第18話 親友が囮になったら、本当に捕まった件

「闇金『黒酒場くろさかば』だね。ちょっと待ってー。はい、出たよー!」

「たんぽぽちゃんは偉いなぁ。それに凄いなぁ。可愛いなぁ!」


「や、ヤメろー! 急に頭を撫でるな! あ、青菜のくせに、なんだその大人みたいな態度ー!! もー! 横山さんの借金5倍にするよ!?」


 ちょっと悪ふざけしたら、邦夫くんがキングボンビーにかれたみたいになってる。


「お、おい、マジでヤメとこうぜ!? お前、やっぱちょっと変わったな!?」

「そうですよぉ! わたしの事も可愛いって褒めてくださいよぉ!!」

「芹香ちゃんも可愛い。そして強い。頼りになる!」


「えへへへへ。じゃあ、わたし戦闘服に着替えてきまぁす! 青菜さん、覗いても良いんですよぉ?」

「うん。今は大丈夫かな」

「……青菜。お前、俺の知らねぇ間に立派になって。浪人ってのは、そこまで人を成長させるもんなんだな。すげぇよ、お前」


 さて、情報は手に入ったし、攻撃手段も現在お着替え中ですが。

 どうやって攻略したものか、そこが分かりません。

 マスターは肝心な時にいないし。


 やはり、ここは蘭々さんを頼るしかないですね。


「蘭々さん! お知恵を貸してください! お願いします!」

「うぇー? お姉ちゃん、もう体力がないよー。今日大学に行ったしさー。あー。もう、このヒラヒラした服着るのもダルいー。たんぽぽー、脱がせてー」


 完全にぐでたまっている蘭々さん。

 困ったぞと頭を抱える僕に、たんぽぽちゃんがコンコンとパソコンのモニターを見せる。


 そこには「ララ姉、新しい抱き枕欲しいって!」と書いてあった。

 たんぽぽちゃんは、一番年下なのにすごく気が利くとっても良い子。


「蘭々さん! 今度、一緒に特上の抱き枕買いに行きますよ、僕! お給料貰ったばかりですから! もう、抱き心地バツグンのヤツ買って差し上げます!」


「青菜くーん。人をもので釣るのは良くないぞよー。ちょっと紙とペン貸してごらん? うむー。さらさらさらっとー。はーい。これ、どうぞー」


 字が汚いと言うか、字が眠っていると言うカオスなメモ書きをゲット。

 すぐに解析班に回す。


「たんぽぽちゃんは何でも出来てすごいなぁ。可愛いなぁ」

「や、ヤメろー! なんで急にウチの事を褒めだしたの!? そ、そーゆうのマジでめーわくだから!! あ、頭撫でるなー!!」


 プンプン怒りながら、たんぽぽちゃんが蘭々さんのメモを解析。

 1つのプランが浮かび上がった。


 邦夫くんをおとりにして、まずは借金取りを相手にひと暴れ。

 全員を捕縛したのち、経営者の情報を聞き出す。

 この手の闇金は、せいぜい中間管理職のポジションまでしか情報は上がっていないので、そのキーパーソンを黙らせたら問題なし。


 こういう人はメンツを気にするから、ほぼ確実に社長には報告しないよ、と結ばれていた。


「蘭々さん、ありがとうございます!」

「うむー。今度、抱き枕デート、楽しみにしてるからねー。怪我には気を付けて行っておいでー」


 ちなみにこの間、蘭々さんはカウンター席から微動だにしていません。


「あーおーなーさーん! 今、デートって聞こえましたけど!? デートして貰えるんですかぁ!? わたし!! 青菜さんと!! デート!!」


 何と言う聴力。

 面倒だけども、ここでノーと言ったら芹香ちゃんがいじけてしまうかもしれない。

 それは避けなければ。


「う、うん。今度ね。今度」

「わぁ! わぁ!! やりましたぁ! じゃあ、今日はとっても頑張っちゃいますねー!!」


「あれ? 横山さん? 生きてる? おーい」

「あ、生きてます。俺が囮すれば良いんすね。了解しました」


「邦夫くん? なんだか怖いものを前にした表情だけど。やっぱり作戦変えようか?」

「いや、大丈夫だ。つか、怖いものは今見てる。マジで、昼間、お前にマウント取ろうとした自分が情けなくて仕方ねぇよ。俺ってほんと、間抜けだよ」


 【ミッション!】

 邦夫くんを闇金の取り立てから救え!

 彼をハメた先輩も個人的には懲らしめたい!


