第19話 親友は見た目が変わっていてもやっぱり親友だった件

『いーい、青葉? 今目の前にいるヤツは、サイテーのヤツ! 未成年に売春させて半額以上を中間搾取してる世間のクズ! だから、あんたがやらなくても、いずれセリ姉がやってた相手だよ! で、でもでも、青菜が抵抗あるなら、別の方法で』


 たんぽぽちゃんは本当に優しい。

 僕が初めて人に対して攻撃行動を取ろうとしている意味を考えてくれている。


 もちろん、これまでの人生を振り返っても、人を殴った事すらない。

 バールでガツンなんて、言うに及ばず。


 そんな普通な僕だから、誰かに暴力を振るう事で、普通の青菜が枯れないか心配してくれている。


 だけど、僕だって決めたのだ。

 『花園』の一員として、正義を執行する意味と意義、そしてその行為が誰かを救うと言う大義。


 自分の手だけ汚さないなんて言うのは、きれい事ですよね。


「……ふぅぅぅ」


 大きく息を吐き出した。

 そして、バールを振り上げた。


「うりゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

「いでぇ!! って、てんめぇぇぇ!! ぶち殺してやる!!」


 しまった。どうやら叩き損ねた模様。

 全力で行こうと思うあまり、狙った頭からバールが滑って、肩の辺りにスマッシュヒット。


 通信空手を検討する前に、バールの振り方を芹香ちゃんに習っておくべきだった。


「青菜さん、ナイスです! あえて意識を残すとは、高等テクニックですね! あとはこの芹香にぃぃ、お任せ、あれっ!!」

「うっ、なんだお前!? おらぁ、ヤメろ、ごるぁ!!」

「特別におっぱい押し付けてあげたのに、なんですかぁ! 失礼な人です!!」


 芹香ちゃん、結束バンドでリーダー格の黒ずくめを無事に捕獲。

 相変わらず、素晴らしい動きで惚れ惚れする。


「今度、僕も本格的に芹香ちゃんの弟子になろうかな」

「えっ!? ええっ!? 青菜さん、わたしの弟子になるんですかぁ!? たんぽぽー、緊急事態です! 弟子と恋人ってどっちが親密なのか調べて下さぁーい!!」


『何してんの、青葉! 作戦中だよ! セリ姉の変なスイッチ入れないで!』

「う。面目ない。いや、僕は本心で言ったんだけどなぁ」


 改めて現場に視線を移して見ると、これは結構な大惨事。

 前回芹香ちゃんが大立ち回りを見せたのは人気のない路地裏だったから良かったものの、これは、いかにも通報して下さいと言わんばかりの絶景。


「どうしようか? たんぽぽちゃん」

『うぇー? んっと、待って! ちょ、ちょっと考える……え? ララ姉! 分かった、ありがとー! 青菜とセリ姉、あと横山さん! とりあえず、転がってる2つのクズと、意識のあるクズ、全員、横山さんの部屋に入れちゃおう!』


 どうやら蘭々さんの入れ知恵があった模様のアイデアは「えっ、自分の部屋だったら絶対嫌だなぁ」と思う反面、現時点で取り得る最適解であることは確実だった。


「邦夫くん、そっちの転がってる人、持てる?」

「ああ、行ける! 青菜こそ、そっちのヤツの方が重たそうだぜ?」

「平気だよ。浪人時代に土木工事のアルバイトもしてたからね」


「芹香さんに意識のあるヤツ任せて平気かよ?」


 邦夫くん。

 君は色々な事を知っているけど、『花園』について詳しくは知らないんだね。


 芹香ちゃんの手元にキーパーソンを置くのが最善策。


「ちょっとぉ! 早く歩いて下さい! 何してるんですか、もしかして地面を這うのが好きな方ですか!? そーゆうサービスのあるお店でやってください、もぉ! 社会のクズ的に、今更地面を舐めて取り繕おうなんて、考えられない往生際です! それに比べて、青菜さんのステキなところ! あ、聞きます? 聞きたいですかぁ? ちょっとぉ、ちゃんと聞いて下さいよぉ!!」


