第31話 お豆腐大好き蘭々さん! (噛むのが楽だから)
「へぇー! 麻婆豆腐にハーブですか!」
「うん! バジルとね、オレガノを入れて作ると、イタリアンな麻婆豆腐が作れるよ。レシピ書いてあげるね!」
「いつもありがとうございます」
ハーブ部で美鳥先輩とお喋り。
ただのお喋りが僕の料理スキルを押し上げてくれるのだから、これはもう一石二鳥。
「おー! 青菜よ、なんかアンチョビの麻婆豆腐とか言うがあるみてぇよ? クックパッド検索したら出て来たわ! うまそー!! これもそっち送るわ!」
今日は素行の悪いロナウジーニョこと、邦夫くんもサークルに参加。
見た目はヤンチャし放題なのに、キャンパスの中にあるカフェでサンドイッチをお土産に買って来ると言うジェントルマン。
そのサンドイッチを摘まみながら、ハーブティーで午後のひと時。
もう、完全にパリピである。
僕は大学生活を謳歌している!
「んで、青菜は新入生の友達できた? そろそろ講義とかでよく見かける顔とか、覚え始める頃だろ?」
「ああ、うん。顔と名前が一致する人は増えて来たかな」
「……おお? いや、だから、そっから声かけたり」
「声をかける!? いきなり!? そんなバカな!!」
「いや、お前。声をかける時にいきなりじゃねぇ時を俺は知りたいよ」
「青菜くんは恥ずかしがり屋さんなんだね。じゃあ、お友達はまだ少ないのかな?」
「はい。2人ですね」
「おぅ……。それはまた少数精鋭だねぇ。男の子? もしかして女の子かな?」
「邦夫くんと美鳥先輩ですよ」
「ちょっとぉぉ!! 横山くん! なんで青菜くんにお友達紹介してあげないの!? 可哀想でしょ! そう言えば、たまに学食で見かける時、いっつも1人だよ、彼!」
「いや、俺もまさか友達1人も増えてねぇとは思わなくて! マジかー。もっとちゃんと見ててやりゃあ良かった……。ごめんな、ごめんな、青菜ぁ」
2人が肩を組んで何かお話し中。
サークルの仲間の関係性が良好なのって、なんか良いですよね。
「青菜くん! 私で良かったら、いつでもご飯一緒に行くから! 呼んで! 本当に、お願いだから、呼んで!!」
「え、ああ、はい」
「青菜! 俺、今度お前と話が合いそうなヤツとっ捕まえとくからよ! 一緒にファミレスでゲームとかしようぜ! 大学生っぽく! なっ!? ……なっ!?」
「うん。邦夫くんが言うなら、付き合うよ」
再び2人が肩を組んでお喋り。
本当に気が合うんだなぁ。
「ちょっとぉぉぉ!! 横山くん! 思ってたより深刻なんだけど!? この感じだと、私が寂しい思いしないように、付き合ってあげよ、とか思ってるよ!?」
「それ言ったら、俺なんか、付き合ってやるって言われたんすよ!? こりゃあ深刻だ! 青菜のヤツ、てめぇがボッチになりつつある事実に気付いてねぇ!!」
そろそろカフェの仕事の時間だと言って僕が退席しようとすると、美鳥先輩が両手いっぱいのハーブを差し出してきて、邦夫くんが「せめて一緒に帰ろう」と泣く。
なんだかよく分からないけど、2人の悩みが解決すると良いなぁ。
◆◇◆◇◆◇◆◇
「おー。帰ったかねー、青菜くんー。おかえりー」
「ただいま戻りました。……蘭々さん? いつからカウンターにいるんですか?」
「ふむー。何故そう疑問に思ったのかを聞こうかー?」
「今日は蘭々さん、大学に行く予定がないって聞いてましたし、グラスに入っている牛乳が残り数センチまで減ってますし、何より頬っぺたの周りが湿ってます。これはどう見ても、2時にお店が閉まってから、2時間は同じ姿勢だったかと」
蘭々さんは、「おおー」と驚き、手を叩く。
違う、叩いていない! 叩いているのテーブルだ!! しかも音が弱々しい!!