 準備を整えた僕と芹香ちゃんと邦夫くんはフラワーガーデンを飛び出した。

 表の看板を「準備中」にするのも忘れずに。



◆◇◆◇◆◇◆◇



「じゃあ、俺んちあそこだから。行ってくるわ」

『おーい。みんな、聞こえるー? 今ね、近くの防犯カメラハッキングしてるんだけどさ。おっきい車見える? 軽自動車の横のヤツ!』


 例によって耳にはたんぽぽちゃん作・高性能通信機。

 そして邦夫くんのアパートの駐車場には、ハイエースが停まっていた。

 他に大きな車は見当たらないので、これの事だろう。


「見えるよ。たんぽぽちゃん」

『その陰にね、3人ほど黒い服着た男の人が隠れてる! 多分、横山さん待ってるんだと思うよ!』


「たんぽぽちゃん」

『え? なに? ウチ、なんか見落としてた!?』


「ううん。邦夫くんの事、ちゃんとさん付けで呼べて偉いなって思ってさ」

『なぁっ!? や、ヤメろー! 別に普通の事でしょ!? 年上の人なんだからー!』

「だって僕の事は呼び捨てだから」


『あ、青菜は特別なんだから、いいの!!』

「僕は特別だったのかぁ」


『ち、ちが!! もー!! ナビすんのヤメるよ!? 青菜のバカ、バカバカ!!』


 怒られてしまった。

 やっぱり中学生って難しいお年頃の様子。


「じゃあ、出るよ。俺に何かあっても、青菜は気にしねぇでくれ」

「邦夫くん……。絶対に君の事を助けて見せるよ!」


 そして三歩ほど踏み出したところで、早速邦夫くんが黒ずくめの男たちに囲まれる。

 どこかの組織みたいになってしまった。

 黒酒場という会社だからってわざわざ黒でキメなくても良いのに。


「おおい! ドレッドくん! てめぇ、借金して逃げるとか、良いご身分だなぁ!」

「ご近所のみなさーん! 今からぁ、借金踏み倒そうとした人を取り押さえますんでぇー! ご注意くださいねー!! あぶねっすよ、マジでー!」


 すごい。これが本場の半グレな人たち!

 先月の僕なら、迷わず交番に駆け込んでいただろう。


「ふっふっふー! 青菜さん、行って良いですか!?」

『セリ姉! 1人なんか長いもの持ってる! 武器かも!』

「ええー? 男の人が3人も集まって、嫌ですねー。じゃあ、わたしも念のため、武器を最初から携帯していきます!」


 鬼に金棒。

 芹香ちゃんにバール。


「僕、何したら良いかな?」

『青菜は見てて! 危ないから! 普通の人の出番はまだ先だよ! そのうちナビするから! ちゃんと集中はしててね!』


 こういう時に戦力になれないのがもどかしい。

 僕も通信空手を始めようかな。


 そんな悩みを吹き飛ばす、芹香ちゃんのアクロバティックな登場。

 塀に上ったかと思えば、タン、タンとステップを踏んで、空中で2回転。


 着地と同時に、2人に足払い。


「うおおっ!? な、なんだこいつ!? えぺゃっ」

「こんばんはー。お兄さんたち、お仕事お疲れ様でぇーす! 黒い服はとってもステキですけどぉ、わたしと色が被るので!! あと、黒って知的な色じゃないですかぁ。お兄さんたちにはちょっと、荷が重いかなって!」


 お喋りしながら無敵な芹香ちゃん。

 1人目を道路に転がしたあとに、2人目の調理へと取り掛かる。


「女ぁ!? はっ! こいつは良いぜ! ドレッドくん、女に頼ったのかぁ! 見たところ、結構いい体してんじゃねぇぴょんっけぇっ」

「もぉ! いやらしい目で見ないで下さい! そーゆう目で見て良いのは、青菜さんだけなので!!」


 2人目も倒れ伏す。


「おいおーい。やってくれちゃってんじゃんよ。ドレッドくんの頭、割るよ?」

「お、俺に構わず……! やってくれ……!」


 そしていつの間にか捕まっている邦夫くん。

 そんな、「俺に何かあっても」を最速で回収しないでも良いのに。


「…………」


 僕がどこにいるのかですか?

 人質になった邦夫くんの真後ろです。


 つまり、最後の黒ずくめの人の背後です。

 たんぽぽちゃんのナビに従って普通にしてたら、何故かこんなところに。



 青菜に塩。

 僕の手にもバール。



 次に何をしたら良いのかくらいは、僕でも分かります。


 ドキドキするけど、邦夫くん。

 君は僕が助けると言った、約束を果たすよ! 今、この手で!!

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