第25話 たんぽぽちゃんの情報無双と介護無双

「ゔゔゔー。たんぽぽー。お姉ちゃん、もうダメかもしんないよー」

「ララ姉バカなんじゃないの!? ゼリー、ホントに丼いっぱい食べてんじゃん! あれ、比喩表現じゃん! 丼いっぱい食べたらそうなるよ!」


「ぐすん。たんぽぽには分かんないよー……。だって、年齢考えたらさ、たんぽぽもおっぱい無双じゃん……。お姉ちゃんもさー。男子とかにチラ見されたかった……」

「もー! めんどくさっ! 青菜ー! ウチもやっぱりそっちがいいー!!」


 その普段の3倍ぐでってる蘭々さん連れて来られるとこっちも困るんだよね。

 でも、たんぽぽちゃんがお仕事したいって言うなら、ちょっと任せちゃう。


「じゃあさ、たんぽぽちゃん。いつかみたいに、監視カメラ使って、美鳥先輩が当たり屋に絡まれた現場の映像って出せたりする?」

「うえー? そんな簡単に言うけどさー。そうそう都合よくカメラに映ってるとは限んないんだよー?」


 僕だって、ただ漫然と中仮屋なかかりや家の居候いそうろうをしている訳ではないのです。

 三姉妹の操縦法は何となく、既に掴みつつある。

 その手ごたえを今、確認する時!


「たんぽぽちゃんほどの凄腕でも無理なのかぁ。じゃあ、世界で誰にも出来ないって事だよね。そっかぁ、それじゃあ、諦めるしかないかぁ」

「べ、別に、できないとは言ってないじゃん! ふんす! ちょっと見ててよー! 曲山まがりやまさん、だいたいの場所教えて!」


 たんぽぽちゃんの導火線に着火完了。

 周りに油もたっぷり撒いておいた。


「あ、えっと。大学から出て、しばらく走ったところで。右手にローソンがあって、左手にファミリマートがある交差点なんだけど。ご、ごめんね、説明下手で」

「りょー! 全然平気です! んんー、この辺のカメラはー。良い感じのアングルのはー。むむ、こしゃくなー。あ、ローソンの駐車場にあるじゃん!」


 たんぽぽちゃんサーチが開始されました。

 こうなると、情報収集の匠となる彼女。

 明日はお礼に部屋の掃除の時間を2倍に増やしてあげよう。


「曲山さん、時間は!?」

「あ、それは覚えてる! ちょうど夜の8時だった!」

「りょー! ってか、時間が分かってるのすごい助かる! あとは、こっちのカメラに侵入してー。おー、ログ発見! あとは、巻き戻ってー。鮮明にしてー」


「あ、あの、青菜くん? たんぽぽちゃんって何者?」

「ハイパーメディアクリエイターです」

「その名前はヤメろー! せめてスーパーハッカーって言えー!!」


「って言うか、皆さんも。あの、ここってどういうお店なのかな?」

「あれ? 先輩、ご存じない?」


 これは初めてのパターン。

 美鳥先輩、『花園』の存在を知らないでここに来た様子。

 僕はてっきり、フラワーガーデンと店名を言った時点でお気づきかと思っていたのに。


 とりあえず、先輩に『花園』と言う名の困った人お助け隊がありますよとレクチャーしてみると、数秒遅れて、「ああ!」と彼女は叫んだ。


「えっ!? それって都市伝説じゃなかったの!?」

「ああ、この街に住んでいても完全に浸透している訳じゃないんですね」

「ごめんね。私、他県から御九郎ごくろうに入ったから、まだ3年と少ししかこの街に住んでないんだ。なんか、後輩の子がそういう噂話してたのを聞いたことはあったけど」


 僕と同じパターンだった。

 普通知りませんよね。こんな必殺仕事人みたいな組織があるなんて。

 他所から来たら絶対に信じませんよ。


 ……邦夫くん、知ってたなぁ。

 やっぱり邦夫くんはすごい。同じ他県出身なのに。

 そもそも、大学デビューで常にラジカセ抱えて歩こうって発想する人だもんなぁ。


「ふふーん! 青菜ー! みんなー! 映像出たよー! 曲山さん、確認して! この人、曲山さんで間違いないよね?」

「うわぁー、すごい! うん、これ私だ!」


「おっけ! じゃあ、悪そうなヤツらをアップにして、画質調整してー! はい、3人とも顔が出たー! そしたら、この画像を過去の悪いヤツリストで照会して!」


「あの、マスター? 悪いヤツリストって?」

「ふん、ふん! えっ!? ああ、リストね! 悪さするヤツって、だいたい繰り返す子が多いじゃない? だから、うちで扱った案件は、全部リスト化して、保存してんのよ! ふんふん、ふーん!! うるぅあぁぁぁ!」


