こう!」


 やっぱり。

 蘭々さんと言えば、超絶演技と超絶洞察力。


 今回、詐欺師のパターンなんですって。



◆◇◆◇◆◇◆◇



「スーパー『どすこい』は経営難で、正直放っておいても3年後には潰れてるんだけどね。それじゃあ、豆田さんをはじめ、被害を受けてる商店街の人が報われないよ」


 その点は僕も賛成。

 マジメに頑張っている個人商店に営業妨害だなんて、許されることではない。


「それで、どうするんですかぁ? わたし、壁壊せば良いですか!?」

「セリ姉だけ発想が戦国時代なんだけど……。まずは城壁を壊そうって言う閃きは、ウチにはできそうもないし」


「ズバリ、架空の買収話を持ち掛けて、残った資産をがっぽり頂くよ! あたしが調べたところだと、嫌がらせで廃業したお店が4軒、嫌がらせで廃業を考えているお店が3軒! このお店すべてを救済できるだけ、全部吸い取ります!」


 ああ、今日は被害実態の調査に行ってたんですか。

 言ってもらえれば僕もお手伝いしたのに。


「あの、良いですか、蘭々さん」

「意見はどんどん出してくれたまえ! はい、青菜くん!」


「前回、結婚詐欺師を騙した時は上手くいきましたけど、企業買収? 僕には詳しく分かりませんが、キャストが若すぎてバレるんじゃないですか?」


 三姉妹の内訳を見ると、たんぽぽちゃんは中学生。論外。

 芹香ちゃんも割と童顔なので、頑張っても18歳と言い張るのが限界。

 蘭々さんはメイク次第で20代後半くらいまでは行けるだろうけど。

 僕だって年相応だし。


「とっても良い質問です! 青菜くんはね、特殊メイクでお爺さんの役やってもらうから! それで、あたしが実質的な経営者ね! あとはお父さん!」

「いやぁよ、ワタシ! 自分を偽るなんてできないわぁん!」


 性別を偽っているマスターが、何か言っている。


「そんな事言ったら僕も嫌ですよ! 特殊メイクって何ですか!? 怖い!!」

「青菜くんは、この前あたしのおっぱいに顔を埋めた分の貸しがあるから、却下で!」


「ああああ! 酷い言いがかりだ! あああああ!!」


「あ、青菜さん! お姉ちゃんのおっぱいに顔を埋めたんですか!? わたしのおっぱいはさっき避けたのに!? おっぱい平原の方が好きなんですか!? 青菜さん!!」

「違う! ひぃ!? 違わない! ああああ! 詰んでる!!」


 おっぱい平原とか言う蔑称べっしょうを芹香ちゃんが考案するから、それを否定するのは、蘭々さんの平原を否定するのと同意になるので、これは三手で詰みです。

 現に、「違う」って言った瞬間に視線の鋭利なレーザーが飛んできましたもん。


「じゃあ、仕方ない! はい、野中のおじさん! 協力して!」

「おっ、悪者退治におじさん入れてくれるの? 張り切っちゃうよ?」


 まさかの野中さん、臨時で詐欺師チーム入り。

 『花園』の秘密組織感がどんどん薄らいでいく。


「じゃあ、青菜はこっち来て! 特殊メイクの準備するから!」

「えっ!? たんぽぽちゃんがするの!? ちょっと、ヤダ、怖い!! 何されるの!?」

「大丈夫、顔の型取るだけだから!」


「顔の型取るだけって言うのがもう怖いんだよ!」


「セリ姉! 青菜に抱きついて、そのまま部屋に連行して! ウチの部屋は汚れるのヤだから、青菜の部屋ね!」

「ごめんなさい、青菜さん……。わたし、青菜さんが怖くないように、おっぱい押し付けておきますからね!」


 こうして、僕はまた、よく分からないうちに蘭々さんの策謀に組み込まれる。


 だから蘭々さんと組むのは気が乗らないんですよ。



 【ミッション!】

 悪徳スーパーどすこいから、慰謝料を根こそぎ奪い取れ!

 目には目を! 店を再起不能に叩き潰すのも忘れずに!!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る