「いや、ちが、ひげぇ、ちょっと、まっ! 歩き、歩きます! あばっ がめすっ」


 そして、キーパーソンは芹香ちゃんの手中に収まったが運の尽き。

 とりあえず、今もボカスカ殴られている。


 とにかく、移動しなくては。

 ご近所の方に通報されたら面倒です。



◆◇◆◇◆◇◆◇



「ふぅー。これで良し、です!」


 芹香ちゃんが意識不明の半グレ2体を結束バンドでしゃちほこみたいに組み上げた。


「あの、早速なんですけど。あなたと交渉がしたいんですよ」

「はぁ!? てっめぇ、ぶっ殺ひゅんっ」


 あ、それはヤメた方が良いですよって言おうとしたのに。

 芹香ちゃんが勢いを付けた肘で半グレのリーダーさんの顔をガツン。


「青菜さんになんて口を利くんですかぁ!」

「す、すみません、ホント、すみません」


 まあ、交渉がしやすくなりましたね。

 結果オーライという事で。


「要するにですよ、ここにいる邦夫くんの保証しているお金。いくらでしたっけ?」

「な、70万なんだけど。俺も間抜けに騙されてごめんなさい」


 邦夫くんも結構引いてる。

 芹香ちゃんって恐ろしいなぁ。


 えっ、僕を見て? またまた、そんな、まさか。


「その70万はこちらで用意しますので、そのお金を持って帰って貰ったら、邦夫くんを保証人の名簿から消して欲しいんですよ」

「な、なんでも、おっしゃる、通りに!」


 なんでこんなにリーダーさんが素直なのかと言うと、ずーっと芹香ちゃんがニコニコしながらバールの先端で彼の顔をツンツンしているからです。


 さて、ここからはたんぽぽちゃんの出番。


『もう手続きしてるよー。横山さんの先輩、葉隠はがくれだっけ? 葉隠はがくれ参三さんぞうであってます?』

「お、おう。合ってます」

『こいつかー、悪いヤツめー! 忍者みたいな名前までしてー!! 貯金結構あるじゃん! 52万円もあった! こっちを吸い上げて、横山さんの口座に移動してー!』


 良い事を思い付いた。

 たんぽぽちゃんの指示を仰ごう。


「あのさ、残りはどこかの闇金で借りてもらうって言うのはどうかな? 邦夫くんをハメたワケだから、同じ目に遭ってもらって初めてノーカウントじゃ?」


『おけー! 青菜、相変わらず咄嗟の閃きがエグし! はい! もう他県に住んでるみたいだけど、住んでる街で一番金利と取り立てが酷い闇金からお金抜いて、葉隠って名義に貸した事にしといた! それを更に横山さんの口座に移動! 改ざん終了ー!』


 たんぽぽちゃんは実に有能。

 これが昨日、僕の作ったパンケーキを部屋で食べていたら、メープルシロップを服にこぼして、それを平然と制服のスカートで拭いた子と同一人物とは思えない。


「じゃあ、邦夫くん。コンビニでお金下ろしてきて! くれぐれも怪しまれないようにね! 君も見た目が大概アレだから!」

「お、おう! 行って来る!!」



◆◇◆◇◆◇◆◇



「へ、へい。これで確かに、金は貰った……すみません、頂戴いたしましたので、俺、いえ、わたくしめは帰ってもよろしいでしょうか?」

「あー! ちょっと待ってくださぁーい!」


「ひぎぃ!?」


 芹香ちゃんの「待った」は最強の脅し文句。


「あなた、未成年に売春させてるんですよね? それ、今日でヤメて下さいね? ヤメないと、住所調べて遊びに行っちゃいますよぉ?」


「ヤメます! もう、明日から誰にもご迷惑をおかけしません! し、失礼します! おら、てめぇら起きろ! 逃げるぞ! おらぁ!!」


 こうして半グレの人たちは帰って行きました。

 もう2度と会いたくないですね。


「あ、青菜ぁ! 俺、お前に助けられてばかりで! すまん! すまねぇ!!」

「何言ってんの! 小学生の頃から君が僕のヒーローだったじゃないか!」


「これから、大学生活で分かんねぇ事あったら、何でも言ってな? 俺、全力でサポートすっから! マジで!!」

「うん。これからもよろしく。邦夫くん」



 こうして、僕は親友と、新しくより強固な絆を結び直す事と相成った。


 明日からの大学生活では、きっと良い事がありそうな予感がする。

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