「なかなかの洞察力だねー。あたしも鍛えたかいがあるよー」
「蘭々さんに言われる何だか複雑ですけど、ありがとうございます。もう少し丁寧に教えてくれたら心からお礼が言えるんですけど」
「いつも言ってるじゃないー。あたしをしっかり見て学ぶんだよってさー」
見て学ぶのハードルが高すぎて、蘭々さんの教えを理解するにはまだまだ時間が必要とされるでしょう。
ああ、よく見たら、パジャマとスリッパと女の人が寝る時に履くタイツが、行儀よく階段からお店のカウンターまで散らばっている。
この人、着替えながら移動したな。
そして、ちゃんとジャージに着替えて偉いなぁと思う僕は、少しだけ蘭々さんの出す毒素に侵され始めているのかもしれない。
「おー? おおー! 青菜くん、お豆腐買って来たのー?」
「さすがですね。まだ何も言っていないのに。イタリアン麻婆豆腐とか言う、なんだか美味しそうなレシピを邦夫くんが見つけてくれたので試そうかと」
「どこで買ったー? むむー。まめた豆腐じゃないかねー! 商店街の角にあるー! おおー! 青菜くん、分かってるなー!!」
すごい、蘭々さんのテンションが上がっている。
ぐでった状態でテンションが上がると、こうなるんだ。
とりあえず、ジャージのジッパーが開いた。
理由も意味も分からないけど、バイブス上がってるんだろうなって言うのは分かる不思議。
「邦夫くんと一緒に帰ったんですけど、美味しいおからコロッケ奢ってやるって言われて。本当に美味しかったので、豆腐もそこで買いました」
「うむー。君はとてもよく分かっておるー。まめた豆腐のお豆腐はもう、絶品なのだよー。そのまま何も付けずに食べても美味しいと言うチート豆腐だよー」
蘭々さんとの会話で、僕の豆腐IQがみるみる上がっていく。
それにしても、割と無頓着な蘭々さんが、こんなに食に対してこだわりを持つのも珍しい。
そうなると、理由を聞きたくなるのが人情。
「それはねー。噛むのが楽だからだねー」
考えをバッチリ読まれたうえに、割とどうでも良い理由だった。
まだイソフラボンによる豊胸効果が期待できるからとかの方が良かった。
「青菜くんー? あたしねー、この前間違えて、芹香のブラをお風呂場に用意してくれた事、まだ根に持ってるからねー?」
いらない事を考えると、それが全て伝わってしまう蘭々さんレーダー。
美味しい麻婆豆腐で許してもらおう。
「うむー。励みたまえよー。って言うかねー、ソフトボール入りそうなブラには、お姉ちゃん、イラっとするの通り越して、恐怖したんだよねー」
美味しい麻婆豆腐を作ろう! 蘭々さんのは豆腐多めで!!
◆◇◆◇◆◇◆◇
「うげぇー。麻婆豆腐だ。べ、別に辛いの苦手じゃないけどね!?」
「わたしは青菜さんが作ってくれたお料理なら、何でも食べますよぉー!」
「嘘つき! セリ姉、ピーマン食べられないじゃん! あとゴーヤも!」
「ピーマンはオラオラ系なのでちょっと趣味じゃないんですぅー! ゴーヤは、なんて言うか、見た目がタイプじゃなので!」
店を閉めて、食事の準備。
とは言え、夕方に作っておいたので、温め直すだけの簡単なお仕事。
「……はむっ。んー! なにこれ、あんまり辛くない! うましー!!」
「たんぽぽちゃん、唐辛子系の辛いのはダメだけど、ハーブ系は平気なんだよね。3人の好みも少しずつ覚えて来たよ」
「青菜さん、青菜さん! イタリアンにまで手を出したんですね! もぉ、このモテ男! でも、お料理の浮気ならいくらでも許しちゃう芹香ですよぉ!!」
「ありがとう。さて、豆腐マイスターの蘭々さんはどうかな?」
「青菜くん! これは大変良いものだね! 味も良し! 普通の豆腐料理では珍しいイタリアン! そしてイソフラボンによる豊胸効果! 君は今、豆腐界に新たな新風を吹き込ませたんだよ!!」
お気に召したようで、気合モードの蘭々さんにクラスチェンジ。
そして、新風を吹き込んだのはクックパッドの料理上手な人です。
お店のドアがカランカラン。
看板は閉店にひっくり返してあるから、カフェのお客さんじゃないのかな?
「あらぁん! 豆田さん、お久しぶりねぇ! ちょうど今日ね、うちの子がお宅の豆腐でお料理をねぇ!」
マスターのお客さんでしたか。
とりあえず、飲み物をお出ししなければ。
コーヒーの準備をしていると、マスターが叫んだ。
「ええっ!? お店
「おばあさん、詳しくお話聞かせてもらっても良いですか? このあたし、
お気に入りの豆腐屋が閉店すると言う。
蘭々さんが動かない理由がなかった。
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