第8話 蘭々さん起きる! それはそうと、隙あらば仕事辞めたい
明けて翌日。
「ねーねー、
「たんぽぽ、ダメですよぉ! 青菜さんにはわたしが先に中華まん作ってもらうんですからぁ!」
いよいよもって、僕の考えが深刻なリアリティを身に
「あぁんらぁー!
「べ、別に、ウチは、たらされてないもん! 青菜がオヤツ食べてって言うから、仕方なく付き合ってあげてるだけだもん!!」
「わたしはたらされましたぁー!! 青菜さん、とってもステキですぅー!!」
辞めたいってもう言い出せる状況じゃなくなってませんか?
部屋は片づけられないのに、社会のゴミはテキパキ片づけるたんぽぽちゃん。
既に2つもとんでもないフラワーガーデンの秘密を知ってしまっている。
この状況で「やっぱり辞めます」って言ったら、どうなるだろうか。
僕の貧困な発想力でも、なんとなく分かる。
芹香ちゃんにバラバラにされて、たんぽぽちゃんに社会から追い出される!!
大学の入学式まであと5日もあるのに、僕のキャンパスライフは花が開く前に
あの苦しかった浪人生活は何だったのだろうか。
ああ、こういうのが
カラオケでは徒花ネクロマンシーを歌うと言っていた邦夫くん。
僕は君と一緒にゾンビランドサガの二期を見ることは叶わないようです。
推しのさくらちゃんの事は任せます。
僕の棺桶には宝物の缶バッジを入れて下さい。
◆◇◆◇◆◇◆◇
「うましー! 青菜のパンケーキ、うましー!! なにこれ、シロップと生クリームのダブルとか! 発想がヤバい! 超ヤバい!」
「わぁ! 中華まんって言うから肉まんかと思ってたら、なんですかこれ! 中に入ってるの、かに玉ですかぁ!? すごいです! 写真、写真! たんぽぽ、撮って下さい!」
またしてもアルバイトで鍛えた腕を振るってしまった。
あああああ、僕がどんどんフラワーガーデンの一員になっていく。
「ふぁぁぁあー。おはよー。あれぇ、何してんのー、みんなしてー」
「ララ姉、また爆睡してるじゃん! いい加減時間を有効活用しなよ!」
「お姉ちゃん、お腹空いてますか? 青菜さんのかに玉まん食べます?」
長女の
そう言えば、昨日は結局一度も見かけなかったなぁ。
きっとこの人も『
「うんにゃー。あたしはね、ずーっと寝てたよー」
「えっ!? あれ!? 僕、今声に出してました!?」
「えーっとねー。1時に寝たから、んー? まあ、そこそこ寝たねぇー」
現在、お昼の2時過ぎである。
蘭々さんの言う1時が昨日の深夜だと換算すると、おかしいな、どう計算しても24時間以上寝てる事になるけど。
僕の頭が悪いのかな?
「おおおー。美味しいねぇ、これー。青菜くん、もうお父さんの跡継ぎなよー」
「すみません。蘭々さん。会話のテンポが何だか歪んでいるんですけど」
「あー、これはね、ララ姉の仕様だね! ララ姉、起きてからしばらくは頭が働かないから!」
「それからですね、お姉ちゃんは起こされなかったら、2日でも3日でも、平気で寝ちゃう人なんです!」
きっと蘭々さんも何かしらすごい異能を持っているはず。
そのはずなんだけど、ちょっと待って欲しいかな。
3日寝続けることが出来る時点で、結構な勢いの異能者だと思うんだけど!
「んー。今日はねー。お仕事の依頼が入ってるからねー。たんぽぽがメールしてくれたんだよねー。今日の14時半だっけー?」
えっ、寝ながらメールの確認したんですか!?
「まあ、それくらいなら簡単だよー。コツさえ掴めば青菜くんもやれる、やれるー」
「あ、あれ!? ちょっと待って下さい!? やっぱり僕、喋ってないですよね!? なんで会話が成立してるんですか!?」
「おおおー。このかに玉まん、いくらでも食べられちゃうねー」
なんで声に出したら会話が成立しないんですか!?
「あはは、お姉ちゃんはですね、すっごく頭が良いんです! 洞察力って言うんですかぁ? 人の動きとか、仕草で考えを読んだりできるんですよぉ!」
「ララ姉はチートだよ! でもね、その分、対価として生活力の全てを失ってるの」
うわぁ。もしかして、蘭々さんの部屋もむちゃくちゃ汚いんじゃ……。
「うんにゃー。あたしの部屋は物がないから、いつでも清潔だよー」
「どういう仕組みで僕の思考が読まれてるんですか!? ちょっと怖いんですけど!? ついにエスパーとか、そういうオカルティックなヤツが出るんですね!?」
三姉妹が全員で笑う。
「嫌だなぁ、青菜さん! そんな、超能力者なんている訳ないじゃないですかぁー!」
「そうだよ、青菜! ウチら、普通の女子だしね! 失礼しちゃうんだけど!」
「そうそう。変に色々考えると、ハゲちゃうよー?」
僕の人生の中で超能力者に最も近いお三方が、何か言っている。
不意に、お店のドアが開いた。
カランカランと来客を知らせる。
カフェのカランカランは良いものだと思う。
なんだか、
「あらぁー。あなた、蘭々が約束してた子ね? まあ、緊張しないで、お入んなさいよ! コーヒーサービスするから! 青菜くん、ご案内してあげてぇん」
「あ、分かりました。どうぞ、こちらに」
「……すみません」
年は20代半ばくらいだろうか。
実に陰鬱なオーラが垂れ流されている。
きっと、この女の人も何かしら、世の中に
そう思うと、力になってあげたいとは思う。
しかし、ただの一般人な僕に出来る事なんてありはしないだろう。
「そんなことないよ、青菜くん。君には今回、あたしの作戦に加わってもらうからね。同席して、話を聞いてくれる? はい、頼りになるお姉さんの隣にどうぞ!」
あの、この方はどなたで?
「ひどいなぁ! あたしは蘭々でしょ! どこからどう見ても!」
「えっ!? さっきまで、ぐでたまみたいになってた蘭々さん!?」
後ろのカウンター席から、説明が飛んでくる。
「ララ姉は覚醒するとそーゆう風になる仕様だから! ちなみに、その状態のララ姉、超すごいよ!」
「お姉ちゃんのマネは出来ないですねー。うちの自慢の長女です!」
2人の異能者が異能者だと言う蘭々さん。
そして、いつの間にか今回も普通に巻き込まれているのが僕。
これはもしかすると、生まれ持っての性分からは一生逃げられないのかもしれない。
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