第32話 商店街からの悲鳴! 悪徳スーパーを倒せ!

「どういった理由でお店を廃業されるのですか? それが豆田さんの意志ならば、あたしは何も言いません。でも込み入った事情かもしれませんが、続けたいのに廃業へ追い込まれているという事ならば、あたしは力になりたいです」


 蘭々さんの長いセリフを久しぶりに聞いた気がする。

 最後に聞いたのはいつだっただろうか。


「おー! ララ姉が珍しくやる気だー!! 青菜、あのおばあちゃん何する人?」

「お豆腐屋さんの経営者みたいだよ。商店街の一番端にあってね、今日の豆腐もそこで買ったんだ」

「へぇー。ララ姉は豆腐好きだもんねー! でも、なんで好きなんだろ?」


「本人は噛むのが楽だからって言ってたよ?」

「ふっふっふー。甘いですよぉ、2人とも! お姉ちゃんは、ズバリ! おっぱいを大きくするためにお豆腐を食べているのです!」


 芹香ちゃんが本質を撃ち抜く。

 僕、あえて言わなかったのに。

 それをバズーカで撃ち抜く。


「芹香ー? あとでお話ししようね? お姉ちゃん、ちょっと言いたい事あるから」


 そして、蘭々さんのとっても冷たい視線を一身に浴びた芹香ちゃん。

 事の重大さに気が付く。蘭々さんが本気モードだと忘れていた模様。


「あわわわわわ! どど、どうしましょう、青菜さぁん! お姉ちゃんがなんか怒ってますよぉ! あの感じのお姉ちゃんは怖いんですぅ! 助けて下さい!!」

「ええ……。芹香ちゃんを助けると、僕まで被害に遭うよね」


 できればそれは避けたいなぁ。

 こっちの行動を全部五十手先くらいまで読んで来るチートな蘭々さんにお説教されるとか、精神的な拷問だもの。


「青菜くん! 君の出番だ! こっちに来てメモを取っておくれ!」


「呼ばれたから行って来るね。2人とも、おかわりは自分でよそってね」

「りょー! この麻婆豆腐ならおかわりはマスト! 青菜、いってらー!」

「青菜さん、青菜さん! お姉ちゃんの心をしずめて来てくださいね!?」


 芹香ちゃんの願いは叶えられるか自信がないけど、蘭々さんの本気が継続しているという事は、『花園案件』だと思われる。


「失礼します」

「こちら、あたしのとっても優秀な助手です」


「あら、あなた今日、お豆腐買ってくださったわよねぇ? 夕方、お友達と2人で来てくれて」

「はい。今もあっちで美味しい美味しいって大好評です。というか、よく僕なんかの顔を覚えておられますね?」


 邦夫くんのゴールデンドレッドヘアーが印象に残ったのかな?


「いえねぇ、コロッケ美味しそうに食べてくれたものですから。私は、お客さんの喜ぶ顔が見たくて豆腐作ってるんですよ」

「あ、それであんなにお手頃価格なんですか? 手作り豆腐ってもう少しお値段するイメージでしたから、驚きましたよ」


 すると、蘭々さんが怒りに震えて立ち上がる。

 いつもぐでたまやってる蘭々さんでも、震えるほど怒る事があるんですね。


「そんな豆田さんのお店にね、あろうことか! あろうことかだよ、青菜くん! 悪質なクレームで難癖付けてくる輩がいるんだよ! 考えられないよね! 許せないよね!」


「それは許せませんね! すごい、蘭々さんが正義の心で燃えている!」


「クレームなんてしょうもないものに、あたしの未来のストロングおっぱいの可能性を潰されるとか、考えられないよね!? まめた豆腐ってお豆腐はもちろん、豆乳も濃くて飲みやすくて美味しいんだよ! あたしのおっぱいの可能性の塊なの!!」



 自分のおっぱいが一番だった蘭々さん。

 存じ上げてました。



「はい、情報をメモしておくれ! 青菜くん!」

「分かりました」


 そして、蘭々さんによる完璧な事情聴取が行われた。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 マスターが豆田さんを送って行くと言って出て行ったカフェ。