 マスターはシャドウボクシングに忙しそうなので、再びたんぽぽちゃん。

 彼女は軽快にキーボードを叩いて楽しそう。

 ご機嫌な感じで何より。


「引っ掛かった! えっとね、御月見おつきみ組傘下の構成員! 要するに、街のチンピラだね! ヒットしたのは名前は矢盛やもりショウジ!」

「御月見組? なんか聞き覚えがあるような気が……」


「あんらぁ! まぁた御月見組ぃ? あの子たちも懲りないわねぇ!」

「あああ! マスターの裏メニューについて行った時の!!」


 記憶が蘇ると同時に、僕の普通な脳内コンピューターが1つの質実を導き出す。



 ヤクザじゃないですか!!



◆◇◆◇◆◇◆◇



「ヤクザさんですかぁ! 腕が鳴りますね! 頑張りましょー! 青菜さん、一緒にカチコミですよ! カチコミ! 楽しみですね! 共同作業ですよぉ!!」



 ちょっと芹香ちゃんの価値観と僕の価値観に相違が。

 良くないなぁ。全然楽しみじゃないんだもん。



「た、たんぽぽちゃん! 得意のサイバー攻撃で、ヤクザさんの事務所を異空間に移動させたりできないの!?」

「いや、青菜さー。パソコンがあればなんでもできると思ってんの? マジでそーゆうとこ、おじいちゃん感が半端ないんだけど!」


 そう言わずに、そこをなんとかたんぽぽちゃん。

 ヤクザさんの事務所にカチコミかける流れになっちゃうから。


「だ、だんぼぼー。お姉ちゃん、ちょっと、もうダメかもー」

「うえー!? だ、ダメだって、ララ姉! なんで急に前傾姿勢になるの!? ダメダメ、ここお店だよ!? 飲食店! ちょ、と、トイレ! トイレまで我慢して!!」


「たんぽぽちゃん!?」

「青菜! 緊急事態だから! あとはウチ抜きでよろしく! 事務所の住所と建物内のなんか色々、パソコンに出してあるから! 見ていいよ!」


「ゔゔー。お姉ちゃん、生まれ変わったら、ストロングおっぱいになるんだー……」

「ちょ、待って! ララ姉! お願いだから、もう少し我慢して! うあー、ヤメろー! なんでウチのおっぱい触んの!? ヤメろー! あー、もー!!」


 僕の命綱がたった今、おっぱい触られながら去って行った。

 残った命綱ですか?


「芹香ぁ? ワタシとどっちが多く狩れるか、勝負するかしらぁん?」

「ふっふっふー。パパ、もう年なんですからぁ! 無理しないでくださーい! ママ直伝の格闘術の前では、いかにパパとは言え無力なのです!!」


 見当たりませんね。

 えっ? そこに太いのが2つもある?

 ああ、この方たちですか。



 それ、命綱じゃなくて、ぶっといむちですね。防具じゃなくて、兵器。



「リーダーの青菜くぅん! 早く指示出しなさいよぉん! ワタシ、もう体が火照って仕方がないゾ!」

「マスター。お花のエプロンが汚れちゃいますよ」

「正義の鉄拳による血しぶきで汚れるなら、お花も喜んでるんだゾ!」


 僕がお花なら、枯れますかね。


「青菜さん、青菜さん! たんぽぽが出してくれた位置情報と、建物内の情報とか色々、まとめて青菜さんのスマホに送りましたよ! 確認して見て下さぁい!」

「芹香ちゃん、パソコン使えるんだ?」

「このくらい女子高生として当然のスキルですよぉ! わたし、毎日高校にお勉強しに行ってるんですよぉ? ふふふー、インテリな芹香ちゃんです!」


 何と言う高校の余計な教育。情報の授業だけ芹香ちゃんがマジメに受けてる!

 いや、もしかして、知らないうちに猛勉強を?

 一応確認してみましょう。


「芹香ちゃん、今の日本の首相って誰だっけ?」

「むぅ、バカにしないでくださいよ! 大統領は、織田信長でっす!!」



 日本が僕の知らないうちにえらい事になってた。



「じゃあ、行くわよぉん! あんたたち、ワタシの車に乗り込みな!!」


 そしてやって来る出陣の時。

 不安しかないです。


 【ミッション!】

 美鳥先輩の学生証を取り戻せ!

 そして先輩の心に平穏を!


「青菜くん、こんなに頼もしい人たちと家族だなんて、すごいね!」

「あ、はい。もう毎日、息つく暇もないですよ」



 邦夫くん、今、何をしていますか。

 僕は夕飯も食べずに、これから物理オンリーでヤクザの事務所に突撃です。


 無事に帰って来られたら、一緒に学食でご飯を食べましょう。

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