 蘭々さんの的確な情報の集積により、とある悪事が浮かび上がっていた。


 近所のスーパーによる、悪質な嫌がらせである。

 昨年開店したこのスーパーだが、スタートダッシュには成功し、それなりの集客と売り上げをはじき出していたらしい。


 ここで商店街からお客を奪ってしまいました、というのがよくある話。

 くだんの商店街は事情が異なる。


 なんと、スーパーからお客を奪い返したのだ。

 奪い返したどころか、スーパーに集まっていた買い物客を全て取り込んでしまった。


 別に違法な事をした訳ではない。

 ただ、一生懸命にマーケティング調査をして、より効果的なキャンペーンを模索して、文字通り、商店街が一丸となって事に当たった成果である。


「情報を総合すると、どう考えてもこのスーパーマーケットが、逆恨みで商店街のお店にちょっかい出してるのはもう確定だね」


 蘭々さんの言うように、どうもそのスーパー、お客を取られた腹いせに商店街のお店にあの手この手の無差別営業妨害をし始めたようでした。


「実際に閉店しちゃったお店もあるんでしょ? うげー、サイテーだ! ひどいよね! そーゆうのウチ大嫌い!」

「わたしもですよぉ! これは紛れもない悪の芽です! というか、芽から育っちゃってます! こうなったら、根こそぎ引っこ抜くしかないですよぉ!」


 3人が僕を見る。


「もちろん、僕も異論ないですよ! 思い入れはない商店街ですが、営業努力が不当に踏みにじられるのは見過ごせません!」


「よく言ったよ、青菜くん! それでこそ、あたしの秘密兵器!」

「あ、僕、また何かさせられるんですね?」


「ちょっとぉー! お姉ちゃん、わたしの青菜さんを取らないで下さい! ひどいですよぉー」

「芹香とは、あとでおっぱいの話を4時間くらいしようね」



「あわわわわ! 今回だけ、特別に貸してあげます! 青菜さんのこと!」

「僕を引き渡したところで、多分芹香ちゃん、手遅れだと思うな!」



 たんぽぽちゃんは危険な話題に振れず。

 その代わり、スーパーマーケットについての情報をパソコンで収集していた。


「あれ、このスーパー、個人営業だ! 今どき珍しいね! スーパー『どすこい』だって! まあ、そーだよね。チェーン店だったら、こんな、バレたら一発で終わるような手は使って来ないもんね」


「さすがたんぽぽちゃん、仕事が早い! 偉いなぁ、可愛いなぁ!」

「うあー!! ヤメろー! 頭を撫でるなー!! もー、何なの!? 青菜時々、結構ウザい!!」


 たんぽぽちゃんにウザいって言われると、心がモニョっとする。

 最近は特に。これってもしかして、恋!?


「違うと思うよ? 単純に、青菜くんがたんぽぽを妹だって認識し始めた証拠じゃない? ほら、異性の兄妹って、やたらと干渉したがるらしいし」

「だと思いました。僕がたんぽぽちゃんに恋心を抱いたら、事案ですもんね。いやぁ、危ないところでした」


「むきー! 事案ってなんだー!! 別に、ウチに恋したっていいじゃん! なんかムカつくから、青菜、ウチのこと好きになりなよ!!」

「たんぽぽ、何言ってるんですかぁ! 青菜さんはわたしの旦那様ですよぉ!」


 何やら、不毛な争いが始まってしまった。

 その様子を見て、にんまりな蘭々さん。


 ああ、悪魔神官蘭々さんだ、これ。


「青菜くんも覚えておくと良いよ。作戦の立案と言うのは、静かな部屋にこもって考えるのもいいけど、こんな感じで喧騒の中の方が、意外と妙案を思い付いたりするものなのさ。ぬっふふー」


「それは勉強になりますけど、そのために妹たちに姉妹げんかさせんで下さい」

「立っている者は親でも使えってねー」

「困った長女ですね。僕が止めて来ますよ」


 この後、結局デザートにパンケーキを焼いてあげて、芹香ちゃんとたんぽぽちゃんは甘いもの協定により、休戦と相成りました。


 はてさて、蘭々さんが本気モードで考えた作戦はどんなものなのでしょうか。

 僕も見て、しっかり勉強させてもらうつもりです。

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